LUXMAN MS-10
BOOKSHELF SPEAKER SYSTEM ¥38,100
1979年に,ラックスが発売したスピーカーシステム。ラックスは,戦前からある歴史のあるオーディオブランドで,トランス
フォノモーター,クリスタルピックアップ,ファイファイアンプなどの製造をしていました。戦後,管球アンプを初めとするアンプ
の分野に多くの製品を輩出し,高い評価を得ていました。そのため,どうしてもアンプメーカーのイメージが強いブランドで
したが,1970年代後半に入り,アンプ以外の機器,カセットデッキ,アナログプレーヤーなどの分野にも力作を発売してい
き総合オーディオブランドをめざしていきました。しかしスピーカーに関しては,最も後発で,このMS-10がスタートでした。
MS-10の最大の特徴は,新素材の積極的な採用にありました。スピーカーの振動板はもともと,剛性,内部損失,加工
性等のバランスがある程度とれた紙パルプが用いられてきましたが,1970年代に入り,カーボン,アルミ,発泡ポリスチ
レン,ポリマー・・・と様々な素材が振動板の素材として用いられるようになり,各社が挑戦していきました。そうした中,ラッ
クスも,当時,新たにスピーカーを開発,発売するにあたり,各ユニットの振動板に新素材を採用して製品化し,自らの特
徴を打ち出していこうとしていたと思われます。MS-10は,新素材を採用した2つのユニットを搭載した2ウェイのブックシ
ェルフ型システムとして作り上げられていました。
ウーファーは,20cm口径のコーン型で,2種以上の複合材質からなるアラミド繊維系プラスチックコーンが採用されてい
ました。アラミド繊維は,防弾チョッキにも使用される軽量で強度の高い繊維で,最近ではイギリスのB&Wのスピーカー
などで有名ですが,国産スピーカーでは,ラックスが最も早く採用していました。ウーファーの振動板は軽量で弾性率の
高いアラミド繊維による織目の粗い網状のネットに,同じく軽量で弾性率が高く,しかも内部損失が大きい特殊な塗布
剤をコーティングし,これを加熱成型したものでした。ネットと塗布剤はいずれも軽量で,従来の紙パルプコーンに比較し
て半分の重量に軽量化され,弾性率についても,素材自体の弾性率が高いうえ,構造的な要素も加わり,剛性が高め
られていました。内部損失については,素材がある程度の内部損失をもち,ネットにコーティングする塗布剤が吸収エレ
メントを形成し,全体の内部損失を十分に大きくできていました。また,この吸収エレメントはネット全体に規則的に分布
し,内部損失の分布も一様で,周波数特性のピーク,ディップも少なくなっていました。このようにして,吸収エレメントの
大きさとこれを形成する塗布剤の内部損失によって,一般的に相反することになりやすい剛性と内部損失のバランスが
ある程度自由にコントロールでき,相反する条件を兼ね備えたすぐれた特性の振動板が完成されていました。この振動
板の採用により,中・高域での共振が抑えられ,また,振動板固有の共振による不要輻射音の発生が少なく,癖の少な
い音が実現されていました。さらに,紙パルプに比較して,湿度変化の影響を受けにくく,安定した特性が確保されていま
した。
ダンパーにもコーンと同じ素材を採用し,すぐれた追従性,応答性を確保するとともに,制御能力も高められていました。
エッジは,ポリウレタン・フォームを採用し,ハイコンプライアンス,低fo(最低共振周波数)が確保され,トランジェント特性
が高められていました。また,ブリッジ状に成型したアルミダイキャスト製のバーアーム型の本格的なフレームを採用する
とともに,ダンパーの裏側で生じる空気歪みを低減させるために通気孔をあけるなどの仕組みもとられていました。
トゥイーターは,25mm口径のドーム型で,振動板には,ポリエステルフィルムをベースに成型されたものが採用されてい
ました。プラスチック系の素材であるため,ウーファーのプラスチック系コーンとのつながりもよく,ドーム型で指向特性も
すぐれていました。特性的には1kHz〜20kHzとオーソドックスな設計ながら,従来のマイラー系やフェノール系のドーム
型に比べて,素材特有の癖も抑えられていました。
マグネットには,外径70mm,内径36mm,厚さ10mmの大型フェライト・マグネットが採用され,11,000ガウスの磁束密
度が確保されていました。ボビン材には,ノーメックス(デュポン社製のアラミド系繊維・耐熱性が高く,消防士の防護服な
どにも使用される)が採用され,大きなパワーハンドリングとキャパシティが実現されていました。
エンクロージャーは,マルチ・ベント・チューニング方式が採用されていました。これは,密閉型のエンクロージャーを基本に
箱の背面に複数個の小さな孔をあけ,箱の中の空気圧を適切な状態に減らすもので,密閉方式とバスレフ方式の両者の
特徴を併せもつものでした。この方式によって,密閉型に比べ,コーンに対するプレッシャーのかかりすぎがなくなり,トラン
ジェント特性が高められていました。また,foを可聴帯域外(18Hz)へ追いやり,Qも十分に低く抑えられていました。また,
ダクトによって意識的に共振点をつくり,低域の再生帯域を伸ばすバスレフ方式にありがちな,コーンの非対称動作による
音の癖も抑えられていました。
エンクロージャーのサイズは,大きくもなく小さくもない適切な大きさのブックシェルフ型を基本に,スピーカー・ユニットの大き
さに合った大きさを機能的に検討し,物理特性と音響特性の両面からバッフル効果を抑えたスリムなスタイルに決められて
いました。
エンクロージャーの材質は,ハイダンプド硬質パーティクルボードを採用し,内部には吸音効果が高く,パーティクルボードの
振動を効果的に抑えることができるスーパーシール(粘弾質含有発泡吸音材)を貼付し,エンクロージャーからの不要輻射
が低減されていました。
クロスオーバーネットワークは,基本的には,ローパス側,ハイパス側とも−18dB/octのフィルターによって構成され,フィ
ルターとして理想に近い動作をさせるために,各ユニットのインピーダンス変化率に応じたドライブができるように設計されて
いました。また,ユニット相互間の干渉を少なくするために補正回路が設けられ,クロスオーバー周波数付近のマスキング
効果の発生が抑えられていました。
コイルには,直流抵抗の少ない低損失タイプを使用し,コンデンサーには,メタライズド・フィルム型を採用するなど,素子の吟
味も行われていました。また,スピーカー端子は,リード挿入型の大型のターミナルを採用し,太いケーブルにも対応していま
した。
以上のように,MS-10は,ラックスがスピーカーに乗り出していくにあたり,ユニット,エンクロージャーなど,独自性を持った
設計を行った意欲作でした。重量感や迫力はあまり強くないものの,おだやかなバランスのとれた音は,音楽を聴くスピーカー
としてよく考えられたものでした。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



◎アラミド繊維系プラスチック・コーン
 による中・低域ユニット(C2038K)
◎中・低域ユニットとのつながりを重視
 した高域ユニット(D2501F)
◎マルチ・ベント・チューニング方式による
 ブックシェルフ型エンクロージャー
◎フィルターとして理想的な動作をする
 クロスオーバー・ネットワーク
◎信頼性の高いケーブル接続用端子




●MS-10 SPECIFICATION●

型式 ブックシェルフ・マルチベント・チューニング方式
使用ユニット 中・低域用:20cm口径アラミド・コーン・ウーファー
高域用:25mmポリエステル・フィルム・ドーム・ツイーター
再生周波数帯域 50Hz〜20,000Hz
最大入力 60W
定格入力 25W
出力音圧レベル 88dB/W/m
クロスオーバー周波数 3,000Hz(−18dB/oct)
インピーダンス 6ohms
外形寸法 250W×540H×260Dmm
重量 11.5kg
※本ページに掲載したMS-10の写真,仕様表等は1979年3月
 のLUXのカタログより抜粋したもので,ラックス株式会社に著作
 権があります。したがって,これらの写真等を無断で転載,引用
 等をすることは法律で禁じられていますのでご注意ください。

                        
 

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