ナカミチ550の写真
Nakamichi  550
Versatile Cassette System ¥110,000

1975年にナカミチが発売した可搬型のカセットデッキ。当時オープンリールを含め,各社
から可搬型のテープデッキが発売され,いわゆる生録を行うオーディオファンも見られてい
ました。中には大型のオープンリールデッキを使って生録を行っている方もいました。そして
このタイプでは,ソニーのデンスケが最も知られていますが,独自の高い技術を持つナカミチ
が発売した可搬型カセットデッキが550でした。

ヘッドは,2ヘッド構成で,同年に発売された600と同じく「磁気集束方式録音再生ヘッド」が
搭載されていました。これは,ナカミチの優れたヘッド加工技術が生かされたもので,他社と
同じくパーマロイヘッドながら,ヘッドギャップ周りに磁気が集束するように設計・製造され,
同じヘッドギャップでも,より高い録音性能を実現していました。このために,製造工程の見直
しにより,ギャップ周辺のポールピースの加工歪みを大きく低減するようにポールピース先端
に特殊加工を行っていました。この「磁気集束方式ヘッド」は,理想的な磁気の集束が得られ
高域の歪みが大きく低減され,録音再生兼用ヘッドとしては,当時(今でも?),ずば抜けた周
波数特性とダイナミックレンジを実現していました。

走行系には,550のために新開発された「デューティーコントロールDCサーボモーター」が搭
載されていました。このモーターは,ロスが少なく,少ない電流で,高能率で安定した回転を実
現したモーターで,可搬型ながら0.08%以下というワウ・フラッター特性を実現していました。

550は,可搬型デッキとして,省電力設計がなされ,標準的な単一乾電池8本で,連続15時
間の録音再生が可能で,アルカリ乾電池を使用すると連続45時間の録音・再生が可能でした。
550は標準電圧が12Vでしたが,DC・DCコンバーターが搭載され,バッテリー電圧が7V〜
14Vの範囲で変化しても,常に一定の出力電圧を保つことができるようになっていました。
また,このDC・DCコンバーターは,能率90%以上というすぐれた変換特性をもち,安定した
動作を確保していました。電源は,乾電池以外に,交流電流からとるACパックと自動車のシガー
ライターのソケットに差し込むコードも付属し,乾電池,家庭の交流電源,カーバッテリーと,3種
類の電源に対応していました。

レベルメーター

レベルメーターは,当時まだ多かった−20dBからのタイプではなく,ダイナミックレンジの広い
生録音に対応して−40dB〜+5dBというワイドレンジのメーターを搭載し,応答性にすぐれた
ピークメーターが採用されていました。
また,右チャンネルのメーターは,ボタンを押すとバッテリー電圧をチェックするメーターとなり
左チャンネルメーターは,ボタンを押すとC-60,C-90などのテープの長さに関係なくテープ残
量をパーセンテージで表示するテープフーテージインジケーターになるようになっていました。
さらに,テープの終了が近づくと,フロントパネルのLEDが点滅するテープエンドアラームが搭
載され,タイマーのノブを調整すると,あらかじめアラームの点灯する時間をプリセットできるよ
うにもなっていました。

プログラミングタイマー

テープセレクターは,一般的なNormalにあたるEXポジションとCrO2に対応した Highにあたる
SXポジションが備えられていました。また,リアパネルには,EX,SXポジションそれぞれに,L・R
独立のREC LEVEL キャリブレーションツマミも装備されており,調整のための400Hz・0dB
テストトーンも内蔵されていました。ノイズリダクションとしてドルビーNRが装備されており,REC
LEVELの正確な補正により正確なNR動作が可能となっていました。

Nakamichi550の操作系

入力系は,LINEがRCAピン入力だけでなく,出力と一体化されたDIN端子も装備されていまし
た。MIC入力はL・Rに加えブレンドMIC端子を備えた3系統の入力があり,それぞれ個別のレ
ベル調整が可能で,ブレンドMIC入力は,残響やバックのイズを拾ったりナレーション入れた
りと多様な使い方が可能でした。マイクアンプはダイナミックレンジ115dBという高性能なもの
が搭載され,MIC端子にマイクをつなぐとLINE入力がカットされ,MIC入力に切り換わる簡単
で確実なシステムとなっていました。
また,生録音を考慮した機能として,予期せぬ瞬間的な大入力に対して自動的に0dB以上の
大入力を7分の1に圧縮して歪みを防ぐピークリミッタースイッチが装備されていました。
モニター用に300mWという出力のヘッドホンアンプが内蔵され,出力を調整するアウトプット
ボリュームとは独立してヘッドホンボリュームも装備されていました。

Nakamichi550携帯時

以上のように,Nakamichi 550は,カセットデッキでの高い技術を可搬型カセットデッキに
生かした,可搬型デッキのレベルを超える高性能を実現していました。今から見るとかなり
大型の筐体ですが,当時の可搬型デッキとしては標準的なものでした。「Versatile(多用途)」
の名の通り,室内のオーディオシステムの据え置きデッキとしてもすぐれた性能を持ち,また
その性能を持ち歩けるというもので,当時,有名なミュージシャンのスティービーワンダーが
移動時に音楽を聴くための道具としてこのNakamichi 550を使っており(後のウォークマ
ン?の原型的な使い方),来日時にも携帯していたということでも話題になり,実力機として
静かな人気を得ることにもなりました。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



Nakamichiの録音技術は
ライブレコーディングで,より生かされる

生録音への徹底を
感じとっていただければ幸いです。


◎周波数特性40〜17,000Hz±3dB
 磁気集束方式録音再生ヘッド
◎ワウ・フラッター0.08%以下
 デューティーコントロールDCサーボモーター
◎連続15時間録音を可能にした省電力設計
◎電源電圧の変動をふせぐDC・DCコンバーター
◎ノイズレベルからピークレベルまでキャッチ
 45dBフルレンジ・ピークレベル・メーター
◎テープの残量がワンタッチでわかる
 テープフーテージインディケーター
◎バッテリー電圧もワンタッチで確認
◎LED(発光ダイオード)使用のテープエンド
 アラームとプログラミングタイマー
◎録音効果を豊かにする
 3ポイント・マイクミキシング
◎ほんのかすかな音も明瞭に録音
 マイクアンプ内蔵
◎明瞭なステレオモニターを可能にした
 ヘッドホンアンプ内蔵
◎テープごとに完全なドルビーレベル調整
 400Hz0dBテストトーン
◎ピークリミッター
◎テープセレクタースイッチ
◎アウトプットボリューム
◎パワー・サプライ
◎オート・シャットオフ




●主な規格●

電源
DC12V(単一乾電池×8,カーバッテリー,
      ACパック)
テープ速度
4.8cm/s
ワウ・フラッター
0.08%以下Wrms
周波数特性
40〜17,000Hz±3dB(SX,EXUテープ)
総合S/N比
65dB以上(CCITT Wrms SX ドルビーNRイン)
総合歪率
1.5%以下 1kHz 0dB
消去率
60dB以上 1kHz 飽和レベル
チャンネル・セパレーション
35dB以上 1kHz 0dB
クロストーク
60dB以上 1kHz 0dB
バイアス周波数
105kHz
入力
マイク      0.2mV 600Ω −72dBm
ブレンドマイク 0.2mV 600Ω
ライン      70mV 150kΩ
DIN       25mV 47kΩ
出力
ライン    580mV
ヘッドホン  8Ω 100mW 1kHz 0dB 
大きさ
311W×89H×350Dmm
重量
約5.1kg(バッテリー除く)


※本ページに掲載したNakamichi 550の写真,仕様表等は
 1975年のNakamichi のカタログより抜粋したもので,ナカ
 ミチ株式会社に著作権があります。したがって,これらの写真
 等を無断で転載・引用等することは法律で禁じられていますの
 でご注意ください。

   
 
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