Nakamichi 1000
3HEAD CASSETTE SYSTEM ¥278,0001973年に中道研究所(現ナカミチ)が発売した3ヘッドカセットデッキ。世界で初めてカセットデッキの
3ヘッド化を実現した画期的な1台で,当時,世界のテープメーカー,デッキメーカーが買い込んでリファ
レンスとなった伝説的な名機でした。1000の最大の特徴は,前述したように,世界で初めて3ヘッド化を実現していたことでした。1000の
3ヘッドメカニズムは,その後のナカミチのデッキに受け継がれていった「完全3ヘッド方式」で,いわゆ
るコンビネーション録再ヘッドではありませんでした。カセットハーフの開口部をうまく利用して再生ヘッ
ドを中央に,録音ヘッドを小さな窓から,入れる構造とすることで,完全に独立した3ヘッド構成を実現し
ていました。早くから磁気ヘッドを自社生産していたナカミチは,1000専用にヘッドを開発し,録音には
ワイドギャップ(5μ)のフェライトヘッド,再生には,ナローギャップ(0.7μ)のクリスタルパーマロイヘッ
ドを搭載していました。また,消去ヘッドにはフェライトヘッドを搭載していました。3ヘッド化によって,カ
セットテープでは世界で初めて録音中の同時再生モニターが可能となっていました。
1000は,3ヘッド化によって35〜20,000Hz±3dBというすぐれた周波数特性を実現していました
が,さらに完璧を期すために,後のナカミチのデッキの特徴でもあった,アジマス調整機構をすでに備
えていました。400Hzのテストトーンを使って「アライメント・ビーコン」の2つのLEDが交互に点滅する
ように調整すると録音ヘッドのアジマスを再生ヘッドに正確に合わせられる仕組みになっていました。
テストトーン,アジマス等の調整部は,カセットリッド上のリッドを開けると現れるようになっていました。走行系も,当時としては驚異的な高精度を実現し,ワウ・フラッター0.05%以下(WRMS)を実現し
ていました。カセットテープの寸法上,限界にまで大きく重くしたスタガー方式のフライホイールを搭載
し,テープテンションを常に一定に保つクローズドループデュアルキャプスタン方式を採用していました。
また,フライホイールと軸受けは精密加工により一体化され,キャプスタンモーターには,パルスコント
ロール方式のDCサーボモーターが搭載されていました。以上のように,カセットテープデッキとして,
当時の技術水準を遙かに超えた限界ともいえる高度なメカニズムが投入されていました。ナカミチが
コンピューター用デジタルカセットメカニズムの生産で積み上げてきた高い技術が生きていたといわれ
ています。テープ走行の操作系は,すでにICロジックコントロールを搭載し,フェザータッチで録音,再生,早送り,
巻き戻し等の各操作がテープへの負担やノイズなどの心配なく,安全に素早くできるようになっていま
した。ノイズリダクションとしては,ドルビー(Bタイプ)を搭載し,さらに,再生時にノイズ低減効果のあるDNL
(Dynamic Noise Limiter)を搭載していました。2つを併用すると13dB(10kHz)のノイズ低減効
果が得られるようになっていました。また,後部パネルにレコード・レベルキャリブレーションのツマミが
あり,400Hzの内蔵テストトーンを使って,EX,SXそれぞれテープポジションごとにL・R独立で録音・
再生レベルを調整することができるようになっており,ドルビーNRによる自己録再における完全な動作
を実現していました。同社のプレステージモデルとして,入力端子は豊富に備えられ,背面パネルにMRCAのLINE端子の
他にDINの入出力端子,DINのマイク端子,前面にL・Rのマイク端子,BLEND(MONO)のマイク端
子がついていました。LINE入力,L・Rのマイク入力,BLENDマイク入力はそれぞれ独立してレベル
コントロールが備えられていました。以上のように,Nakamichi1000は,世界初の3ヘッドデッキとして,「カセットでオープンリールの音を」
の設計ポリシーのもと,当時考えられるだけの技術を投入して作り上げられた,芸術品のような1台でし
た。実際,1台1台実測データが添付されて販売されていました。カセットデッキの歴史を飾った名機だっ
たと思います。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
●主な規格●
電源 | 100V 50/60Hz |
消費電力 | 最大60W |
テープ速度 | 4.8cm/秒 |
ワウ・フラッター | 0.05%以下・WRMS |
周波数特性 | 35〜20,000Hz±3dB(SX,EXUテープ) |
総合S/N比 | 65dB以上(ドルビーNRin,WRMS,CCITT,400Hz,3%歪) |
総合歪率 | 1.5%以下(400Hz,0dB) |
消去率 | 60dB以上(1kHz,飽和レベル) |
チャンネルセパレーション | 35dB以上(1kHz,0dB) |
バイアス周波数 | 105kHz |
トランジスター | 134 |
ダイオード | 68 |
IC | 9 |
入力 | (マイク)0.5mV 600Ω
(ブレンドマイク)0.5mV 600Ω (ライン)100mV 47kΩ (DIN)10mV 27kΩ |
出力 | (ライン)1.0V(0dB,アウトプット・ボリューム最大)
(ヘッドホン)1mW/8Ω |
寸法 | 526(巾)×298(高さ)×219(奥行)mm |
重量 | 約17.5kg |
※本ページに掲載したNakamichi1000の写真,仕様表等は1973年
の中道研究所のカタログより抜粋したもので,ナカミチ株式会社に著作
権があります。したがって,これらの写真等を無断で転載・引用等する
ことは法律で禁じられていますのでご注意ください。
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