ME-1000の写真
Victor  ME-1000
MONAURAL POWER AMPLIFIER ¥1,500,000

1991年にビクターが発売したモノラルパワーアンプ。ビクターは伝統的にプリメインアンプに多くの優れた
モデルを出してきたブランドですが,セパレートアンプにおいても,個性的なモデルをいろいろ出してきてい
ました。また,「ラボラトリーシリーズ」と称して,アンプに限らず,実験的に新技術を投入した意欲作も出し
ていました。ME-1000も,そうした「ラボラトリーシリーズ」の1台で,ビクターの歴史上でも最大級といえる
パワーアンプでした。

ME-1000の最大の特徴は,その筐体構造にありました。強力なドライブ力を持つパワーアンプにおいて
は電源部を初め各部が大きく重量級になってきますが,それを支えるシャーシを初めとする筐体が重要に
なってきます。パーツや筐体の振動が音質に与える悪影響もよく知られているところです。ME-1000では
重量33kg(!)もある超重量級の鋳鉄シャーシを採用していました。シャーシが音質に与える悪影響を排
除するため,鋳鉄を採用し,理想に近い振動減衰特性を実現していました。パワーアンプとして4大メカニ
カルパーツである電源トランス,電源コンデンサー,ヒートシンク,フットをダイレクトに鋳鉄シャーシに取り付
けていました。また,電源トランスやヒートシンクなどの振動源となる部品は通しボルトによってシャーシにさ
らにガッチリ固定され,振動を抑えるようになっていました。

鋳鉄シャーシ

出力段には,ビクター自慢の「アドバンスドスーパーA」が採用されていました。原理的にスイッチング歪み
のないA級動作の音を効率よく実現するために,入力信号の大きさに合わせて駆動電流を変化させる可
変バイアス方式「スーパーA」を進化させたもので,従来は最終段のパワートランジスターをドライブするド
ライバー段に流れていた余分な電流を排除してリニアリティを高め,電源電流の2次歪みの影響を極限ま
で抑え込んでいました。これらの結果,ハイパワー&ハイクオリティの両立が図られ,クロスオーバー歪,
スイッチング歪,出力トランジスターの非直線歪も排除され,出力段インピーダンスの広帯域化と安定化
が実現され,出力回路の無帰還動作が可能となり,ローレベル時においても歪み感が少なく,ダイナミッ
クが音が実現されていました。さらに,出力段の温度を検出し,この温度をもとにしてモジュール化された
「アドバンスドスーパーA回路」の温度コントロールを行い,遠隔的な高精度の温度補償が実現する「リア
ルタイム・サーもトレーサー」が搭載されていました。
出力段の構成は,バイポーラトランジスターの4パラレルプッシュプルで,上述の「アドバンスドスーパーA」
に加え,余裕のある電源部とあいまって,250W/8Ω,1000W/2Ωというハイパワーを高い安定度で
確保していました。

ME-1000には,ビクター自慢の「Gmサーキット」が採用されていました。「Gmサーキット」は,トランジス
ター本来の特性である電流増幅機能をそのまま使うために開発された電流増幅回路で,信号電圧を電流
に変換して増幅し,再度電圧化して送り出すもので,電圧・電流変換を応用し出力段を定電圧駆動するこ
とで出力インピーダンスを低減させ,周波数をフラットに保たせるはたらきをしました。これにより,スピーカー
のインピーダンス変動や逆起電力に影響を受けにくい出力段となっていました。また,バランス入力をマイナ
ス・プラス両入力信号を電流モードで演算することで,高CMRR(同相信号除去比。二つの入力端子に同相
信号を加えたときの利得と差動信号を加えたときの利得の比。差動利得が大きく,同相利得が小さいほど
CMRRは大きくなり,理想アンプに近いものとなる。)のバランス入力回路が無調整で実現されていました。

ME-1000の内部ME-1000の電源部

電源部は,大型の電源トランスが搭載され,AC1次側を2次側と分離させるために2BOX構造として,1次
側は鋳鉄シャーシ前方下部に独立一体成形された鋳鉄製のBOX構造がとられていました。30Aの大容量
整流ダイオードをプラス側マイナス側を独立してブリッジ回路として,瞬間電流供給能力が高められていまし
た。これらの強力な電源部により,2Ω負荷時1000Wの大出力を余裕を持って実現していました。さらに,
AC100Vの電源ケーブルは,当時最大級の3.5m3の 6N材を使用したケーブルが搭載されエネルギー
供給がしっかりと確保されていました。また,低インピーダンス負荷時に備え,2基の冷却ファンも設けられ
ていました。

以上のように,ME-1000は,ビクター久々の大型のパワーアンプとして,各部にしっかりと物量が投入さ
れた力作でした。振動対策から電源部までしっかりと徹底された設計は,モノラル機ながら83kgにも及ぶ
重量に表れ,超弩級機といえる仕上がりとなっていました。ハイパワーアンプながら,ローレベル時にも濁
りが少なく,明るく躍動感のある音は,音楽を楽しく聴かせる魅力あるものでした。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



Isolated Power Train
=無干渉エネルギー増幅。
この新発想が,高純度な
音楽エネルギーを可能に
しました。


◎超重量級・高剛性シャーシによる振動モー
 ドの一元化。
◎クオリティ&パワーの両立。独自のアドバンスド
 スーパーA。
◎動特性を徹底して重視したニューGmサーキット。
◎業界初,リアルタイム・サーモトレーサーを採用。
◎2BOXコンストラクションAC1次分離強力電源部。




●主な仕様●

定格出力 250W(8Ω負荷,20Hz〜20kHz,0.05%)
1000W(2Ω負荷,1kHz,0.5%)
全高調波歪率 0.05%(定格出力時,20Hz〜20kHz,8Ω負荷)
混変調歪率 0.05%
周波数特性 2Hz〜200kHz(+0,−3dB)
負荷インピーダンス 2〜16Ω
ダンピングファクター 150(1kHz,8Ω負荷)
入力感度 1.59V(定格出力時)
入力インピーダンス
バランス47kΩ/アンバランス47kΩ
S/N 122dB(入力ショート定格出力時)
100dB(入力1kΩ 1W出力時)
電源 AC100V(50Hz/60Hz)
消費電力 700W(電気用品取締法基準),3.1W(STANDBY時)
寸法 460W×288H×572Dmm
重量
83kg


※ 本ページに掲載したME-1000の写真,仕様表等は1995年5月のVictor
 のカタログより抜粋したもので,日本ビクター株式会社に著作権があります。
 したがって,これらの写真等を無断で転載・引用等することは法律で禁じられ
 ていますのでご注意ください。

  
 
 
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