Nakamichi410
PRE-AMPLIFIER ¥70,000
1976年に,ナカミチが発売したプリアンプ。テープデッキのブランドとしてスタートしたナカミチは,1976年頃
からアンプの分野にも進出し,レシーバーの730,コントロールアンプの610を発売するなど,アンプ分野でも
すぐれた技術を示していました。特に,コントロールアンプ610は,スラントした独特の筐体にミキサーとプリア
ンプをミックスしたようなユニークな設計が行われていました。410は,基本的な技術を受け継ぎつつオーソドッ
クスなプリアンプに徹した設計とされ,シンプルながら高い性能を持つ1台として発売されました。
410は,イコライザーアンプとしてのRIAA偏差の精度だけでなく,歪み特性,SN比を徹底的に向上させ,プリ
アンプの存在を感じさせないような色づけのないきれいなゲインを追求した設計が特徴でした。テープデッキと
いう録音再生機器を作ってきたナカミチらしい設計思想とも言えたと思います。
SN比への影響が最も大きい初段回路には,「トリプルトランジスターサーキット」という独自の回路が採用され
ていました。この回路は,トランジスターのベース入力抵抗が発生する熱雑音を低く抑えるためのものでした。
実際のイコライザーアンプの回路では,信号源インピーダンス(カートリッジの入力インピーダンス)が直列にベ
ース入力抵抗に加算され,信号源インピーダンスの値がベース入力抵抗より大きい場合(例えばMMカートリッ
ジなど)では,信号源インピーダンスによって生まれる熱雑音の方が大きいため,熱雑音はあまり問題になりま
せんが,MC型カートリッジなど信号源インピーダンスが非常に小さい場合には,ベース入力抵抗がSN比に及
ぼす影響が大きくなるため,「トリプルトランジスターサーキット」の効果が大きくなります。この「トリプルトランジ
スターサーキット」により,ベース入力抵抗は3分の1となり,熱雑音も√3分の1に低減されていました。あわせ
て,電流性雑音の少ないトランジスターを採用し,SN比は約10dB改善されていました。
初段,2段目ともにエミッタ接地増幅が採用され,出力段は,コンプリメンタリーA級プッシュプル回路となってい
ました。通常,プリアンプには,NF回路を構成しやすい差動アンプが多く採用されていますが,410では,差動
トランジスターの内部抵抗による小音量時の非直線性歪の発生や,ノイズの上積み等の問題を避けるため,
バッファーアンプが採用されていました。これは,小音量時,小出力時の特性がアンプの実使用時の音質に影
響が大きいと考えた設計でした。差動アンプでは,NFループ外の差動用トランジスターが内部抵抗を持ち,小
音量時にこの内部抵抗がNFループ内の抵抗に比べて大きな値となると非直線性歪が発生するという問題点
がありました。そのため,差動アンプすなわち差動用トランジスターを排し,その内部抵抗もゼロとすることで,レ
ベルの変化による再生音への影響を抑えていました。
回路に加え,パーツの面でも配慮が行われていました。要所要所には,トランジスターよりも高価な金属皮膜抵
抗,高精度コンデンサーが多用され,入出力ピンジャック基板には,厚さ3mmの錫メッキ銅板を,またプリント基
板はすべてエポキシ系プラスティックとされるなど,贅沢な内容となっていました。また,パーツレイアウトも,フラ
ックスの影響がきわめて少ないものとなっていました。これらの配慮もあり,歪率0.003%以下,入力換算雑
音−140dBというスペックが実現されていました。
小出力の信号を扱うプリアンプでは,電源部の磁束のリーケージフラックスによる干渉が問題となりやすいため
電源トランスとして,トロイダル・オリエントコア使用の電源トランスを搭載し,外部へのリーケージフラックスをほ
ぼゼロに近く抑えていました。また,プリアンプとしては大容量の電源部となっていました。

ボリュームには,22接点,2dBステップ,L・Rエラー0.5dBという,高精度のディテントボリュームが搭載され,
小音量時にもL・Rバランスのくずれが目立つことのない音量調節ができるようになっていました。
トーンコントロール回路は,アンプ回路とは別基板にして完全に独立させており,トーンスイッチを押して初め
て動作するシステムとなっており,フラットアンプとしての完全な動作も考慮されたものとなっていました。トー
ン可変範囲は低域20Hzで±9dB,高域20kHzで±9dB,ゲインは1となっており,トーン回路を切っても音
量変化は生じないようになっていました。
その他,機能的には,トランジスターによるアクティブ回路で低域共振をカットするサブソニックフィルター,可変
型のラウドネスコントロールであるコンテュアーボリュームが搭載されていました。PHONO入力に対しては,
MC/MM双方に対応し,インピーダンスは100kΩコンスタントで,リアパネルのスイッチで入力感度を1mV,
2mV,5mVの3段階に切り換えられるようになっていました。
以上のように,Nakamichi410は,同社のプリアンプのエントリーモデルとして,外観に示されるようにシンプル
な機能と回路で,しっかりと基本性能を追求した実性能の高いアンプとなっていました。色づけのきわめて少ない
音は,当時,評価が分かれる部分もありましたが,特性の良さ,基本性能の高さには,ナカミチらしさが感じられ
るものでした。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



プリアンプの存在を
感じさせないスペックが目標でした。
全高調波歪率0.003%以下
入力換算雑音−140dB以上

◎「トリプルトランジスターサーキット」
 この耳なれない回路が
 SN比向上のキメ手となりました。
◎あえて差動アンプの採用をやめ,
 イニシャルリニアリティを
 向上させました。
◎金属皮膜抵抗をはじめ
 ぜいたくなパーツの投入が
 特性に貢献しています。
◎トロイダル・オリエントコア使用の
 大容量電源トランス採用。
◎フラットアンプの思想を貫きました。
 独立トーンコントロール回路
◎独特なアクティブ回路による
 サブソニックフィルター
◎フォノ入力感度切換スイッチ
◎コンテュアーボリューム
◎高精度ディテントボリューム





●Nakamichi 410主な規格●

電源電圧
100〜120V/220〜240V 50/60Hz
消費電力
最大20VA
入力感度/インピーダンス
フォノ:1mV,2mV,5mVスイッチ切換/100kΩ
aux:100mV/50kΩ
チューナー:100mV/50kΩ
テープモニター:100mV/50kΩ
最大入力レベル
フォノ:250mV(1kHz スイッチ5mVのとき)
aux:15V(−30dB),50V(−40dB)
チューナー:15V(−30dB),50V(−40dB)
テープモニター:15V(−30dB),50V(−40dB)
出力電圧/インピーダンス/負荷
アウトプウット:1V/500Ω/10kΩ以上
recアウト:100mV/1kΩ/50kΩ
ヘッドホン:40mW/4.5Ω/8Ω
最大出力レベル(クリッピングレベル)
アウトプット:5V/50KΩ
recアウト:4V/50kΩ
ヘッドホン:300mW/8Ω
周波数特性
フォノ(RIAA偏差):30〜15,000Hz±0.3dB(2mV)
aux:20〜50,000Hz+0dB,−1.5dB
チューナー:20〜50,000Hz+0dB,−1.5dB
テープモニター:20〜50,000Hz+0dB,−1.5dB
S/N比(IHF-Aネットワーク)
 (基準レベル)/入力換算比
フォノ:80dB以上/−140dB
      感度スイッチ1mV
aux,チューナー,テープモニター:
    102dB以上/−122dB
残留ノイズレベル(IHF-Aネットワーク)
アウトプット:4μV以下(ボリュームコントロール最小)
ヘッドホン:8μV以下
歪率
(ボリュームコントロール最大
           アウトプット2V)
フォノ:0.003%以下(10kHz以下)
aux,チューナー,テープモニター:
    0.003%以下(10kHz以下)
トーンコントロール bass:20Hz +9dB〜−9dB
treble:20kHz +9dB〜−9dB
コンテュアー コンテュアーボリューム”8”
  3kHz −30dB
  20Hz −14dB
 20kHz −25dB
サブソニックフィルター 30Hz −1.8dB
20Hz −8.5dB
10Hz −45dB
 5Hz −38dB
使用半導体 トランジスタ63,ダイオード12,ツェナーダイオード1
その他 ACアウトレット(スイッチド)・・・2(350VA)
寸法 400W×80H×215Dmm
重量 約4kg
※本ページに掲載したNakamichi410の写真,仕様表等は1977年
 10月のNakamichiのカタログより抜粋したもので,ナカミチ株式会社
 に著作権があります。したがってこれらの写真等を無断で転載,引用
 等をすることは法律で禁じられていますのでご注意ください。

 
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