Nakamichi OMS-70Ⅱ
COMPACT DISC PLAYER ¥288,000
1986年に,ナカミチが発売したCDプレーヤー。ナカミチは,1984年にCDプレーヤーの1号機としてOMS-70
を発売し,音質の良さで高い評価を得ていました。ナカミチはその後,セパレートアンプ,チューナーなどを含む
「70シリーズ」を展開していきました。そして,このシリーズのCDプレーヤーであるOMS-70を改良・強化して発
売されたのがOMS-70Ⅱでした。

OMS-70Ⅱの最大の特徴は,新開発の「グリッチフリー・D/Aコンバージョンシステム」にありました。これはD/A
コンバーター部に続くアナログ部のシンプル化を実現することによる音質の向上をめざしたものでした。当時の一
般的なCDプレーヤーのD/Aコンバーター部に続くアナログ部は,サンプルホールド回路→アナログローパスフィル
ターという構成になっていました。D/Aコンバーターから出力されるアナログ信号には,「グリッチ」と呼ばれるデジ
タルノイズが乗っており,サンプルホールド回路によってグリッチの乗った部分をミュートして取り除き,きれいな信
号だけをサンプリングし,ホールドする必要がありました。しかし,このサンプルホールド回路には,アナログスイッ
チやコンデンサーなど音質的に好ましくなく素子が含まれており,特に微小信号がノイズに埋もれるなどの悪影響
が生じていました。デジタルデータの段階でグリッチの発生原因を取り除き,こうしたサンプルホールド回路を排除
して理想的なアナログ回路構成をめざしたのが「グリッチフリー・D/Aコンバージョンシステム」でした。



各ビットごとに抵抗とスイッチがずらりと並んでいるのがD/Aコンバーターの基本的な構造で,いくつもあるスイッ
チのON/OFFのタイミングの微妙なずれにより,入力したデータの立ち上がり,立ち下がりに時間差が生じ,グ
リッチが発生することになります。このグリッチの発生原因を取り去るために,「デジタル・デグリッチング回路」が
設けられているのが「グリッチフリー・D/Aコンバージョンシステム」の特徴でした。

OMS-70Ⅱでは,44.1kHzのデジタル信号が,まず16ビット4倍オーバーサンプリングデジタルフィルターに
より4倍の176.4kHzにオーバーサンプリングされ,不要信号の下限を156.4kHzにまで追いやり,後段の
アナログ・ローパスフィルターの負担を小さくしていました。
このデジタルフィルターの後にフォトカプラー(光結合素子)を挿入し,ブランドループを電気的にカットすることで
サーボ系から生じグランドループを伝わるデジタルノイズの混入をシャットアウトしていました。
次に,データのシリアル/パラレル変換が行われ,パラレル状態でホールドされた後,各ビットLch/Rch同時に
D/Aコンバーターに出力されていきます。ここに挿入されていたのが,「デジタル・デグリッチング回路」でした。こ
の回路は,各ビットのスイッチが同時に動作するようにD/Aコンバーターに対して厳密なコントロールを行い,グ
リッチの発生をほぼゼロに近づけるようになっていました。この結果,D/Aコンバーター単体での歪率も0.0015
%以下というきわめてすぐれた値をマークしていました。D/Aコンバーターは,ニクロム薄膜による高精度ラダー
抵抗網を内蔵した16ビット・ハイスピードタイプがL・R独立でデュアルで搭載されていました。デジタルフィルター
によって4倍にオーバーサンプリングされた16ビットのデジタル信号をそのまま処理するスピードと高い変換精
度を達成し,また,デュアルD/Aコンバーターにより両チャンネルのデジタルデータを同時に変換するため,位相
ずれのないすぐれた高域再生能力を実現していました。

D/Aコンバーターに続くアナログ部は,上述のようにサンプルホールド回路も排除され,カットオフ周波数30kHz
の3次アクティブ型リニアフェイズ・ベッセルフィルターというきわめて単純な構成が実現されていました。ベッセル
フィルターは,2段のDCアンプ構成で,アンプの裸特性を可能な限り高めることで,わずかなNFBをかけるだけで
0.0003%という超低歪率を実現していました。そして,Lch,Rchは完全左右対称とされ,各チャンネルの前段
後段はそれぞれ独立したレギュレータから電源供給を受け,こうした構成により,チャンネル間の相互干渉が徹
底して抑えられ,100dB以上というすぐれたチャンネルセパレーション特性を確保していました。使用パーツは,
金属皮膜抵抗,マイカコンデンサー,セラファインコンデンサー,完全無誘導型コンデンサーなど,聴感テストで厳
選された高品質のオーディオ専用品が投入されていました。NFB用抵抗には黄銅キャップタイプが採用され,各
段の入力部は,High-gmデュアルFETによる差動入力とし,金メッキピンジャックは配線による音質劣化を防ぐ
ためにアナログ基板に直付けとしていました。



デジタルパーツは大幅なIC化を進め,アナログ部は大型の基板を採用し,各回路ブロックをゆったりとレイアウ
トしていました。デジタル部はできるだけ小さくしてノイズ発生源を縮小し,アナログ部はゆとりある構成とすると
いう基本設計となっていました。さらに,アナログ基板をアルミシールドケースで密閉し,空気中から飛び込む様々
なノイズから音楽信号を保護するようになっていました。さらに,基板内でもD/Aコンバーターとアナログフィルター
の間にはパワーサプライ用の純銅バスバーを3重に配してシールド効果をもたせるようになっていました。

電源部は,アナログ部(フォトカプラー以降)とデジタル部(サーボ,ロジックコントロール)にそれぞれ独立したトラ
ンス巻線をもたせ,整流回路もセパレートし,さらにデジタル部の電源ラインにラインフィルターを挿入することで
トランス内部での巻線間容量によるアナログ部へのノイズ混入をも防止するなど,電源部での相互干渉を排除し
ていました。
そして,アナログ部に対しては,アナログ部専用巻線からマスターパワーレギュレータでまず定電圧化し,その後
Lch/Rchそれぞれ各ステージごとに独立したローカルパワーレギュレータを配してさらに定電圧化するという,2
段構えの電源供給としていました。そして,ローカルパワーレギュレータとマスターパワーレギュレータは帰還ルー
プをもたないNon-NFB電源として,パワーアンプの低NFB化に通じる設計で,各ステージ間の電圧変動による
影響を食い止めていました。アナログフィルター以外のステージでは,リレー回路,ヘッドホンアンプなどにもロー
カルパワーレギュレータを配置するという徹底ぶりで,また,各レギュレータはICを使わず,すべてトランジスター
によるディスクリート構成を採用していました。
電源に加え,アースラインにも配慮が行われていました。電源ラインにFETによるバッファを組み込み,電源を
+→-と流れるようにして,グランドは基準電位を規定するだけの働きを行うように設計し,電流にノイズや汚れ
た成分が乗っていた場合にも,グランド電位にはその影響が及ばない構成となっていました。また,グランドに電
流が流れ込まないことから,電源の直流安定性も向上し,通常,安定化電源にはDCカップリングコンデンサーが
採用されていますが,これを音質への影響の少ないツェナーダイオードに代替し,音質劣化の要因を排除してい
ました。



レーザーピックアップには,中央のメインビームの情報ピックアップ能力を高めた3ビーム方式/非点収差法レー
ザーピックアップを搭載していました。また,サーボ用に新開発のデジタル信号処理LSIを採用していました。この
LSIは,ディスク製造時のキズによりレーザーピックアップからのRF信号にドロップアウトがあった場合,キズを通
過するまでフォーカスホールドを行う機構を内蔵し,キズに起因する音飛びやスティック状態を避ける働きをするよ
うになっていました。こうした信号処理を行う複数のLSIは,ひとつの水晶振動子に同期するマスタークロック方式
を採用し,クロック同士の相互干渉によるビート発生を防止していました。
さらに,内部共振や外部振動による音質劣化を防ぐための振動対策も強化されていました。シャーシ/メカニズ
ムを強化し,ディスク・チャッキングにも工夫を凝らしていました。
ディスクドライブメカニズムは,専用の亜鉛合金ダイキャストシャーシに直付けすることで剛性を高め,メインベー
スシャーシおよびディスクローディング機構から独立させ,しかもスプリングとダンプ材によりメインベースシャーシ
から完全にフローティングさせ,内部共振や外部振動の影響を受けにくい構造としていました。また,ディスクを
ホールドするチャッキングアームはマグネットチャック方式を採用し,ディスク装着時にディスクを確実に固定して
アームが完全にディスクから離れるようにし,シャーシ振動のディスクへの伝達を防いでいました。さらに,ユニー
クなセンタリング機構により,ディスクの偏心による読み取りエラーも防止するようになっていました。

機能的には,通常の前後への選曲の他に,本体に設けられた10キーによりトラックNo.さらにインデックスNo.
でのダイレクト選曲が可能となっていました。メモリー機能は24曲まで可能で,トラックNo.やインデックスNo.で
のメモリーができるようになっていました。10キー付きのワイヤレスリモコンも付属していました。
表示部は,大型のFLディスクプレイが装備され,トラックNo.とタイム表示となっていました。タイム表示は,トラッ
クの演奏時間,全体の演奏時間,残り時間の切替表示が可能となっていました。

以上のように,OMS-70Ⅱは,前モデルOMS-70と外観は同一ともいえるものながら,内容的には大幅に強化
改良が行われ,ナカミチらしい,色づけの少ないクリーンな音を実現していました。


Nakamichi OMS-50Ⅱ
COMPACT DISC PLAYER ¥208,000


OMS-70Ⅱには,弟機のOMS-50Ⅱも発売されていました。24曲プログラムメモリー,10キーによるダイレクト
サーチ,インデックスサーチ,10キー付ワイヤレスリモコンなどの機能が省略されているほかは,性能や音質に関
わる,メカニズム,回路など,その他の部分は同一で,機能を絞った質実剛健な音質重視モデルといった感じでし
た。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



D/A変換時のグリッチ発生を根絶し,
あらゆるアングルから音質対策を徹底。
Nakamichiの完全主義が,
またひとつ神話をつくります。
ハイエンドCDプレーヤー
OMS-70Ⅱ/OMS-50Ⅱ。

コンパクトディスクに記録された
情報を限りなくピュアに引き出す
デジタルデグリッチング回路を新開発。
グリッチフリー・D/Aコンバージョンシステム。

◎サンプルホールド回路の追放。
 それがアナログ部のシンプル化を可能にします。
◎新開発デジタル・デグリッチング回路を搭載
 した「グリッチフリーD/Aコンバージョンシステム」。
◎16ビット4倍オーバーサンプリングデジタルフィルター
 &デュアル16ビットD/Aコンバーター。

光で,電源で,考えうる限りの
デジタル/アナログ完全分離を実施。
アナログ回路はリニアフェイズ
3次ベッセルフィルターだけというシンプルさです。

◎グランドループから混入するデジタルノイズを
 シャットアウト。フォトカプラーによる光伝送方式。
◎アナログ回路基板をアルミシールドケースに
 密封。空中を飛来するノイズをも排除します。
◎電源部での相互干渉を極限まで排除する
 マルチレギュレーテッド・パワーサプライ。
◎アースラインに電流を流さず,フラレによる影響を
 カットする,アイソレーテッド・グランド方式。
◎リニアフェイズ3次ベッセルフィルターを
 完全ディスクリート構成としたアナログ回路。

より正確な信号検出に力を注いだ
ピックアップ&高精度サーボ部。
さらに,シャーシの強化やメカニズムの
フローティングなど,振動対策も徹底。

◎メインビームがより正確な情報をピックアップ
 する,3ビーム方式レーザーピックアップ。
◎シャーシ/メカニズムはもとより,チャッキング
 方式でも振動対策に万全を尽くしました。

CDの機動性をフルに生かす
実用機能に,一歩踏み込んだ
便利機能をプラスし,操作性も
大幅に向上させました。

◎24曲プログラムメモリー(OMS-70Ⅱ)
◎タイム/トータルタイム/タイムリメイニング表示
◎大型FL集中ディスプレイ
◎ダイレクトトラックサーチ(OMS-70Ⅱ)
◎インデックスサーチ(OMS-70Ⅱ)
◎10キー付ワイヤレスリモートコントロールユニット(OMS-70Ⅱ)
◎トータルシステムリモコン対応設計
<その他の特長>
●スキップサーチ
●ダブルスピードキューイング
●リピートプレイ
●ダイレクトオペレーション
●ヘッドホン出力およびヘッドホン出力調整ボリューム(OMS-70Ⅱ)
●金メッキ出力端子
●金メッキ&無酸素銅線による高性能ピンコード付属




●OMS-70Ⅱ/OMS-50Ⅱ主な規格●

型式 デジタルオーディオシステム(コンパクトディスク方式)
読み取り方式 非接触光学式(半導体レーザー使用)
エラー訂正方式 CIRC方式
チャンネル数 2チャンネルステレオ
標本化周波数 44.1kHz
量子化数 16ビット直線
ディスク回転速度 約200~500rpm(線速度一定)
ワウ・フラッター 測定限界以下
周波数特性 5~20,000Hz±0.5dB
S/N比 104dB以上(IHF A-WTD)
全高調波歪率 0.0025%(1kHz)
全高調波歪率+雑音 0.0035%(1kHz) 
チャンネルセパレーション 100dB以上
出力 ライン:2V/100Ω (1kHz,0dB)
ヘッドホン(OMS-70Ⅱ):35mW以上
            (1kHz,0dBヘッドホンレベル最大)8Ω
電源 AC100V,50/60Hz
消費電力 最大25W
大きさ 435(巾)×100(高さ)×308(奥行)mm
重さ OMS-70Ⅱ:約7.4kg,OMS-50Ⅱ:約7.3kg
※本ページに掲載したOMS-70Ⅱ,OMS-50Ⅱの写真・仕様表等は
 1986年6月
のNakamichiのカタログより抜粋したもので,ナカミチ株
 式会社に著作権
があります。したがってこれらの写真等を無断で転載
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