Nakamichi610の写真
Nakamichi610
control preamplifier ¥130,000

1976年に,ナカミチが発売したコントロールアンプ。ナカミチは,テープデッキで有名なブランドですが,
このころ,カセットデッキナ カミチ600を核として,コントロールアンプ610,パワーアンプ620,FMチュー
ナー付きプリアンプ630を発売し,スラントデザインが共通した,システム化されたオーディオ機器群を
「600シリーズ」として展開し,デジタルタイマー付きの専用ラックSYSTEM-ONE(¥48,500)も発売
するなど,デッキ専業メーカーからの飛躍を図ろうとしていました。

600シリーズ

そして,「600シリーズ」の一環として発売されたコントロールアンプが610でした。そして,これがナカミ
チ初のコントロールアンプ(ナカミチ自身はコントロールプリアンプと称していました。)でした。

ナカミチ610の大きな特徴は,「録音のための最高のプリアンプ」をめざして設計されていたことで,その
ために19チャンネル5元ミキシング機能,位相チェック・位相反転機能,テストトーンなど,録音に関する
機能が豊富に搭載され,通常のコントロールアンプ,あるいはプリアンプというよりも,ミキサーアンプに
フォノイコライザーを搭載したといった構成になっていました。

入力は,ステレオマイク2系統,ブレンドマイク1系統のマイク入力5チャンネル,フォノステレオ2系統の
4チャンネル,ステレオテープデッキ3系統の6チャンネル,チューナー1系統の2チャンネルと合計19
チャンネルの接続が可能で,このうち任意のステレオソース2系統とブレンドマイクの5元ミキシングが
できるようになっていました。

これらの豊富な入力系とミキシング機能により,以下のような多様な使い方が可能となっていました。
(1)マイク5本のミキシング (2)マイク3本とフォノ1台のミキシング・・・レコードの演奏に合わせてマイク
からの入力を重ねる (3)テープデッキ2台とブレンドマイクのミキシング・・・2台のデッキの再生音にマイ
クからの入力を加え録音 (4)テープデッキ2台からの録音・・・2台のデッキの音を編集しながら録音 
(5)フォノ2台の再生・・・2種類のレコードのフェードイン,フェードアウト
また,3台のテープデッキを接続できるようになっており,3台同時録音,相互ダビング,他の入力ソース
とのミキシング,テープ同士のミキシング編集など多彩な使い方ができるようになっていました。

5つの各入力ごとにレベル調整はもちろん,位相反転回路が搭載され,逆位相の場合も接続を直さなく
ともフロントパネルのスイッチの操作だけで位相をチェックし,正位相に直せるようになっていました。
また,5つの入力レベルを一括コントロールするマスターボリュームには,連動誤差±0.5dBという高精
度の金属皮膜抵抗によるディテント型が搭載され,フェードイン,フェードアウトがしやすいメモリーマーカー
も装備されていました。
 
ブロックダイアグラム

イコライザーアンプは,ミキシングアンプの付属機能という感じではなく,プリアンプとして本格的な性能を
持つものが搭載されていました。入力段は,差動アンプを使用しないトリプルトランジスターサーキットと
いう特殊な回路の採用により,大幅にS/N比の向上が図られ,ドライバー段はカレントドライブ方式の採
用により低歪率化が図られていました。温度特性のすぐれた金属皮膜抵抗やコンデンサーなど高品質
パーツの採用によりRIAA偏差も極小に抑えられていました。このようにして各部をきちんと見直した設計
のイコライザーアンプは,入力換算ノイズレベル−140dB,S/N比80dB(1mV入力),全高調波歪率は
0.002%以下(1kHz),RIAA偏差±0.3dB以内というすぐれた特性を実現していました。また,フォノ
入力は,背面のスイッチによりインピーダンスを200Ω,50kΩ,100kΩの3段階で切り換えることが
できるようになっていました。

上述のように,マイク入力の充実もナカミチ610の大きな特徴で,ステレオ2系統4チャンネルそれぞれ
にマイクアンプが設けられ,1kΩ・0dB時で0.2mVの感度,15dB,30dBのアッテネーターが装備され
高S/N比の回路設計が行われていました。ダイナミックマージンは,アッテネーター0dB時で,+46dBが
確保され,十分な余裕とリニアリティが実現されていました。

テープデッキと組み合わせるミキサーアンプ的性格も持つことから,モニター用にも使われるヘッドホン
出力もしっかりしたものが装備されていました。差動入力ピュアコンプリメンタリーOTLのヘッドホンアン
プが搭載され,1kHz時に0dBで,モニターボリューム最大の時40mWという出力(最大出力300mW)を
もち,インピーダンス8Ω〜200Ωまでのヘッドホンに対応していました。録音,ライン入力と無関係に,
レベル調整,バランス調整ができるようになっていました。

さらに,ナカミチ610は,多彩なテストトーン発振器と高精度なレベルメーターを搭載し,測定器としての
機能も持っていました。テストトーンは,1kHz,3.16kHz,4.16kHz,10kHz,11kHz,13.16kHz
14.16kHz,ピンクノイズと8種類が用意されていました。レベルメーターは,−40dB〜+10dBのフル
レンジピークレベルメーターで,2つに分割された対数型増幅器で対数圧縮され,支持誤差が極小で,ア
タックタイム120msecと非常に立ち上がりも早く,高い追従性を実現していました。周波数特性も平坦な
特性が確保され,各周波数帯で正確なレベル指示が可能となっていました。
これらを利用して,基準録音レベルの設定,周波数特性の測定,テープデッキのバイアス調整,聴感テス
トなど,様々な測定,調整,テストが行えるようになっていました。

これらのアンプ回路を支える電源部には,リーケージフラックスの少ないトロイダルトランスが搭載され電
源電圧安定回路により,100V〜120V/220〜240Vの広範囲な電源電圧を2段電圧切換スイッチで
カバーしていました。
内部は,多彩な入力系と機能により,多くの回路が搭載されているため,徹底的にユニット化が図られ,
性能の安定化と各ユニット単独での組み立て,調整を可能にするとともに,アフターサービスのしやすさ
への配慮がなされていました。

ナカミチ610の内部

その他,別売のリモートコントロールユニットRM-610(¥18,000)を使用することで,接続したパワーア
ンプ1台で3系統のスピーカーの接続や,3台のパワーアンプの接続と切換が可能となり,音色の比較,使い
分けが容易にできるようになっていました。

RM-610

以上のように,ナカミチ610は,テープデッキメーカーらしいアプローチで作られたコントロールアンプで,ミキ
サー+プリアンプという構成は,独自の個性を放っていました。音の方も,入力=出力という録音機的な設計
方針を示すかのような,色づけの少ないきめ細やかな音で,当時の一般的なプリアンプ等と比べて,色気が
ないなどとの評価もありましたが,その音の素直さを評価する声もありました。独特の筐体デザイン,ミキサー
としてはやや中途半端な面もあるなどの理由からか,人気モデルとはいえませんでしたが,記憶に残る1台だ
ったと思います。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



ふたつの値うちを世界に問います。
コントロールアンプとして,
レコーディングコンソールとして。


◎コントロールアンプとしての
 能力です。
 S/N比80dB以上(1mV入力)
 入力換算ノイズレベル−140dB
 全高調波歪率0.002%以下(1kHz)
 RIAA偏差±0.3dB以内
◎もちろん,マイクアンプにも
 力を入れました。
◎差動入力ピュアコンプリメンタリー
 OTLのヘッドホンアンプです。
◎徹底的にユニット化を
 はかっています。
◎19チャンネル5元ミキシング機能
 ミキサーとしての能力です。

 1.マイク5本のミキシング
 2.マイク3本とフォノ1台のミキシング
 3.テープデッキ2台とブレンドマイクのミキシング
 4.テープデッキ2台からの録音

◎測定器としての能力です。
 8種類のテストトーン
 −40dB〜+10dBのフルレンジピークレベルメーター。

 1.基準録音レベルの設定
 2.周波数特性の測定
 3.テープデッキのバイアス調整
 4.聴感テスト
 5.ピークレベルメーター

◎位相チェックと位相反転機能
 プラスアルファの値うちです。
◎パワーアンプでスピーカーや
 パワーアンプの切換えを
 可能にしました。

■リーケージフラックスの少ないトロイダルトランスを
 使用した,電源電圧安定回路で広範囲な電源電圧を
 カバー・・・100〜120V/220〜240V 2段切換えスイッチ
■電源スイッチと連動・・・スイッチドACアウトレット
■5つの入力レベルを一括コントロール・・・マスターボリューム
(連動誤差±0.5dB金属皮膜抵抗)
■フェードイン,フェードアウトがしやすい・・・メモリーマーカー




●主な規格●

電源電圧
100〜120V/220〜240V 50/60Hz
消費電力
最大20VA
入力感度/インピーダンス
マイク:0.2mV/1kΩ(アッテネーター:15dB,30dB)
フォノ:1mV/200Ω,50kΩ,100kΩ
aux,チューナー:75mV/25kΩ
テープPB:230mV/75kΩ
テープモニター:316mV/75kΩ
最大入力レベル
マイク:1V(+74dB,アッテネーター:30dB)
フォノ:250mV(+48dB)
aux,チューナー:50V
テープPB:50V
基準出力レベル(0dB)/出力インピーダンス/
負荷インピーダンス
モニターアウト:1V/100Ω/1kΩ以上
ラインアウト:316mV/600Ω/1kΩ以上
recアウト:316mV/2.2kΩ/50kΩ以上
ヘッドホン:40mW/8Ω/8〜200Ω
最大出力レベル(クリッピングレベル)
モニターアウト:5V/1kΩ
ラインアウト:5V/10KΩ
recアウト:5V/50kΩ
ヘッドホン:300mW/8Ω
周波数特性
マイク:30〜100,000Hz+0dB,−1.5dB
フォノ(RIAA偏差):30〜15,000Hz±0.3dB
aux,チューナー:20〜100,000Hz+0dB,−1.5dB
テープPB:10〜50,000Hz±0.3dB
モニターアウト:5〜150,000Hz+0dB,−1.5dB
S/N比(IHF-Aネットワーク)
 (基準レベル)/入力換算比
マイク:53dB以上(0dB)/−127dB
     65dB以上(アッテネーター15dB)
フォノ:80dB以上(1mV)/−140dB
    90dB以上(3mV)
aux,チューナー,テープPB:85dB以上(マスターボリューム最大)
                  93dB以上(マスターボリューム最小)入力オープン
残留ノイズレベル(ラインアウト)
 (IHF-Aネットワーク)
ヘッドホン(8Ω):4μV以下
ラインアウト/recアウト:7μV以下(マスターボリューム最小)
               15μV以下(マスターボリューム−30dB)
歪率(マスターボリューム−20dB,レベルボリューム最大
 ラインアウト2Vにて)
マイク:0.01%以下(f=10kHz以下)
フォノ:0.005%以下(f=10kHz以下)
    0.002%以下(f=1kHz)
aux,チューナー,テープPB:0.005%以下
テストトーン
発振周波数:1k,3.16k,4.16k,10k,11k,13. 16k,14.16k(Hz)
        (スイッチ組み合わせによる),ピンクノイズ
発振器歪率:1kHz〜14.16kHz 0.2%以下
ピンクノイズ:50〜15,000Hz ±2dB(1/3オクターブフィルター)
レベルメーター特性
指示範囲:−40dB〜+10dB
指示誤差:−20dB〜+10dB・・・±1dB
       −40dB〜−20dB・・・±2dB
周波数特性:50〜20,000Hz+0dB,−1dB(−30dB〜+10dB)
使用半導体
FET2,トランジスタ134,ダイオード27,ツェナーダイオード 5,IC2
その他
ACアウトレット(スイッチド)・・・2(350VA)
大きさ/重さ
400W×170H×237Dmm/約7kg


※ 本ページに掲載したNakamichi610の写真,仕様表等は1976年4月
 のNakamichiのカタログより抜粋したものでナカミチ株式会社に著作権
 があります。したがって,これらの写真等を無断で転載・引用等することは
 法律で禁じられていますのでご注意ください。

  
 
 
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