Aurex PC-X45AD
STEREO CASSETTE DECK ¥59,800
1980年に,オーレックス(東芝)が発売したカセットデッキ。オーレックスは,1977年より独自のノイズリダクション
「アドレス(adres)」を展開し,単体のノイズリダクションユニットや搭載したカセットデッキを発売していきました。当
初は10万円超と高価であった搭載デッキも次第に手ごろな価格のモデルが発売されていきました。そうした中,当
時のカセットデッキの売れ筋価格帯である「598クラス」に投入されたアドレス搭載のカセットデッキがPC-X45AD
でした。
1970年代後半から1980年代にかけて,ドルビーBタイプを超える性能のノイズリダクションを各社が展開し,いわ
ゆる「ノイズリダクション戦争」が巻き起こっていました。そんな中,オーレックスは独自のノイズリダクションシステム
アドレスを開発し,単体ユニット,搭載デッキを次々と発売するなど,頑張りをみせていました。
adresはAutomatic Dynamic Range Expansion Systemの略で,基本的には,dbxに近い1:1.5の圧縮
・伸張型の方式でした。これに,ブリージング(息つき現象)の目立ちやすい高域にドルビーでおなじみの可変エン
ファシスを組み合わせ,SN比を高域で30dB以上改善し,ダイナミックレンジを100dB以上に拡大し,歪みを6分の
1に改善するというものでした。音的には不自然さが比較的少なく,繊細な音を特徴としていて,当時かなり評価さ
れていました。
走行系は,シングルキャプスタン方式でしたが,リール駆動,キャプスタン駆動それぞれに専用のモーターを配した
2モーター方式が採用されていました。また,モーターの回転方向によって巻き取り方向を変える自動反転巻き取
り機構では,通常使われる反転アイドラ方式にかえて,首振り式ギアドライブ機構を採用し,高精度ギアの採用と回
転部にフリクションを要さない設計により,リール台駆動用モーターの回転制御能力を高めていました。さらに,主要
回転軸を同一シャーシ上にレイアウトして,回転系の精度を高めていました。加えて,定速,高速走行時には,それ
ぞれ独立したバックテンションを設定して,テープのたるみを防ぎ,走行の安定性を高めていました。また,このバッ
クテンションは,ブレーキ機構にも使用され,スムーズなテープ走行の停止を実現していました。このような走行系は
変調ノイズを大きく低減し,ワウ・フラッター0.035%(WRMS)の高精度なテープ走行を実現していました。
テープ走行の操作系は,軽く触れるだけのICロジックコントロールが採用されていました。早送り,巻き戻しから定
速走行へとダイレクトにモードを切換えした場合でも,テープを傷めず滑らかな応答が実現されていました。ヘッドの
駆動は,フライホイールによるパワーアシストにより,ロック用ソレノイド(プランジャー)の吸引力の減少が可能とな
り,ヘッドとテープの接触をスムーズかつソフトにするとともに,消費電流が従来の1/5に節減されていました。離
れたところからの動作の確認もしやすい自照式操作ボタンが特徴的でしたが,発光率向上も行われメカニズム系の
改良とあいまって,トータルで43%の省電力化が実現されていました。
ヘッドは,オーソドックスな2ヘッド構成で,録再ヘッドには,飽和磁束密度が高く,磁気飽和レベルにゆとりのある
スーパーAP(High-Bハードパーマロイ)ヘッドが搭載され,メタルテープにも対応していました。ヘッドの形状は,ハ
イパボリック(双曲)形状で,ヘッドタッチにすぐれ,レベル変動や歪みが抑えられていました。消去ヘッドには,2ギャ
ップAF(オーレックスフェライト)ヘッドが搭載されていました。
また,録再アンプは,DC構成の録再アンプが搭載されていました。
テープセレクターは,NORM,CrO2,METALの3ポジションに対応していました。レベルメーターはニードル式の−40
〜+10dBというワイドレンジのピークメーターが備えられていました。ノイズリダクションは,アドレスの他にドルビー(B)
も装備されていました。入力は,LINEに加え,MICも装備されていました。また,入力切換にはFMというポジションが
あり,MPXフィルターが挿入されるようになっていました。
その他,録音時に指1本でRECミュートからポーズ状態に移れる,便利なポーズボタンと一体になったRECミュート
タイマー録音ができるタイマースタンバイメカ,片面のみのオートリピート機能なども搭載されていました。
以上のように,PC-X45ADは,アドレス搭載デッキのエントリーモデルとして,充分な機能と基本性能を実現したコス
トパフォーマンスにすぐれた1台でした。私自身,初めて購入して使用したカセットデッキで,思い出深い1台です。繊細
なすっきりとした音質は,そのデザインイメージに通じるものがありました。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
アドレス&ICロジックニューシンプルメカ。
操作性と音質を融合させたHi-CPモデル。
音楽の素晴らしさと,親しみやすさをこのデッキが教えてくれる。
質が問われる時代だから,アドレス&2モーターICロジックニューシンプルメカニズム。
いい音を気軽に使いこなしたい人のアドレスデッキです。
◎テープオーディオ時代のリーダーシップをとる,
アドレスデッキ。
◎2モーターICロジックニューシンプルメカニズム。
◎ハイパボリック形状の録再用スーパーAPヘッド
◎自照式操作ボタンによるICロジックコントロール。
◎ポーズ/ミュート。
◎タイマースタンバイメカ。
◎オートリピート。
●リモコン(RM-15S:9000円など)対応
●ドルビーNRシステム内蔵。市販の音楽テープも楽しめます
●−40〜+10dBをカバーするバックライティング方式ピークメーター
●出力ボリューム
●音質重視設計のDC構成録再アンプ
●入力セレクター位置FMでMPXフィルターはON。
音声帯域外ノイズを抑えます。
●PC-X45ADの仕様●
テープスピード | 4.8cm/秒 |
バイアス消去 | 85kHz |
ヘッド | 録音・再生:ハイパボリック形状スーパーAP(ハードパーマロイ) 消去:フェライト |
使用半導体 | IC:15個,トランジスタ:35個,ダイオード:50個 |
入力レベルとインピーダンス | マイク:0.25mV/600Ω〜10kΩ ライン:70mV/50kΩ |
出力レベルとインピーダンス | ヘッドホーン:0.2mW/8Ω ライン:0.4V/50kΩ |
ワウ・フラッター(WTD・RMS) | 0.035% |
FF・REW時間(C-60) | 80秒 |
ダイナミックレンジ(1kHz,メタル) | 103dB |
雑音レベル | 100Hz:−80dB,1kHz:−90dB,10kHz:−93dB |
総合SN比(アドレスIN,メタル) | 88dB |
周波数特性(メタル,−20dB) | 20Hz〜19kHz |
総合歪率(0dB,400Hz) | 0.3% |
外形寸法 | 420W×110H×280Dmm |
電源・消費電力 | 100V 50/60Hz 13W |
重量 | 4.2kg |
※本ページに掲載したPC-X45ADの写真,仕様表等は1980年12月
のAurexのカタログより抜粋したもので,東芝株式会社に著作権が
あります。したがって,これらの写真等を無断で転載・引用等すること
は法律で禁じられていますのでご注意ください。
現在もご使用中の方,また,かつて使っていた方。あるいは,思い出や印象のある方
そのほか,ご意見ご感想などをお寄せください。