Nakamichi 582
Discrete Head Cassette Deck ¥168,000
1979年に,ナカミチが発売したカセットデッキ。ナカミチは,1973年に世界初の3ヘッドカセットデッキ1000
さらに700を発売し,世界中を驚かせ,すぐれた性能で高い評価を得ました。その後600500といった2ヘッ
ド機も発売し,高い技術で評価,人気を高めていきました。これらのカセットデッキの技術の積み重ねからナカミ
チは,1979年に一気にカセットデッキの新製品群を発売しました。そうした中,登場したのが580,581,582
の「580シリーズ」で,その最上級機が582でした。

ヘッド部は,ナカミチのお家芸である,完全ディスクリート3ヘッドを採用し(コンビネーション3ヘッドではなく,録
音ヘッドと再生ヘッドが完全に別になっている)自社開発のクリスタロイヘッドにより優れた録音・再生性能を誇
りました。このクリスタロイヘッド硬質パーマロイ系の素材クリスタロイによるヘッドで,クリスタロイは,低レベル
においても高周波域においてもμがきわめて高く磁化過程と消磁過程の近似性,すなわち直線性に極めて優
れ,周波数特性や歪み特性において有利な磁性材でした。
ナカミチは,前年の1978年3月,ニューヨークで記者会見を開き,「秋にはメタルテープを使用できるデッキを
届ける。」と発表していましたが,実際には,翌年の1979年に発売したデッキからメタルテープ対応をしていき
ました。ナカミチ独自の独立したディスクリート方式の3ヘッドでは,録音ヘッドと再生ヘッドを独立させ,カセット
テープの中心窓に位置させるため,超小型専用ヘッドを搭載していました。特にメタルテープでは,録音時にク
ローム系テープの約2倍近いバイアス電流が必要となり,普通に超小型ヘッドとしてしまうとギャップ周辺の磁
束密度が大きくなり,コアーが飽和して出力が低下する恐れがありました。新しい録音ヘッドとして搭載された
R-8L型録音ヘッドは,超小型でクリスタロイのラミネートコアーを使用し,3.5μギャップで,コンピューターに
よる加工技術によってシャープなクリティカルゾーンを確保し,低域から高域まで高いレベルで歪みの少ない録
音が可能となっていました。



再生ヘッドは,1000Ⅱ,700Ⅱで実績のあるSR(Stable Responce)ヘッドをさらに小型化し,損失を最
少限にとどめたP-8L型が採用され,0.6μのナローギャップにより,再生時の損失を防ぐとともに,コンター
エフェクト(低域のうねり)を防ぐヘッド形状をとることで,低域から高域までフラットな再生特性を実現していま
した。
消去ヘッドは,2ヘッドデッキの580に採用されていたダイレクト・フラックス・イレースヘッドをさらに改良する
ことで,保磁力の大きなメタルテープにも対応したE-8L型が搭載されていました。今までの消去ヘッドでは,
信号の未消去部分が録音信号を変調し,歪みの発生を招いていましたが,そうした点が解消されたヘッドで
した。高周波特性のすぐれたフェライトコアーと,先端に磁束密度の高いセンダストコアーを使用したダブル
ギャップ型で,損失の少ないすぐれた消去効率が確保されていました。



走行系は,音質への影響の大きいフラッター成分の除去をめざした設計がなされていました。テープに一定の
テンションを与え,ヘッドとの接触を均一にするために,ダブルキャプスタン方式が採用され,さらに,2つのキャ
プスタン直径及びフライホイールの直径を変え,フラッター周期が重なることを避ける周波数分散型ダブルキャ
プスタンとしていました。フライホイールそのものも,鉄の丸棒を削り出し加工したもので,ダイナミック,スタティッ
クのアンバランスがないステイブルフライホイールが採用されていました。また,カセットテープについているテー
プをヘッドに押しつけるためのパッドの影響も無視できないと,(確かにミクロンオーダーではあのパッドはでこぼ
こでしょう。)再生ヘッドの脇にパッドリフターをつけて,テープテンションのみでヘッドタッチを確保する仕組みとし
純粋にメカニズムの精度を上げて,安定したヘッドタッチを実現していました。
キャプスタン駆動用のモーターには,回転変動を検知し,基準信号発振器の信号と位相を比較し,制御するPLL
(フェイズドロックループ)方式により,高精度回転を確保するPLLサーボモーターが搭載され,リール用にはDC
モーターが搭載されていました。
走行系を支えるシャーシには,振動減衰特性の大きなアルミニウムアロイを主体にしたシャーシに樹脂成形部品
を組み合わせ,モーターその他回転体から生じる有害な微振動を吸収し,フラッター成分を減少させる共振制動
型シャーシが採用されていました。



テープ走行の操作は,PLAY,FF,REW,PAUSE,STOPすべての操作が,ソフトタッチのボタンを押すことで
ロジック回路に命令が入るICロジックコントロールで,コントロールモーターによってメカニズムを動作させる方式
が採用されていました。瞬間的に大電流を食うソレノイド方式と異なり,電源が安定しており,ゆっくりとテープに
接触することができるため,テープへのダメージも少なく,動作も静かになるというメリットがありました。

アンプ系も充実が図られていました。録音アンプから録音ヘッドに接続されるカップリングコンデンサーを排除して
直結したDC録音アンプが採用され,低域の位相まわりを防止し,録音イコライザー,再生イコライザー回路のコン
デンサーにネガティブフィードバック(負帰還)をかけるダブルNF回路を採用し,コンデンサーによって発生する歪
みを低く抑え,同時に直流安定度を高くとるなど,トータルで単体プリアンプ並の高性能を実現していました。

ノイズリダクションとして,ドルビーNR(Bタイプ)が搭載されていました。ドルビーNRを正確の動作させるために,
テープごとに異なる録音再生レベルを正確に合わせるマニュアル式の録音再生レベル・キャリブレーションが搭
載されていました。また,マニュアルでのバイアス・キャリブレーションもL・R独立で搭載されていました。これらの
調整のために400Hzと15kHzのテストトーン機能が搭載されていました。

以上のように,582は,3ヘッドデッキとして,ヘッド,走行系など,ナカミチらしい高い技術と考えられた作りで,す
ぐれた音質を実現していました。パネル高が低く抑えられ,500mmに達する幅広の筐体に多くのマニュアル調整
も可能な多くのツマミが並ぶパネルデザインは,独特の存在感をもち,測定器を思わせる精悍なものとなっていま
した。ナカミチらしい厚みとクリアさをもった音は,アナログならではの良さを感じさせるものでした。


Nakamichi 581
Discrete Head Cassette Deck ¥138,000


582には,弟機として581がありました。基本的には582と同一ですが,録音アンプと再生アンプが独立しておら
ず兼用となっているため,録音しながらのアフターモニターはできませんが,マニュアルでのキャリブレーション機
能も搭載されていました。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



フルレベルは言うに及ばず,
ローレベルでも,明らかに異なる音の透明感.
2年余の基礎研究が生んだ

Nakamichiのメタル581/582.

厳密に,メタルテープの能力を生かすための,
録音/再生ディスクリート・ヘッド.
新次元の音をひらく581.

完全3ヘッド構成の582
メタルテープが生き,SX/EXテープも生きる.
どんな音が聴こえるか?

Head Technology
超小型録音,再生専用ヘッド
Newダイレクト・フラックス・イレースヘッド
ディスクリート・ヘッド構成
メタルテープ
Diffused Resonance Transport
周波数分散型ダブルキャプスタン
PLLサーボモーター
共振制動型シャーシ
ステイブルフライホイール
DC Amplifier
DC録音アンプ
ダブルNFイコライザー
ワイドオペレーション
3Motor Operation
ICロジックコントロール
イージー・キューイング
ワイヤレスリモコン
ハイスピードオートシャットオフ
タイマー録音・再生ができます.




●581/582規格●

電源 100V 50/60Hz
消費電力 最大27W
テープ速度 4.8cm/秒
ワウ・フラッター 0.04%以下・Wrms,0.08%以下・Wpeak
周波数特性 20~20,000Hz±3dB
総合S/N比 60dB以上(400Hz,0dB,WTDrms)
66dB以上(400Hz,3%THD,WTDrms)
 (ドルビーNR in,70μs,ZXテープ)
総合歪率 0.8%以下(400Hz,0dB,ZXテープ)
1.0%以下(400Hz,0dB,SX,EXⅡテープ)
消去率 60dB以上(1kHz,0dB,ZXテープ)
チャンネルセパレーション 37dB以上(1kHz,0dB)
バイアス周波数 105kHz
入力 (ライン)50mV 50kΩ
出力 (ライン)1V(400Hz,0dB,アウトプットレベル最大)2.2kΩ
(ヘッドホン)45mW(400Hz,0dB,アウトプットレベル最大)8Ω
ブラックボックスシリーズ
専用DC出力
±10V 125mA最大
大きさ 500(巾)×130(高さ)×350(奥行)mm
重量 約8.3kg


Nakamichi 582Z
Discrete Head Cassette Deck ¥188,000



Nakamichi 581Z
Discrete Head Cassette Deck ¥168,000


1981年に,580シリーズの582,581は582Z,581Zへとモデルチェンジされました。高い評価を受けてい
たメカニズム,デザインなど,ほぼ継承され,いくつかの点で強化,改良が行われていました。

最大の改良点は,従来のドルビーの約2倍のノイズ低減効果をもつドルビーCタイプNRの搭載でした。それに
あわせ,アンプ系の細かな改良も行われていました。
もう一つの改良点は,50dBワイドレンジのLEDピークレベルメーターの採用でした。-40dB~+10dBを16
セグメントで表示するLEDによるデジタル表示で,オーバーシュートもなく応答性にもすぐれたメーターでした。
さらに,キャリブレーション時には,調整用のメーターとして,調整がしやすいように指示値が拡大されるように
なっていました。その他,録音中にRECボタンを押すと,押している間だけ,無録音部分が作れるRECミュート
機能も搭載されていました。

以上のように,582Z,581Zは,オートキャリブレーションの680Zシリーズとシンプルな操作系の480Zシリー
ズの中間に位置する機種として,マニュアルでのキャリブレーション機能を特徴として,一定の地位を築いてい
きました。カセットテープの測定用として,内外のテープメーカーや研究所でも使われていたといわれています。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



テープの特性を生かす
多彩なキャリブレーション機能と,
ドルビーCタイプNR,
LEDピークレベルメーターの
新装備で総合性能を高めた580Zシリーズ。

Calibration/Indicator
15kHz,400Hzのテストトーンと,
調整用メーターとしても動作する
LEDピークレベルメーターにより,
バイアス,ドルビーレベルを正確に調整。

Dolby C-Type NR
従来のドルビーNR(Bタイプ)に比べ,
高域(2kHz~8kHz)で約2倍のノイズ改善を
実現。しかも,音質を変化させずに
広大なダイナミックレンジを獲得しました。

Mechanism
不要な共振を抑え,音質に有害な
フラッター成分の除去をめざしたテープ走行系。
そして,快適な操作感を生む
サイレントメカニズム。

Head/Amplifier/Operation
ディスクリート3ヘッド,高性能アンプ,
ソフトタッチオペレーション・・・・・・・
基本パートのすみずみに
Nakamichiテクノロジーが息づきます。




●582Z/581Z規格●

トラック形式 4トラック・2チャンネル・ステレオ方式  
ヘッド  3(消去×1,録音×1,再生×1) 
モーター(テープ駆動用)  PLLサーボモーター(キャプスタン用)×1
DCモーター(リール駆動用)×1 
電源 100V 50/60Hz
消費電力 最大30W
テープ速度 4.8cm/秒
ワウ・フラッター 0.04%以下・Wrms,0.08%以下・Wpeak
周波数特性 20~20,000Hz±3dB
総合S/N比 ドルビーCタイプNR on(70μs,ZXテープ)
 72dB以上(400Hz,3%THD,IHF A-wtd rms)
ドルビーBタイプNR on(70μs,ZXテープ)
 66dB以上(400Hz,3%THD,IHF A-wtd rms)
総合歪率 0.8%以下(400Hz,0dB,ZXテープ)
1.0%以下(400Hz,0dB,SX,EXⅡテープ)
消去率 60dB以上(1kHz,0dB,ZXテープ)
チャンネルセパレーション 37dB以上(1kHz,0dB)
バイアス周波数 105kHz
入力 (ライン)50mV 50kΩ
出力 (ライン)1V(400Hz,0dB,アウトプットレベル最大)2.2kΩ
(ヘッドホン)45mW(400Hz,0dB,アウトプットレベル最大)8Ω
ブラックボックスシリーズ
専用DC出力
±10V 125mA最大
大きさ 500(巾)×130(高さ)×350(奥行)mm
重量 約8.3kg


※本ページに掲載した581,582,581Z,582Zの写真,仕様表等
 は1979年6月,1981年6月
のNakamichiのカタログより抜粋した
 もので,ナカミチ株式会社に
著作権があります。したがって,これらの
 写真等を無断で転載・引
用等することは法律で禁じられていますので
 ご注意ください。

   
 
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