YAMAHA
NS-590
SPEAKER SYSTEM ¥59,000
1978年に,ヤマハが発売したスピーカーシステム。ヤマハは,1973年発売の
NS-690シリーズ,
1974年発
売のNS-1000シリーズでスピーカーの人気と名声を確立しました。特にNS-1000シリーズのモニタータイプ
モデル
NS-1000Mは,
その後モデルチェンジを受けることなくロングセラーを続け,高い評価を受けました。
ヤマハは,このNS-1000Mの弟機という意味で半分の500番台の型番を付けたスピーカーシステムをその
後いくつか出しました。それぞれに個性も技術的特徴もありましたが,名機NS-1000Mの陰に隠れがちであっ
たという側面は否めません。そうした500番台の型番を持つスピーカーシステムの中の一つが,このNS-590
でした。NS-590は,オーソドックスな3ウェイシステムで,中級機ながら,ヤマハ自慢のベリリウムドームユニッ
トも搭載するなど,5〜6万円クラスながら力の入ったシステムとなっていました。
トゥイーターは,30mm口径のドーム型で,NS-1000シリーズで開発され,高い評価を得ていたベリリウム振動
板が採用されていました。ベリリウムは,密度が1.84とアルミニウムの2/3,チタンの2/5と非常に小さく,弾
性係数がアルミの4倍,チタンの2.5倍,剛性はタングステンをも凌いで金属柱最大という素材で,金属の中で
最も軽く硬い素材であるため,音の伝搬速度が速い,非常に優れたハード系ダイアフラム(振動板)の素材でし
た。このベリリウム振動板に,耐熱処理を施したアルミリボン線エッジワイズ巻きボイスコイルを直結し,粘弾性
樹脂と熱硬化性樹脂を二重コーティングした特殊繊維のタンジェンシャルエッジで支える構造がとられていまし
た。駆動する磁気回路は,磁束密度14,500ガウス,総磁束20,950マックスウェルという強力なフェライトマ
グネットが採用されていました。
スコーカーは,12cm口径のコーン型で,軽量に仕上げられたパルプコーンが搭載されていました。ボイスコイル
は,耐熱処理を施した占積率の高い銅リボン線を巻いたものが搭載され,大入力に対しても十分な安定度が確
保されていました。磁気回路には,直径100mm,重量1.3kg,磁束密度14,000ガウス,総磁束75,000マ
クスウェルという強力なものが採用されていました。
ウーファーは,30cmのコーン型で,パルプコーンが搭載されていました。コーン紙は,分割振動を抑えるため
にコルゲーション入りのコニカルタイプに仕上げられていました。ボイスコイルは,銅リボン線のエッジワイズ巻
きのロングボイスコイルで,ダンパーは材質や含浸剤に十分検討が加えられたものでした。磁気回路は,直径
120mm,重量2.3kg,磁束密度12,000ガウス,総磁束140,900マクスウェルの強力な大型フェライトマ
グネットが搭載されていました。センターポールには,磁気歪みの発生を抑える銅キャップが被せられていまし
た。
ネットワークは,コイルにケイ素鋼板入りボビンに,直流抵抗の少ないホールマール線を巻いたコイルを使用し
コイル同士のインダクタンスを少なくするために,互いを直角にかつ距離をもって配置されていました。コンデン
サーには,MP(メタライズド・ペーパー)コンデンサーが採用されていました。トゥイーターとスコーカーには,連続
可変タイプのレベルコントロールが装備されていました。
エンクロージャーは,完全密閉型で,通常のものより高硬度で高密度なパーティクルボードを強力に接合した一
体構造の強固な構造で,不要な共振が排除されていました。表面はシャイニーオーク仕上げ,バッフル板のみ
黒色仕上げがされていました。バッフル板上のユニットの配置は左右対称設計で,各ユニットのフレームは,ヤ
マハの合金技術を生かした重量級アルミダイキャスト製で,不要な共振を抑えていました。
以上のように,NS-590は,5〜6万円クラスの中級機ながら,上級機の技術・ノウハウを生かしたしっかりした
設計と作りが行われていました。基本的にはNS-1000M,NS-690等のオーソドックスな3ウェイモデルの流
れの中にありましたが,中級機らしく,より元気な若々しい音は,また別の魅力を持っていました。