YAMAHA NSX-10000
SPEAKER SYSTEM ¥400,000(1台)1986年にヤマハが発売したブックシェルフ型スピーカーシステム。楽器メーカーとして1887年
に創業したヤマハが創業100年を迎える記念碑としての限定生産モデルともいえるプレミアム・
シリーズ「10000シリーズ」のスピーカーシステムとして発売された高性能スピーカーでした。
ヤマハの代表的スピーカーシステムNS-1000Mを発展させて1982年に登場したNS-2000
に外観上はよく似た印象でしたが,中身は大幅に強力な内容となったプレステージモデルでした。NSX-10000は,NS-1000M,NS-2000の流れを感じさせながら,まずユニットの大幅な強
化が行われていました。
スコーカーとトゥイーターは,ヤマハ自慢のピュアベリリウム振動板によるドーム型ユニットを受け継
いでいましたが,「GC(ジャイアント・クリスタル)ベリリウム振動板」を新開発して,搭載していまし
た。この「GCベリリウム振動板」は,従来のピュアベリリウム振動板に比べて,ベリリウム結晶の
組成改善をはかり,巨大結晶化を達成したものでした。ひとつひとつの結晶が大きく成長している
ため,結晶間の境界が少なく,音波の伝送ロスが低減され,ピュアベリリウム振動板としていっそ
うの高分解能を実現していました。このすぐれた振動板を,真空蒸着法により,スコーカー8.8cm
トゥイーター3.0cmのドーム型振動板として成形し搭載していました。また,ボイスコイルボビンに
も,GCベリリウムを使用して,熱伝導率の向上を図り,耐許容入力を高めて,高音域にも大きなエ
ネルギーを持つデジタルソースへの対応が図られていました。ボイスコイルには,スコーカーには
OFC(無酸素銅)線,トゥイーターには銅クラッド・アルミ線が使用され,エッジワイズ巻きとなってい
ました。ディフューザーには,重量級の真鍮製が採用され,厚み・形状の改良により不要共振を低
減していました。また,ディフューザー自体の表面は微粒のパフ剤で丁寧に磨き上げたのちクリア
ラッカーで仕上げた,美しい光沢のあるものとなっていました。
ウーファーには,NS-2000,NS-1000Xなどで高い評価を得ていた,長繊維カーボンファイバー
一方向配列のピュアカーボンウーファーを搭載していました。これは,カーボンファイバーの原型とも
いえる長繊維ロールシートのまま振動板としたもので,シートを扇形に,コーンを8等分して32枚,
繊維方向にカッティングしたものを樹脂をマトリックスとして1/4ずつずらして4枚重ねてコーン状に
成形したものでした。振動板の形状としては,ストレートコニカルタイプ(コーンのくぼみがカーブして
いない)になっていて,カーボン繊維の引張・圧縮強度をそのまま生かして高剛性化を実現したコー
ン型振動板となっていて,ベリリウムによる中・高域ユニットに負けないハイスピードな応答特性を実
現していました。また,コーンのセンターキャップにも同一の一方向配列・長繊維ピュアカーボンファイ
バーを使用していました。
ウーファーのフレームはコンピューターシミュレーションで形状・材質等に十分に検討が加えられた,
アルミダイカスト12mm厚でした。フレームアームも一般的なV字型からより強固な肉厚のU字型ア
ームへと改良がなされ,共振を使用周波数帯域外へ排除していました。また,ウーファー各部の不
要振動を抑えるために,マグネットをサンドイッチするように,フレームとボトムプレートを10mm径の
極太ボルト4本で連結する構造となっていました。エンクロージャーは,不要回析を抑えたラウンドバッフルとなっていました。しかし,通常のフロントバ
ッフルや側板を削ってラウンド形状を持たせたものではなく,より高い強度と不要共振を抑えた構造
となっていました。ヤマハならではのグランドピアノの側板成形と同じ手法によるもので,樺スライス
板を1枚1枚金型に添えて丁寧に曲げ練りながら,特殊接着剤で加圧接着したもので,狂いの少な
い単板バッフルボードとして仕上げられていました。側板との接合も,構造強度・接着面強度の高い
フィンガージョイント工法が採用されていました。さらに,ラウンド部周辺の強度を高めるため,接合部
裏側から無垢のブナ材による補強がなされていました。エンクロージャー表面は,アメリカンウォルナ
ットが使用され,美しいオープンポア仕上げとなっていました。
ユニット配置は,このラウンドバッフルを生かして,ユニットをバッフル面センター軸上に垂直に配置し
た,インライン・センター配置とされ,すぐれた音場再現性を実現していました。
ネットワークは,高品位のパーツが厳選され,大型のMP(メタライズド・ペーパー)コンデンサ,ケイ素鋼
板コアのOFC巻線コイルが使用されていました。また,スピーカーターミナルからネットワーク回路,各
スピーカーユニットにいたる内部配線材にはすべてOFC線が使用されていました。さらに,ネットワーク
回路の組み立てには,パーツ間に異種金属を介在させない,パーツ端子どうしを発熱溶着させるプラズ
マスポット溶接が導入され,無ハンダ・ダイレクト結線となっていました。
NSX-10000には,専用のスピーカースタンドSPS-10000(2台1組,¥200,000)がありました。
マリンバの用材として使われている,堅くて緻密な材アメリカンパドックを加工したもので,音波の回り
込みによるスタンド内での定在波を防ぐように,空気力学に基づく翼断面形状の4脚仕様で,ラウンドバ
ッフルのR部とのマッチングも考えられた美しいものでした。重量は14.5kgもあり,NSX-10000と
同じオープンポア仕上げの,アメリカンウォルナット仕上げとなっていました。以上のように,NSX-10000は,ヤマハ10000シリーズのスピーカーとして,ヤマハらしいデザインと
技術が投入された,素晴らしいスピーカーでした。非常に高性能であり,アンプの性能も要求する1台
でしたが,ヤマハらしい繊細で美しい中高域と引き締まった低音を聴かせてくれる逸品でした。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
高純度GC(ジャイアント・クリスタル)ベリリウムと,
一方向配列・長繊維カーボンファイバーの3ウェイ構成。
◎高純度原子組成により伝送ロスをボイスコイルから配線材に至るまでの全面的な高音質化。
低減した,GCベリリウム振動板。
ピュアベリリウムスコーカー,ツィータ。
◎長繊維カーボンファイバー・一方向配列による
ピュアカーボンウーファー。
◎コンピュータシミュレーション導入。
音響あるみダイキャスト製
高剛性ウーファーフレーム。
◎樺合板12枚積層・曲げ練りバッフル。
高強度フィンガージョイント接合。
◎明確なステレオイメージを生み出す
スピーカーユニットのインラインセンター配置。
◎異種金属の介在しない,
プラズマポット溶接ネットワーク回路。
◎ハイグレードパーツ採用。
気品あふれる美観。
アメリカンウォルナット仕上げ。
型式 | 3ウェイ密閉型 |
使用ユニット | ウーファ:33cmピュアカーボンファイバーコーン
スコーカ:8.8cmピュアベリリウムドーム ツィータ:3.0cmピュアベリリウムドーム |
許容入力 | 125W |
ミュージック許容入力 | 250W |
インピーダンス | 6Ω |
出力音圧レベル | 90dB/W.m |
最低共振周波数 | 35Hz |
再生周波数帯域 | 35Hz〜20kHz |
クロスオーバー周波数 | 500Hz(12dB/oct),5kHz(12dB/oct) |
外形寸法 | 752H×450W×410Dmm |
重量 | 54kg |
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