Accuphase P-300V
STEREO POWER AMPLIFIER ¥350,000
1987年に,アキュフェーズが発売したパワーアンプ。1973年,アキュフェーズは,創立時に第1号製品として
コントロールアンプC-200,パワーアンプP-300というセパレートアンプを発売し,スタートしました。P-300は
当時,海外の高級機に負けない性能の本格的パワーアンプとして,1号機とは思えないほどの完成度を誇り,高
い評価を受けました。その後,P-300S(1977年)→P-300X(1980年)→P-300L(1984年)→P-300V
(1987年)とモデルチェンジし,内容が改良・強化されていきました。そしてP-300Vはこうした「P-300シリーズ」
の最終モデルとなりました。

「P-300シリーズ」はモデルチェンジの度に時代の先端の技術を導入し,性能を高め,完成度を高めていきました。
初代の P-300では,当時の国産アンプの水準を大きく超え,海外機にしか見られなかった150W/chのハイパ
ワーを実現しました。(このパワー値がP-300の名称につながっている。)それから4回のモデルチェンジを経て
P-300Vが1987年に登場しました。その間,「全増幅段プッシュプル駆動」をベースに,DC化,低負荷インピー
ダンス対応,バランス入力対応というように改良が重ねられ,パワー段の強化(出力も180W/chにアップ),ドラ
イブ段のMOS-FET化など時代に対応して高性能化が進められていきました。音の方も,初代のP-300が,ど
ちらかというとアメリカンサウンドともいうべきやや力強い感じがあったのに対して,次第に完成度を高め,音の方
も洗練され,整然として透明感のある日本的とも言えるアキュフェーズの音をつくっていきました。



出力段は,コレクター損失(Pc)130Wの広帯域トランジスターを10パラレル,チャンネルあたり20個で構成され
ていました。トータル(Pc)はチャンネルあたり2,600W,出力段のパワー効率を70%とすると,理論限界値は
3,700Wにも達し,これで8Ω負荷時,チャンネルあたり出力180W/chを得ており,余裕を十分にもった出力
段となっていました。こうした余裕ある構成により,低インピーダンス負荷における大電流駆動能力も確保されて
おり,4Ω=280W/ch,2Ω=350W/chのパワーの供給が可能となっていました。さらに,このクラスでは初め
て1Ωという低インピーダンスも十分にドライブできるパワーアンプとなっていました。
電源部は,大型のトロイダル電源トランスと40,000μF×2のフィルターコンデンサーによる強力な電源部で
1Ω負荷でのドライブも可能な強力な出力段を支えていました。

大出力時のみでなく,小出力域での低歪みを実現するために,まず,出力段で生ずる小出力時のスイッチング歪
みに対しては,PNP,NPNそれぞれの素子が入力信号によってカットオフにならないように動作点を厳密に設定
していました。そして終段をドライブする前段はノンスイッチングA級ドライブと等価なMOS FETを採用し,カスコー
ド・プッシュプルで構成していました。このMOS FETに信号を送りこむ前段もA級カスコード・プッシュプルとしてい
ました。これらの構成により,小出力から定格出力の大出力まで歪みが少なく,負荷に対しても安定した出力段と
なっていました。

入力回路は,高利得でかつ超高域の周波数特性,位相特性にすぐれ,入力インピーダンスの変動に対しても歪
率の悪化が少ないという特徴をもつカスコード・ブートストラップ回路を構成していました。この回路をプッシュプル
で構成し,広帯域のドライブ段とあいまってNFループ内の素特性も飛躍的に改善されていました。また,電源部
のトランスに前段増幅回路専用の捲線を設け,左右独立の整流,フィルター回路を通して供給することで,出力
段に影響されず,左右の干渉も抑えられていました。
入力信号は,ダイレクトに入力される直結方式で,DCドリフトが出力にまで影響を与える恐れがあるため,DC
サーボ方式を採用し,直流をカットするとともに,温度変化によるアンプ自体のDCドリフトも安定させていました。



P-300Vも,ペアとなるC-200Vと同様に,パワーアンプとして多機能な設計となっていました。入力は,アンバ
ランス入力2系統,バランス入力1系統の3系統が装備され,フロントパネルのスイッチで切り替えられるように
なっていました。アンバランス入力の内1系統は,フロント・サブパネル内に設けられ,プリアンプのテスト等に便
利になっていました。バランス入力は,本格的な40kΩ,国際規格の3P-XLRタイプ・コネクターにより,幅広い
バランス出力を接続することができるようになっていました。バランス入力回路は,差動入力回路のプラス・マイ
ナス入力へそのまま信号を入力する理想的な構成となっていました。入力系にはL・R独立の精密な入力レベル
コントロールがフロントパネルに装備されていました。このレベル・コントロールは,連動誤差の少ない高品質な
1dBステップ・アッテネーターが採用され,入力回路はレベル・コントロールの位置で周波数特性変化しないよう
に配慮されていました。
フロント・サブパネル内には,ブリッジ接続切替スイッチも装備されていました。ブリッジ接続にすることで,8Ω=
560W,4Ω=700Wのモノフォニック・パワーアンプとしても使えるようになっていました。さらに,フロント・サブ
パネル内には,P-300シリーズ伝統の,パワーアンプとしては珍しいヘッドフォン・ジャックも装備されていました。
スピーカーはA,B2系統の端子を装備し,フロントパネルのスイッチで切り替えられるようになっていました。2組
のスピーカーを接続した場合,使用していない方のスピーカーがもう一方のスピーカーの振動を受けて共振して
音質を損ねる現象を防ぐために,動作していないスピーカーを自動的にショートし,共振を防止するようになって
いました。
その他,フロントパネルには,P-300以来の出力計を装備し,対数圧縮型ピーク・パワーメーターで,dBとともに
8Ω負荷時の出力電圧を直読できるようになっていました。フロントパネルのデザインは,P-300以来の伝統を
継承したデザインで,ツマミ,プッシュボタンが整然と配置されていました。ツマミ,プッシュスイッチ類はアルミ製
で,操作した感触も高級感がありました。P-300Lまでは,オプションでウッドキャビネットが用意されていました
が,P-300Vでは,上級機に見られるような天然パーシモンのサイドウッドが装着された筐体となり,高級感も増
していました。

以上のように,P-300Vは,「P-300シリーズ」の最終形として,高い完成度を実現していました。性能と機能が
きちんと両立され,クリアでバランスのとれた音をもつ使いやすいパワーアンプとなっていました。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



アキュフェーズが誇る超ロングランモデル。
全段プッシュプル構成,DCサーボで
全信号系を直結。
ステレオ180W/ch,
モノフォニックで560W(8Ω)を保証する
10-パラレル・プッシュプル・パワーステージ。
2Ω負荷をも完全駆動する
新時代のパワーアンプ。

◎10-パラレル・プッシュプルの強力出力段に より
 8Ω=180W/ch,2Ω=350W/chの充実パワー
 1Ω負荷もドライブ可能
◎ブリッジ接続により,8Ω=560W,4Ω=700W
 の純粋モノフォニック・パワーアンプに変貌
◎外来誘導雑音の影響を受けないバランス入力
◎小出力時のひずみ率と高域の安定性を改善した
 「カスコードPP+MOS FETカスコードPP」ドライブ段
◎NFループ内の素特性を飛躍的に改善した
 「カスコード・ブートストラップ差動プッシュプル」
◎DCサーボ方式直結アンプを構成
◎dBとワッテージ目盛付きピークパワー・メーター
◎フロント入力端子とヘッドフォーン端子
◎2系統のスピーカー接続可能
◎天然パーシモンのサイドボード




●P-300V 保証特性●

連続平均出力
(20~20,000Hz ひずみ率0.01%)
ステレオ仕様時(両チャンネル同時動作) 
 350W/ch  2Ω負荷 
 280W/ch  4Ω負荷 
 180W/ch  8Ω負荷 
  90W/ch 16Ω負荷 
モノフォニック仕様時(ブリッジ接続) 
 700W     4Ω負荷 
 560W     8Ω負荷 
 360W    16Ω負荷
全高調波ひずみ率 ステレオ仕様時(両チャンネル同時動作) 
 0.01% 2~16Ω負荷 
モノフォニック仕様時(ブリッジ接続)
 0.01% 4~16Ω負荷0
IMひずみ率 0.003%
周波数特性 20~20,000Hz +0,-0.2dB 
(連続平均出力時,レベル・コントロールMAX) 
0.5~160,000Hz +0,-3.0dB 
(1W出力時,レベル・コントロールMAX,-6dB共) 
ゲイン 28.0dB(ステレオ・モノフォニック仕様時共)
負荷インピーダンス 2~16Ω ステレオ仕様時 
4~16Ω モノフォニック仕様時(ブリッジ接続)
ダンピング・ファクター(EIA 50Hz) 300 ステレオ仕様時 
150 モノフォニック仕様時(ブリッジ接続)
入力感度(8Ω負荷) ステレオ仕様時 
 1.5V(連続平均出力時) 
 0.12V(1W出力時) 
モノフォニック仕様時(ブリッジ接続) 
 2.7V(連続平均出力時) 
 0.12V(1W出力時)
入力インピーダンス アンバランス20kΩ,バランス40kΩ
S/N(A-補正) 120dB 
(連続平均出力時,入力ショート) 
100dB 
(1W出力時 入力1kΩ) 
ステレオ・モノフォニック仕様時共
ステレオ・ヘッドフォーン 適合インピーダンス:4~100Ω
サブソニック・フィルター 10Hz -18dB/oct
出力メーター 対数圧縮ピーク指示型 -40dBから+3dB及び 
出力直読目盛
使用半導体 90Tr,16FET,8IC,73Di
電源・消費電力 100V,117V,220V,240V 50/60Hz 
消費電力  130W   無入力時 
        630W  電気用品取締法 
        600W 8Ω負荷定格出力時 
寸法・重量 幅475mm×高さ170mm(脚含む)×奥行408mm 
24.8kg
※ 本ページに掲載したP-300Vの写真,仕様表等は1987年の
 Accuphaseのカタログより抜粋したもので,アキュフェーズ株式
 会社に著作権があります。したがって,これらの写真等を無断で
 転載・引用等することは法律で禁じられていますのでご注意くだ
 さい。

  
 
 
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