P-307の写真
ONKYO P-307
STEREO PREAMPLIFIER ¥220,000

1978年に,オンキョーが発売したプリアンプ。スピーカーメーカーとしてスタートしたオンキョーは,1969年より
プリメインアンプの分野で「Integra(インテグラ)シリーズ」を展開し,アンプの分野でも定評を得るようになってい
きました。そんなオンキョーが,1970年代後半に入り,本格的なセパレートアンプの分野でも,「インテグラシリ
ーズ」として,すぐれた製品を展開していきました。そのプリアンプの中でも最上級機として発売された高級プリア
ンプがP-307でした。

P-307の最大の特徴は,新開発の「スーパーサーボ方式」の搭載でした。当時,一般的にプリアンプでは,セレ
クター,トーンコントロール,フィルターなど各種の操作機構をもつため,有害な超低域をカットしたり,DCドリフト
を抑えるために,段間やNF(トーン回路)にコンデンサーが入っていました。反面,コンデンサーは固有の音の
癖を持つ,低域のインピーダンスが上がってしまうなど,音質面での問題点があるため,特にパワーアンプでは
信号系のコンデンサーを排除して直結化するDC(ダイレクトカップリング)化が進められていました。そうした中
オンキョーは,この問題に対して「スーパーサーボ方式」で対処していました。プリアンプであるP-307において
も,各ステージごとにモノリシック・オペアンプによるサーボオペレーションを行い,十分に余裕をみて2Hz以下の
超低周波をカットすることで,全段を通じて信号系(カップリング及びNFループ)には,完全にコンデンサーのない
構成が実現されていました。

2つ目の大きな特徴は,「ダイレクトトーンコントロール方式」の採用でした。通常トーンコントロール回路は,イコ
ライザーアンプとトーンアンプの間に挿入され,トーンブーストの場合に備えて,20dB近いゲインをもつものとなっ
ていました。トーン回路が常にこのようなゲインをもっていることで,トーン回路自体のS/Nや歪特性にも影響が
表れ,さらにトーン回路の後にインピーダンス変換器の働きをさせるバッファアンプを1段入れる必要も出てきて
回路の複雑化の問題もありました。そのため,当時の多くのプリアンプやプリメインアンプではトーン補正をしな
いことを前提にした(?),トーン回路をとばすトーン・ディフィートポジションやトーン回路のON-OFFが設けられ
ていました。「ダイレクトトーンコントロール方式」は,構成としてはイコライザーアンプとフラットアンプだけで,トー
ン特性はボリュームコントロールと関連をもたせて行われるようになっており,アクティブな素子は全くなく,すべて
パッシブな素子で構成されていました。余分なゲインやバッファアンプも不要な形のシンプルな構成のトーン回路
となっており,信号経路にコンデンサーが入らない回路構成ともあいまって,音質上の問題はほぼ解消されたトー
ン回路となっていました。ただ,パッシブ素子のみでボリュームコントロールとの関連を利用した方式であるため
その動作もやや独特のもので,ボリュームの位置が12時付近までは,通常のトーンコントロールと同じような変
化特性を示しますが,それ以上のボリューム位置では,次第にトーンのブースト量が減衰するというものでした。

P-307の基本的な回路構成は,イコライザーアンプ,MCアンプ,フラットアンプというシンプルでオーソドックス
なものでした。
イコライザーアンプは,前段カスコードFET差動入力,カレントミラー付差動1段,A級パラレルプッシュプル出力
段という構成で,負荷の変動を受けにくく,安定で高域まですぐれた歪み特性が実現されていました。RIAA特性
を得るイコライザー部は,通常NF回路にRIAA素子を挿入するのが一般的な構成ですが,高域になるほど大き
な減衰特性をもたす必要があり,NFを深くかけることにより,特性面での問題も出てくることもありました。そこで
P-307のイコライザー部では,RIAA補正をかける周波数を2つに分け,ローブースト側はNF型,ハイカット側に
はCR型を用いるというNF・CR分割型が採用されていました。特に高域を安定なCR減衰で補正することで,ス
ルーレイト劣化やブロッキングの発生などが抑えられ,混変調も少なくなっていました。2系統の時定数回路でそ
れぞれの帯域を受け持つこのイコライザー部は,10Hz〜100kHzの高帯域にわたって±0.2dB以内という高
い補正精度が実現されていました。
MCアンプは,FET差動入力3段パラレル接続により。ローノイズ化が図られ,MCカートリッジの低インピーダン
スに結合させるために,通常のMCアンプでは大容量のケミコンが用いられていましたが,P-307では,スーパー
サーボ方式によりケミコンが排され,特性的にも大きく向上していました。出力側はA級パラレルプッシュプル回
路が採用され,負荷変動の影響を受けにくく,高域での歪みが改善されていました。
PHONO入力は,3系統が装備され,PHONO-1,2はMM対応で,3段階のインピーダンス切替が備えられ,
PHONO-3はMC対応で,220Ωと比較的ハイインピーダンス入力に設定されていました。

フラットアンプは,カレントミラー付カスコードFET差動入力,A級プッシュプル出力という構成で,ローインピーダ
ンス負荷にも十分耐えるような設計になっていました。パワーアンプの入力インピーダンスの差により,低域カッ
トオフ周波数の変動もないため,パワーアンプの複数台接続,プリ出力の延長による影響も受けないようになっ
ていました。

P-307の内部


コンストラクションの面では,左右チャンネルの電源を完全に独立させて給電するとともに,前後段間での電源を通
じての干渉を防ぐため,給電系全体のローインピーダンス化を徹底し,ダイナミックモジュレーション(過渡的混変調
歪)の発生が抑えられていました。左右チャンネル間,各機能ブロック間,同じブロック内での前後段間での干渉な
どが原因となる歪みを抑えるために,電源電圧の安定供給と給配電ラインのローインピーダンス化が図られ,その
ために,NF型定電圧電源安定回路を各チャンネルに入れるとともに,純度の高い銅板製のブス(母線)ラインが大
幅に採用され,各ブロックを直接ローインピーダンスの供給幹線に直結される直結給電方式が採用されていました。
また,回路から出るフラックスによる磁性歪みを防ぐために,左右チャンネル,前後段間のシールドには非磁性体シ
ールド板を採用していました。さらに,シャーシや裏板,特にフラックスの影響をうけ易い部分で使われる機構部品,
スイッチやボリューム本体,そのシャフトにいたるまで非磁性体が使用されていました。
パーツの面では,電子部品,スイッチ類,パネル,ツマミ,ビスなど精度の高い部品が使用され,主要なスイッチ,リ
レーの接点や,PHONO端子などには,それぞれ銀接点,金メッキが採用されていました。

機能的にはオーソドックスにまとめられていました。テープ端子は2系統装備され,相互ダビングも可能となっていま
した。その他,−20dBのミューティング,STEREO/REV/MONO R+L/L/RのMODE切替,0dB/−10dB/−20
dBの出力レベル3段階切替などが装備されていました。また,7kHzのハイカットフィルターはトーンコントロールと一
体化されており,サブソニックフィルターはカットオフ周波数が15Hz/20Hzの2段階に切り換えられるようになってい
ました。

以上のように,P-307は,本格的なプリアンプとして,それまでのインテグラシリーズと比較してもより高いグレード
でまとめられた高性能で高機能な1台となっていました。デザイン的にもこの後の同社のセパレートアンプにつなが
る精悍なデザインは精度の高さを感じさせるものとなっていました。鮮明でクリアな躍動感のある音は高い評価を得
ることとなりました。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



高忠実度伝送に徹して堂々登場。
話題のプリアンプです。

インテグラの思想”音楽を楽しく聴くための”
ポリシーをさらに完成の域に近づけた
超絶のプリアンプ。

新開発スーパーサーボ方式とダイレクトトーン
回路がプリアンプのイメージを大きく変えました。


◎全段オペレーショナル方式による
 スーパーサーボアンプ
◎LR独立直結給電方式
◎非磁性体シールドの採用
◎低歪率のNF/CR型イコライザアンプ
◎確実に動作する各種保護回路
◎ローインピーダンス負荷に耐えるフラットアンプ
◎ハイグレードのMCアンプ
◎全段を通じて徹底した高精密部品の使用



●主な定格●

入力感度,入力インピーダンス PHONO-1,2(MM)  2.5mV 33k/47k/100kΩ
PHONO−3(MC)    120μV 220Ω
TUNER,AUX       150mV 47kΩ
TAPE-PLAY-1,2    150mV 47kΩ
定格出力電圧,出力インピーダンス TAPE-REC-1,2  150mV 2.2kΩ
OUTPUT-1,2    1.5V(最大出力20V) 220Ω
PHONO最大許容入力 MM/MC  1kHz THD0.05% 350mV/17mV
MM/MC 10kHz THD0.05% 170mV/82mV 
周波数特性 PHONO-1,2 1.6Hz〜200kHz(+0,−3dB)
PHONO-3     5Hz〜200kHz(+0,−3dB)
TUNER,AUX,TAPE PLAY-1,2 0.8Hz〜250kHz(+0,−3dB)
全高調波歪率(THD)
 20Hz〜20kHz,VOL:−3dB
 出力電圧:3V
PHONO-1,2      0.005%以下
PHONO-3         0.01%以下
TUNER,AUX,TAPE PLAY-1,2 0.005%以下
混変調歪率 0.01%以下(定格出力時,SMPTE法(70Hz:7kHz=4:1))
S/N
(IHFネットワーク)入力シャント
PHONO-1,2       83dB
PHONO-3         67dB
TUNER,AUX,TAPE PLAY-1,2 100dB
トーンコントロール BASS   ±6dB at70Hz(VOL:−20dB)
TREBLE ±6dB at20kHz(VOL:−20dB)
フィルター特性 HIGH CUT FILTER  7kHz
EQ SUBSNIC FILTER 15Hz,20Hz
ミューティング −20dB
出力レベル
0dB/−10dB/−20dB/OFF
入出力極性
PHONO-1,2 同相
PHONO-3   同相
TUNER,AUX,TAPE PLAY 同相
トランジェントキラー動作時間 POWER ON/OFF 8sec/100msec
使用半導体 10FET,111Tr,14IC,87Di
電源 AC100V 50/60Hz
消費電力 55W(電気用品取締法規格)
AC出力 POWERスイッチ連動3,非連動1 TOTAL1400W MAX
寸法 450W×124H×435Dmm
重量 10.5kg

※本ページに掲載したP-307の写真,仕様表等は1978年のONKYO
 のカタログより抜粋したもので,オンキョー株式会社に著作権があります。
 したがって,これらの写真等を無断で転載・引用等することは法律で禁じ
 られていますのでご注意ください。

  
 
 
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