YAMAHA NS-500YST
ACTIVE SERVO SPEAKER ¥79,800

1990年に,ヤマハが発売したスピーカーシステム。ヤマハは,1988年にAST(Active Servo Technology)
方式の専用プロセッサーを内蔵したアンプとスピーカーのセット・AST-1を発売し,コンパクトなスピーカーから驚
くほどの低音再生能力を発揮するスピーカー・システムとして高い評価を得ました。そして,このAST方式の専用
回路(プロセッサー)をスピーカー側に搭載したシステムも開発され,同時にAST方式は,ヤマハ独自のシステム
ということで,YST(Yamaha active Servo Technology)という名称となりました。このYST方式採用の本格
的スピーカーシステムの第1号として発売されたのがNS-500YSTでした。

キャビネットの容積とポートの大きさをある条件に合わせると,キャビネット内の小振幅を大きな振幅の音圧として
能率よくポートから取り出すことができるヘルムホルツレゾネータ理論を具現化しエアウーファーを実現したのがYST
でした。YSTにより,ユニットとしてのウーファーは不要で,ポート内の空気がそのまま振動板のはたらきをし,これ
をエアウーファーと称していました。エアウーファーは,エッジやダンパーなど振幅を制限する要素がなく,駆動源と
なるスピーカーユニットも小振幅のため,振幅歪みなどの各種の歪みも非常に少なくなっていました。また,エアウー
ファーの低域再生能力は,キャビネット容積とポートの大きさの相対比率で決まるため,キャビネットの小型化,エア
ウーファーの小口径化が容易に実現でき,使いやすさや音像定位,音場表現力の向上も実現されるというものでし
た。YST方式は,バスレフ方式を理想的に実現しようとするものですが,バスレフ方式では,スピーカーの低域振
動にはボイスコイルにインピーダンスをもつことで限界が生じてしまいます。このボイスコイルのインピーダンスを打
ち消す回路=負性抵抗回路により超低域までリニアな駆動が可能となるというのがYST方式のもう一つの効果で
した。NS-500YSTでは,この負性抵抗回路がスピーカー本体に内蔵され,それを駆動するため,AC100Vの電
源を供給する電源プラグが付いていました。

NS-500YSTは,一見普通のバスレフ形3ウェイスピーカーシステムのような形をもっていますが,実際には,YST
方式によりエアウーファーを含むと4ウェイシステムともいえるスピーカーシステムでした。このクラスのスピーカーシ
ステムで一般的であった3ウェイシステムでは,2〜4kHzという人間の耳が最も敏感である帯域にクロスオーバー
が来ることに多いため,聴感に影響が出やすくなります。NS-500YSTでは,ウーファーとエアウーファーを合わせ
たYSTウーファーシステムと,高域レンジの広い高性能トゥイーターを搭載し,ミッドレンジ1個で人間の聴感の敏感
なボーカル帯域をカバーし,フルレンジ的な中域再生が実現されるように設計されていました。ヤマハはこれを「ボー
カル・フルレンジ」と称していました。つまり,NS-500YSTは,スーパートゥイーターとスーパーウーファーが付いたフ
ルレンジともいえるスピーカーシステムになっていました。

ウーファーは,25cm口径のピュアクロスカーボンコーン型で,エアウーファーと合わせてウーファーシステムという形
になっていました。ウーファーを負性抵抗駆動してキャビネット内部の空気を共振させ,ポート内の空気自身を振動板
として超低域の音圧を取り出すエアウーファーを実現し,22Hzもの超低域再生が可能となっていました。このように
低域へ大きくレンジを広げることにより,YSTをウーファーシステムというよりもスーパーウーファーシステムといえる形
で搭載していました。内部構造においても,ウーファー及びエアウーファーより成るウーファーシステム部には,スコー
カ,トゥイーターと完全に独立したチェンバーが用意され,ポート部以外は厳密に密閉し,ウーファー振動板以外を剛体
とすることにより,キャビネット内での空気共振の理想化を図っていました。また,この構造により,スコーカ,トゥイーター
ユニットも超低域振動の影響を排除することができ,音質の劣化を抑えることができていました。つまり,内部構造的に
は,2ウェイのシステムにスーパーウーファーシステムを加え,一体化したといった形になっていました。

YST方式により,エアウーファーの低域再生能力に加え,ウーファーユニットそのものも歪みが低く抑えられる効果が得
られていました。音圧領域では負性抵抗回路がダンピングファクター無限大ともいえる特性を実現し,超低域は極めて
微小な振動で済むため,正確な駆動が可能となっていました。さらに,電気的にも機械的にも相互干渉の影響を受けや
すく音質劣化につながりやすいLCネットワークを排し,ウーファー用には高性能なエレクトロニックネットワークを採用し
て,高級システムに使われるダイレクトドライブと同様のクオリティを確保していました。

スコーカーは,新開発の12cm口径のコーン型が搭載されていました。ピュアクロスカーボン振動板に,蒸着ベリリウム
のセンターキャップを配したもので,ユニット単体では100Hz〜20kHz(−10dB)という広帯域再生能力をもち,特に
300Hz〜6kHzはほぼフラットというスコーカーとして理想的な特性を実現し,ボーカル帯域250Hz〜4kHzを余裕を
持ってカバーしていました。
振動板素材のピュアクロスカーボンは,ピュアカーボン繊維を精密に織り上げた素材で,裏面に配したアリレート繊維ご
とカテナリー(懸垂曲線)型に一体成型して,高剛性と軽量を両立させていました。強力なダブルマグネットの磁気回路
とロングボイスコイルなどの設計によって広帯域でフラットな特性が実現されていました。そして,センターキャップにトゥ
イーターと同じ蒸着ベリリウムを採用することで,高域の再生能力が高められていました。また,こうした複合構造により
クロスカーボンコーンのウーファーとも,ベリリウム振動板のトゥイーターとも滑らかな音のつながりが可能となっていまし
た。

トゥイーターは,3cm口径のドーム型で,チタンをベースにベリリウムを蒸着した構造となっており,チタン単体に比べ,よ
り軽量化するとともに高剛性化して,高域不要振動を帯域外に排除することができていました。振動板直結アルミボイス
コイルの採用など,トータルな軽量化とも相まって,30kHzまで充分に伸びた高域特性が実現されていました。

キャビネットは,高密度パーティクルボード製で,バッフル板30mm厚,その他は25mm厚で構成され,さらに隅木・補
強桟,中高域ユニットのための独立チェンバー用隔壁などにより,全体の高強が高められていました。また,スピーカー
端子は,モンスターケーブル対応の金メッキ端子が装備されていました。

以上のように,NS-500YSTは,一見中型の3ウェイ・バスレフ型のブックシェルフタイプのスピーカーシステムといった
外観ながら,低域から高域までワイドレンジな特性を実現したコストパフォーマンスの高いスピーカーシステムでした。し
まった低域をベースに,中域から高域にかけてクリアな明るい音を持ったヤマハらしい音をもつ1台でした。



以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。




スーパーウーファーがあれば,
ボーカルもこれほど美しく聴けます。
ヤマハYST方式がサポートする
「ボーカル・フルレンジ」システム。

◎YST方式による22Hz超低域再生が可能にする
 「ボーカルフルレンジ」の世界。
◎22Hzの超低域を豊かに低歪率再生。
 ヤマハYST方式スーパーウーファシステム
◎ダイレクトドライブと同等のクオリティを実現する
 高性能エレクトロニックネットワーク採用。
◎ボーカルフルレンジをすっぽりと収める広帯域。
 張りがあり,温かく自然な音色のミッドレンジ。
◎30kHzまで,繊細で明確な高域再生を実現。
 精密,蒸着ベリリウムドーム型ツイータ。
◎高剛性・防振の30kg重量級キャビネット
 安定で明快な鳴りをサポートします。




●仕様●

方式 ヤマハ・アクティブ・サーボ・テクノロジー方式
型式 3スピーカー4ウェイ防磁型
ユニット 25cmピュアクロスカーボンコーン型ウーファ
12cmピュアクロスカーボンコーン型スコーカ
3cm蒸着ベリリウムドーム型ツィータ
再生周波数帯域 22Hz〜30kHz
出力音圧レベル 92dB/W.m
クロスーオーバー周波数 250Hz,4kHz(12dB/oct)
最大入力 140W
外形寸法 340W×700H×337.5Dmm
重量 30kg
※ 本ページに掲載したNS-500YSTの写真・仕様表等は,1990年
 11月のYAMAHAカタログより抜粋したもので,ヤマハ株式会社に
 著作権があります。したがって,これらの写真等を無断で転載,引用
 等をすることは法律で禁じられていますので ご注意ください。

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