Nakamichi 500
2HEAD CASSETTE DECK ¥82,500
1974年に,ナカミチが発売したカセットデッキ。前年の1973年,世界初の3ヘッドカセットデッキ
1000
を発売し,高い技術力を世に知らしめたナカミチが,3ヘッド構成の
700に次いで発売した2ヘッド構成の
弟機が500でした。
Nakamichi500は,一見オーソドックスな水平型カセットデッキでしたが,ナカミチ初(!)の2ヘッドカセッ
トデッキとして,2ヘッド構成の限界を超えようと設計されたもので,その音質は,当時のカセットデッキの
枠を大きく超えたものがありました。そして,その一つの要因は,「フォーカスド・ギャップ(磁気収束方式)
録音・再生ヘッド」にあったといわれています。
テープに録音されるときの磁界の状態は,ヘッドのスリットギャップで録音されると考えられていましたが
実際は,テープが録音ヘッドの前を通過するときに,バイアス磁束の減衰処理の中で録音が行われてい
ます。上の図のように,磁界の部分が本来のギャップに相当するもので,広い周波数帯域にわたって歪み
のないよい録音を行うためには,録音テープの磁性層に対して,角θが直角に近く,磁界の幅Δl(デルタ
エル)が狭いことが必要になります。そうした状態がフォーカスされた磁界の状態といえます。
Nakamichi500の磁気収束方式ヘッドは,非常に薄い超硬質パーマロイコアをラミネートし,特殊な構造
加工,処理及び組み立て技術によって,ほぼ理想に近い状態にフォーカスされた磁界が発生できるヘッド
となっており,広い周波数帯域にわたって低歪みで理想的な録音が可能となっていました。
再生時には,コア先端のストレスその他の影響による磁気歪みがあると交流導磁率が低下し,物理的な
スリットギャップが実効的には広くなり,高域特性が低下するという現象が問題となっていましたが,磁気
収束方式ヘッドは,上述のような構造や特性により,物理的ギャップがそのまま実効ギャップとしてはたら
くため,理論値に近い再生特性が実現され,すぐれた高域特性も確保されていました。
走行系は,オーソドックスなシングルキャプスタン方式で,駆動するモーターとして,速度検出機構を内蔵
したパルスコントロールDCモーターが搭載され,負荷変動,電圧変動に強く,安定したテープ走行が確保
されていました。ワウ・フラッターは0.08%以下(WRMS)という特性が実現されていました。
テープセレクターは,バイアス,イコライザー独立型で,ポジションはSX(クローム),EX(LH),NORMAL
で,イコライザーは120μs,70μsが設定されていました。
ノイズリダクションとして,ドルビー(Bタイプ)が搭載されていました。当時,オープンリールと比較してダイナ
ミックレンジが小さく,歪みも大きくなるカセットデッキ,特に2ヘッド型のカセットデッキでは,ドルビー基準レ
ベルが0dBにとられていないことが多く,実質的なS/N比が低下していた実情がありました。Nakamichi
500では,磁気集束方式ヘッドの威力により,ダイナミックレンジ,歪みの改善が図られており,0dBとドル
ビー基準レベルを一致させることができ,ドルビー使用時も,すぐれたS/N比と歪みの小さい録音が可能と
なっていました。ドルビースイッチには,テストトーンのモードも装備され,toneにすると,400Hz,0dBのテ
ストトーンが発振され,0dBのレベルを,録音・再生を繰り返しながら(3ヘッドではないので)テープポジショ
ンごとにキャリブレーションボリュームで調整することができ,より正確なドルビーの動作が可能となってい
ました。
レベルメーターとして,−40dB〜+5dBまでの,本格的なワイドレンジ・ピークレベルメーターが搭載されて
いました。150msのアタックタイムと2S(セカンド)のレリースタイムに設定されており,オーバーシュートも
少ない正確なレベルメーターとなっていました。
ライブレコーディングの際などの予想外の瞬間的な大入力に対応するための,ピーク・リミッタースイッチが
搭載されていました。ONにしておくと,0dB以上の入力時に,リミッターが動作するようになっていました。
入力は,ライン入力に加えて,マイク入力が装備されていました。マイク入力は,前面に設けられ,L・Rの
入力に加え,ボーカル,ナレーション等に活用できるブレンド・マイク(L+R)入力が装備され,3ポイント・
マイク入力となっており,ライン入力とのミキシングが可能となっていました。
出力は,レベルコントロールがパネル上に装備されていました。
以上のように,Nakamichi500は,当時のナカミチのカセットデッキのベーシックモデルといった存在でし
たが,オーソドックスな構成の中に,ヘッド等しっかりと作り込まれた1台で,オーソドックスな2ヘッドデッキ
とは思えないほどの高音質を実現していました。