YAMAHA P-850
DIRECT DRIVE FULL AUTO PLAYER SYSTEM ¥59,800
1981年に,ヤマハが発売したプレーヤーシステム。ヤマハは,1975年に,テクニクスのSP-10と
同じモーターを使用したDDプレーヤーYP-1000を発売するなど,DDプレーヤーの時代に入り,す
ぐれたプレーヤーシステムを作っていました。その後,1980年代に入り,新しく「P」を頭文字にもつ
型番のシリーズを展開し,P-750P-550を発売しました。その上級機あるいは後継機として発売
されたのがP-850でした。

P-850は,前モデルのP-750に比べ,トーンアーム部のフルオート機能を強化していました。フル
オート機能にマイクロコンピュータ(4ビット・1.5kワード)を採用し,アームの駆動にはダイレクトドラ
イブ方式のコアレスモーターを使用し,アームリフターにも専用のモーターを搭載していました。こうし
た構成により,フルオートシステムの完成度を高めた3モーター・マイクロコンピュータコントロール・
フルオートプレーヤーとしていました



トーンアームのドライブシステムには,上述のように新しくコアレスダイレクトドライブモーターを採用し
ていました。構造的には,アームの最下部に2つのコアレスローターコイルが対称に固定されており
トーンアームと一体化して働くようになっていました。そして,このコイルからわずかに離れて2極に着
磁されたステータ・マグネットがキャビネットに固定されており,2つのコイルの一方はアームドライブ
用で,コイルに流れる電流の大きさと向きをコントロールすることによってトーンアーム自在にコント
ロールし,もう一方のコイルは,トーンアームの速度検出用で,アームの回転でコイルを横切る磁束
密度が変化し,コイルに発生した速度に比例した電圧を検出し,この速度信号がサーボ回路にフィ
ードバックされ,アームの回転速度をコントロールするようになっていました。これにより,リードイン
時の誤差をきわめて狭い範囲に収めることができるうえ,アームの動きも一段と滑らかなものとなっ
ていました。従来のアームドライブシステムでは,ベルトやプーリー,ギヤによって伝達する方式が一
般的であったのに対し,非接触ドライブ方式となるため,機械的ノイズが発生せず,メインテナンスフ
リーであるなどの利点ももっていました。

DISC SIZEボタンで30cm/17cmを選び,PLAYボタンを押すだけで,自動的に最初の曲の先頭
にリードインできるフルオート機構は,キャビネットに固定した3つのフォトインタラプタとトーンアーム
に固定したロジックシャッタからなるフォトセンサによって動作するようになっており,トーンアームが
いかなる位置にあってもフォトインタラプタから出る3ビットの信号を内蔵のマイクロコンピュータが処
理しトーンアームを指定の位置までスムーズにコントロールするようになっていました。フォトセンサは
アームのレスト位置やリターンゾーンの検出も行うようになっており,検出動作は全て非接触の光学
式で,アーム動作や音質への悪影響を抑え,スムーズな動作が可能となっていました。リターンゾー
ンの検出も無接触方式で,トーンアームの速度検出でアームの速度が大きくなると自動的にリターン
動作に入るようになっていました。
アームが指定位置まで移動すると,マイクロコンピュータからアームリフタ用のサーボモーターへアー
ムダウン信号が送られ,静かにアームが降下するようになっており,演奏中にカットボタンを押すと
アームリフタ用モーターがONになり,アームがアップ,続いて水平方向のコントロールが開始され・・
というように,各動作は,マイクロコンピューターにより確実にスムーズに行われるようになっていまし
た。
フルオート動作以外に,アームのマニュアル動作も,マイクロコンピューターがコントロールするように
なっており,ボタン操作でスムーズに行えるようになっていました。水平方向は,センタークリック付き
のボタンのストロークの違いでファーストアクセス,スローアクセスの2スピードアクセスが可能となって
いました。アームのアップ・ダウンは,フルオート動作時のシステムを外部ボタンからの信号でマイク
ロコンピュータが制御する仕組みになっていました。
また,マイクロコンピュータが制御することで,アームの水平動作中に外力が働くと0.5秒後にアーム
の動作が停止してアームの損傷を防ぐ,2つ以上のボタンを押した場合,より安全な動作を優先させ
るなど,操作ミスに対しても安全方向に動作するようにコントロールされるフェイル・セーフが実現され
ていました。
アームの操作等のコントロールボタンは,すべてパネル前面に配置され,ダストカバーを閉じた状態
でも操作可能となっていました。



トーンアームは,ヤマハ独自ののARS(Anti Resonannce Straight)アームを搭載していました。
ARSアームは,ほぼ左右対称のストレートアームで,バランスウェイトを大型で横長の矩形にし,支
点に近づけたことによって振れ振動の発生を抑えた構造になっていました。そして,アームをサポー
トするピボット間のスパン(距離)を通常の広くしたり,軸受けのアンギュラコンタクトベアリング(軸方
向,円周方向の両方の力を同時に受けるベアリング)をゴムダンパーで支えることにより感度アップ
とガタによる共振の排除を実現していました。さらに,アームパイプ前後のたわみ振動に対しては,
パイプホルダを大型で堅牢なものにし,支点から30mmを二重構造にすることで,種々の共振の発
生を抑えた作りになっていました。
カートリッジ実装時のアームのfo(低域共振周波数)は,12Hz前後になるように設定されていました。
これは,ヤマハがダイレクトカットレコードの再生スペクトルを測定した約12Hzを境にして音楽成分
とソリや偏心成分が高低に分かれるというデータから決定されたものでした。実装時のfoが12Hz前
後になるようにするために,当時の代表的なMM/MC型カートリッジ30種の重量とコンプライアンス
の平均値を求め,アームの実効長を222mm,実効質量を11gに設定していました。これにより,市
販のMM型の80%,MC型の70%のカートリッジで,実装時のfoは12Hz前後(12Hz±2Hz)とな
っていました。
針圧調整は,スライドウェイト式で,ヘッドシェルはオフセット型のストレートアーム用のヘッドシェルで,
ADCタイプと称していました。ストレートアームでは,ローマスの点で有利なヘッドシェル一体型が多か
った中,カートリッジをつけたままヘッドシェルを交換できるタイプになっていました。ヘッドシェル本体
は,カーボンファイバー入りレジンの一体成型で,剛性の高いものとなっていました。

ターンテーブル部は,DC4相8極コアレスホールモーターによるダイレクトドライブで,クォーツPLLサ
ーボにより制御されるようになっていました。DC4相8極コアレスホールモーターは,構造上コギング
がなく回転が滑らかで,ホール素子を使用した非接触型であるために,機械的・電気的ノイズも少な
いモーターでした。このモーターの回転を制御するクォーツPLLサーボは,ターンテーブルの回転数
を全周積分型のFG(周波数発電機)で検出し,精度の高い水晶発振器からの信号と位相比較する
もので,30cm径,重量1.6kg,慣性質量210kg・cm2(ゴムシート含む)のターンテーブルとあわ
せて,ワウ・フラッター0.015%(WRMS・FG直読),SN比77dB(DIN-B)という高精度な回転を実
現していました。

キャビネットは,音響用材料であるBMC(Bulc Molding Compoud)製で,外部の振動,内部で発
生した振動を効果的に吸収するようになっていました。デザイン的には,上級機のリニアトラッキング
プレーヤーPX-2,PX-3と共通のイメージを持つ階段状のデザインが採用されていました。
ダストカバーは,3mm厚のアクリリックレジン製で,ラックの中にもセットできる着脱式となっていまし
た。また,プレーヤー全体を支えるインシュレーターは,内部損失の大きい特殊ゴムをW形に折り返
した構造のものを採用していました。

以上のように,P-850は,中級機ながらすぐれた性能をもつP-750をさらに改良したコストパフォー
マンスにすぐれた1台でした。ヤマハらしい洗練されたデザインも魅力的で,マイクロコンピューター
搭載により操作性も高められ,使いやすいプレーヤーとなっていました。


YAMAHA P-650
DIRECT DRIVE FULL AUTO PLAYER SYSTEM ¥49,800


P-850の弟機としてP-650も発売されていました。P-550の上級機ともいえる位置づけで,ター
ンテーブル,モーター,ARSアーム等,内容的にはP-850のかなりの部分を継承していました。
フルオートシステムは,マイクロコンピューター制御ではない通常のもので,トーンアームの駆動も
コアレスダイレクトドライブ方式ではなく,一般的な方式となっていました。
また,それ故か,P-850ではできなかったアーム高さ調整が±2.5mmの範囲で可能となってい
ました。
そして,P-650には,VM型カートリッジCG-6700が標準装備されており,その点でも,コストパ
フォーマンスが高められていました。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



3モータ&マイクロコンピュータ・
コントロールによる
自由自在のプレーヤシステム

◎2サイズ・純電子式フルオート機能
◎マイクロコンピュータ・コントロールの
 アップ・ダウン,オートリターン,オート
 リピート,オートカット動作
◎2スピードマニュアルアクセスと
 マニュアルアップダウンもマイコン制御
◎コアレスダイレクトドライブモータ
 によるアームアクセス
◎フェイル・セーフ
◎回転スピードに連動したサイズセレクタ

ARSアーム搭載。
クォーツDDプレーヤ

◎ヤマハオリジナルARSアーム搭載
◎DCコアレスモータによる
 強力なダイレクトドライブ
◎クォーツPLLサーボ方式
◎瞬間的な負荷変動に強い
 重量級ターンテーブル
◎ワウフラッタ0.015%
 SN比77dBという高度な特性
◎フロントオペレーション
 フルオートメカニズム
◎秀れた耐振性のBMCキャビネット
◎耐振性に秀れたダストカバーと
 インシュレータ




●主な定格●

  P-850 P-650 
SN比  77dB(DIN-B,IEC98Aweighted)  77dB(DIN-B,IEC98Aweighted) 
ワウフラッタ  0.015%(FGダイレクト) 0.025%(テストレコード法)  0.015%(FGダイレクト) 0.025%(テストレコード法)  
アーム全長 有効長  290mm 222mm  290mm 222mm 
実効質量  針圧比例型(針圧1.5g=11g)  針圧比例型(針圧1.5g=11g) 
アームリフタ  専用モーターによる  オイルダンプ式キューイング 
ミューティング  アームリフタに連動   
アンチスケーティング  回転操作型スプリングレバー式  回転操作型スプリングレバー式 
適合カートリッジ  2.5g~10g  2.5g~10g 
PUケーブル  容量100pF 往復抵抗1Ω  容量100pF 往復抵抗1Ω 
ヘッドシェル  20%カーボンファイバー入りレジン
銀メッキ差し込み型コネクター 
 
フルオートマティック
コントロール 
マイコン制御(マニュアル操作可)   
アームの水平方向駆動  マイコン制御DCコアレスモータDD   
回転系  DC4相8極コアレスホールモータDD  DC4相8極コアレスホールモータDD 
サーボ  クォーツロック  クォーツロック 
回転数  33・1/3&45rpm,LEDロックインジケータ付  33・1/3&45rpm,LEDロックインジケータ付 
ターンテーブル  30cmアルミダイカスト1.6kg(ゴムシート含む)  30cmアルミダイカスト1.6kg(ゴムシート含む) 
キャビネット  BMC製  BMC製 
寸法  440W×132H×376Dmm  440W×132H×372Dmm 
重量  7.5kg  6.8kg 
定格電源  100V,50・60Hz  100V,50・60Hz 
消費電力  10W  5W 

※本ページに掲載したP-850,P-650の写真・仕様表等は1981年5月の
 YAMAHAのカタログより抜粋したもので,ヤマハ株式会社に著作権があり
 ます。したがって,これらの写真等を無断で転載,引用等をすることは法律で
 禁じられていますので,ご注意ください。

 

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