ESOTERIC P-2
CD DRIVE UNIT ¥400,000
1989年に,ティアックがエソテリックブランドで発売したCDトランスポート。1987年,デジタルオーディオ
時代の高級機のブランドとして立ち上げられた,エソテリック(ESOTERIC=「奥義を究めた,深遠なの意
味)発足時に発売された
P-1の第2世代の後継機ともいえるCDトランスポートで,その独自の高度なメカニ
ズムをはじめ各部の完成度が高められた高級機でした。
P-2の最大の特徴は,P-1以来のVRDS(Vibration-Free Rigid Disc-Clamping System)機構の
搭載でした。ディスクと同径,微妙な角度を持つターンテーブルに,高精度に調整されたクランパーが,ディ
スク本体を圧着することで,ディスクのソリや歪みを矯正し,ディスクの不要な振動を排除するというもので
ティアック自慢の方式でした。
P-2では,新たに亜鉛ダイキャスト製ターンテーブルを採用し,高精度ヘリコイドを介したクランパーにより
ディスクを圧着することで,共振周波数と振動モードを大幅に低減していました。
また,この重量マスの大きいターンテーブルを滑らかに駆動するために,ブラシレス・ホール・モーターには
磁束密度の高いサマリウム・コバルト・マグネットを採用し,高トルクを実現して安定した回転駆動系を形成
していました。
さらに,このメカニズムを支えるメカ・ベースとモーター軸受けブリッジに亜鉛ダイキャストが用いられ,耐久
性,回転安定性,信頼性がさらに高められていました。
ここに軽量化と高剛性を両立させた高精度の新開発の3ビーム方式リニアトラッキング・ピックアップ・シス
テムが搭載されていました。
そして,これら光学系メカニズム全体は,高精度の独立懸架方式のフローティングサスペンションで支えら
れ,内部共振や外部振動,音圧の影響から守られていました。
筐体は,エソテリックブランド共通の,CDプレーヤーとして非常に高い剛性を誇る重量級の2重シャーシが
採用され,P-2では,さらに剛性強化のため,インナーシャーシの立ち上げ部を拡大し,最厚部18mmのア
ルミ削り出しフロント・パネルと強固にジョイントされ,強靱で優れた振動減衰特性を持つコンストラクション
を形成し,外部振動や内部共振にきわめて強い筐体を実現していました。また,この筐体を支える特殊合
金製インシュレーターが搭載され,さらに振動対策が徹底されていました。
フロントパネルは,トレイの開口部を極力狭め,またスイッチ類も必要最少限にとどめてトータルで筐体と
しての強度を大幅に高め,振動・共振に強いボディを実現していました。スリムでしかも剛性の高い薄型ア
ルミ削り出しディスクトレイが搭載され,ネクステル仕様とすることで,ディスクを保護していました。ネクステ
ルは,スペースシャトルの耐熱タイルにも使用されたセラミック材のアルミナを長繊維のシート状
にし,その表面にシリカをドット(網点)状に塗布することで高温化での形態維持性を高めたとい
う材質で,すぐれた耐薬品性,耐熱衝撃性,電気絶縁性をもっていました。
P-2には,LCフィルターモジュールが搭載され,不要振動の原因となる帯域を急峻にフィルタリ
ングし,結果としてサーボ電流を約60dB減衰させることで,光学系メカニズムの振動を抑え,静
粛性の向上が図られていました。
トレイの開閉は,高精度パルス検出サーボモーターによりIN/OUT時別々にスピードを自由に変
えられるD.V.S.C.機構が搭載されていました。トレイを支持するシャフトの径を極太にするとと
もに,レール部には高精度ベアリングが採用され,静粛な動作が実現されていました。IN/OUT時
のスピードはサイドパネルにある回転ツマミにより行えるようになっていました。
伝送系線材にはすべてPC-OCCが採用され,すぐれた伝送特性を実現していました。さらに,回路
基板には耐久性に優れ,経年変化に強い両面スルーホールの金メッキガラスエポキシ基板が採用され
ていました。電源部には,100VAにおよぶ大容量トランスが搭載されていました。
出力は,光2系統,同軸2系統の計4系統が装備されていました。また,西ドイツ(現ドイツ)バン・
デン・ハル(van den Hul)社製の高品質ピンコードが付属していました。
以上のように,P-2は,VRDS方式をはじめ,P-1からより強化された強靱な筐体,コンストラク
ションなど,CDトランスポートとしてティアック・エソテリックの高いメカトロニクス技術が感じら
れる1台でした。
ESOTERIC D-2
MULTI D/A CONVERTER ¥400,000
1989年に,ティアックがエソテリックブランドで発売したD/Aコンバーター。P-2とのペアを想定しつつ
も,D/Aコンバーター単体としても優れた性能と機能性を実現した1台でした。
デジタルフィルターには,45ビット8倍オーバー・サンプリング・デジタルフィルターが採用され,さらに,
正確に演算された45ビット階調の情報を18ビットへと変換するために,新開発のノイズ・シェーパーを
搭載し,18ビット以下の超微少信号も切り捨てることなく,ノイズレベル以下の分解能を実現し,微小
レベルのリニアリティを高めていました。
D-2には,ティアック自慢のディザ方式が採用されていました。ディザ方式は,初の自社開発CDプレー
ヤーであった
ZD-5000よ
り搭載されていた技術で,小振幅の音楽信号に別の細かく変動する振幅成
分(ディザ)を加えることで,小振幅の音楽信号もできるだけ原形をとどめながら量子化できるというもの
で,音楽信号を大きく変形させるよりも耳障りにならない小さな雑音成分にした方が望ましいという考え
方ともいえる方式でした。
D-2では,ZDサーキットの純度をより高めたZD-Uが搭載されていました。この新開発のZD-Uでは,
高域集中型(ハイパス)ディザを用いることで,ディザ信号を可聴帯域外においやり,S/N比を向上させ
D/Aコンバーターの変換誤差を分散させ,大幅な低歪率化を実現するディストーション・シェーピング効
果をより高めていました。
ZD-Uに組み合わされたD/Aコンバーターは,18ビット・マルチビットタイプで,このDACをL・R2個ずつ
計4個搭載していました。
正確なD/A変換に不可欠な高精度な時間軸の再現のために,VCO(Voltage Controlled Oscillator=電
圧制御発振器)からのノイズのきわめて小さなリチウム・タンタレートVCOをPLL回路に採用していました。
また,ここで得られた正確な時間軸を正確にD/Aコンバーターに伝達するため,高いキャリア純度を誇る
新開発のジッター・キャンセル回路を搭載していました。
D-2では,デジタル伝送,アナログ伝送ともに完全バランス伝送方式がとられ,アースラインへのノイズ混
入を抑えていました。この結果,アースラインに流入するデジタルノイズが逆相の信号によりキャンセルされ
変調ノイズの少ない正確な信号伝送が実現されていました。
アナログ回路には,通常のトランジスターと比較して,耳に付きやすい奇数次の高調波歪みがきわめて少
ないMOS FETが厳選使用され,純度の高い音質を実現していました。
ZDサーキットは,D/A変換後のディザ信号減算と同時に,D/Aコンバーターのオフセット電圧までキャンセル
するため,終段アンプの若干のオフセット電圧の補正のみで0Hzからの完全DC化が可能となっていました。
D/A変換後の伝送系にカップリングコンデンサーやDCサーボ回路を必要とせず,歪みや位相の面でも有利
な全段直結回路を実現していました。
回路素材には,高い伝送純度を誇るPC-OCCがふんだんに使用され,基板には,経年変化に強い,スルー
ホールに金メッキを施した肉厚のガラス・エポキシ基板が使用されるなど,伝送効率が高められ,安定した
低インピーダンス化が図られていました。また,OFCセンター・バスバーや専用に開発された,コンデンサー
ダイオード,トランジスターなどオリジナル・オーディオパーツを豊富に使用していました。
電源部には,100VAという大容量の電源トランスが搭載され,電源コードには極性表示された極太タイプ
が搭載され,デジタル系,アナログ系とも伝送性能が高められていました。
機械的,電気的干渉を排除するために,デジタル部,アナログ部,電源部,電源トランス部をそれぞれ1ボ
ックに収納し,高剛性のインナーシャーシに独立レイアウトして,最厚部18mmのフロントパネルとリジッドに
固定することで外部振動や内部共振が徹底排除されていました。また,重量パーツはボディ下部にレイア
ウトされ,低重心構造とすることでD-2の筐体全体の安定性を高めていました。さらに,制振効果の高い
特殊合金製インシュレーターが装着され,耐振性を高めていました。
デジタル入力は,光2系統,同軸2系統を搭載し,CD,DAT,BS放送などさまざまなデジタル入力対応す
るためにオートサーチ機構が装備されていました。
出力は,デジタル出力として同軸1系統が搭載され,アナログ出力としてRCAピン(アンバランス)1系統,
XLR(バランス)1系統が搭載されていました。
D-2では,出力品質を確保するために,45ビットノイズ・シェーピングによる高精度デジタルボリュームが
搭載され,高S/N比と低歪み率を実現していました。また,マニュアル・ミュート時の不快なノイズの発生を
抑えるため,波形の乱れによるノイズをデジタル回路によりなめらかに減衰させていくソフトミュート機構・
N.D.M.S.(Noiseless Digital Muting System)機構が搭載されていました。さらに,ステレオ信号時の
絶対位相切換をデジタル処理し,不快なノイズを排除したソフト・ミュート・フェーズ機構A.P.C.S.(Absolute
Phase Convert System)が装備されていました。
以上のように,D-2は,ZDUサーキットをはじめとしてD-1をより強化した内容を持った高性能なD/Aコン
バーターとして,ティアック・エソテリックらしい手堅く強靱なつくりをもった高級機でした。
P-2とD-2はそれぞれ筐体の幅が425mmであるため,左右に並べるとちょうど450mmと通常の機器と
同じ幅になるようになっていました。高級機として他の機種との組み合わせはもちろん多かったでしょうが
純正の組み合わせでは,シンプルで美しく高級感のある外観となりました。その音は,使いこなしにより敏
感で,クリアで見通しの良い音で,その中に響きの豊かさも感じさせるものでした。
また,高級機らしく,初代機
P-1,D-1からのバージョンアップサービスが実費で行えるようになっていたな
ど,エソテリックブランドならではのこだわりも感じさせてくれたものでした。