YAMAHA
NS-600
NATURAL SOUND SPEAKER SYSTEM ¥59,
800
1981年に,ヤマハが発売したスピーカーシステム。1978年に発売された中級機NS-590の後継機で,
しっかりしたエンクロージャーに,ヤマハならではのスピーカーユニットを搭載した力の入った3ウェイシス
テムでした。
ウーファーユニットJA-3102は,30cm口径のコーン型で,最大の特徴は,ヤマハ独自のスプルースコー
ンを採用していることでした。スプルース材は,ピアノの響板に使われることの多い素材で,音の響きの美
しい木材といわれています。ヤマハは,世界のいろいろな樹木の中からこのスプルースを選び,1980年
NS-690Vではじめて
スプルースコーンを完成させました。NS-600に採用されたスプルースコーンは,
特に響きの美しいグランドピアノの響板用のスプルースを採用し,しかも,柾目の部分だけを使用していま
した。形状的には,コルゲーション入りのコニカルタイプで,分割振動を抑えた広いピストニックモーション
領域を確保していました。エッジは,発泡ウレタンのロールエッジを使用していました。ボイスコイルは,銅
リボン線をボビンにエッジワイズ巻きしたロングボイスコイルタイプで,120φ(外径)−60φ(内径)−20t
の大型フェライトマグネットが採用され,センターポールには磁気歪の発生を抑える銅キャップが被せられ
ていました。
スコーカーユニットJA-1210は,10cm口径のセミドーム型で,振動板としてTiC(チタンカーバイド=炭化
チタン)を採用していました。チタンカーバイドは,金属表面に施される高硬度被膜材として用いられるもので,
NS-600のスコーカーの振動板では,ピュアチタンの表面をチタンカーバイドとするサンドイッチ構造がとら
れていました。この振動板は,化学気相蒸着法(CVD)によって高精度に成型されたもので,高いヤング率を
実現していました。
トゥイーターユニットJA-0533は,3cm口径のドーム型で,ヤマハ自慢のベリリウムによる振動板が採用され
ていました。ベリリウムは軽量で高剛性という,高域用振動板としては非常にすぐれたものの一つで,同社の
名機NS-1000シリーズで,高純度ベリリウムの優秀性が広く知られることとなったといわれています。ボイス
コイルは,耐熱処理を施したアルミリボン線エッジワイズ巻ボイスコイルが搭載され,エッジは粘弾性樹脂と熱
硬化樹脂を二重コーティングした特殊繊維のタンジェンシャルエッジが採用されていました。
ネットワークは,電気的特性のみならず,ヒヤリングテストによるカット&トライでチェックして作り上げられてもの
で,コイルには,ケイ素鋼板コア入りのボビンに,直流抵抗の小さい無酸素銅線を巻いたものが使用され,コイル
同士は互いに直角に取り付けられて干渉を抑えていました。コンデンサには,聴感特性にすぐれたMPコンデンサ
が使用され,無酸素銅線を多用するなど,各部に配慮がなされた設計となっていました。
エンクロージャーは,完全密閉型で,表面はバルセロナ・ウォルナット仕上げ,バッフル面は黒色仕上げとなってい
ました。全面とも同一のパーティクルボードが使用され,バッフル板は25mm厚,側面は18mm厚,裏面は19mm
厚というしっかりした作りとなっていました。各ユニットのフレームも,すべて強度の高いアルミダイキャスト製で,ユ
ニットの配置は左右対称となっていました。
以上のように,NS-600は,当時のヤマハの主力中級機として,力の入った設計となっていました。当時各社が
598クラスに強力なモデルを投入し始めたことも,NS-600に影響を与えていたものと思います。クリアな音をも
つ,使いこなしがいのあるコストパフォーマンスの高い1台でした。