PC-X55ADの写真
Aurex  PC-X55AD
STEREO CASSETTE DECK ¥65,800

1980年にオーレックス(東芝)が発売したカセットデッキ。オーレックスは,1977年より独自のノイズリダクション
「アドレス(adres)」を展開し,単体のノイズリダクションユニットや搭載したカセットデッキを発売していきました。当
初は10万円超と高価であった搭載デッキも次第に手ごろな価格のモデルが発売されていきました。そうした中で
発売されたのが,このPC-X55ADでした。

adresはAutomatic Dynamic Range Expansion Systemの略で,オーレックスが1977年に発表したNR
(ノイズ・リダクション)システムで,基本的には,dbxに近い1:1.5の圧縮・伸張型の方式でした。これに,ブリージ
ング(息つき現象)の目立ちやすい高域にドルビーでおなじみの可変エンファシスを組み合わせ,SN比を高域で30
dB以上改善し,ダイナミックレンジを100dB以上に拡大し,歪みを6分の1に改善するというものでした。音的には
不自然さが比較的少なく,繊細な音を特徴としていて,当時かなり評価されていました。

adres

PC-X55ADの最大の特徴であるアドレスを正確に動作させるためには,走行系やヘッド,アンプ系などカセット
デッキとしての基本部分も,中級機ながらしっかりしたものとなっていました。
基本的には,オーソドックスなワンウェイの2ヘッドデッキで,2モーター構成により,メカニズムのシンプル化が
図られていました。キャプスタン駆動に回転精度の高いFGサーボモーター,リール駆動用にDCモーターをそれ
ぞれ専用に設けたもので,ICロジックコントロール方式により,フェザータッチによる確実なメカニズム動作が行
われるようになっていました。テープ巻き取りテンションの変動も十分に抑えられ,早送りから巻き戻し,巻き戻し
から再生等のダイレクトな動作のチェンジにもテープに過大なテンションがかかることなく安定して動作するように
なっていました。リール台では,従来の機械式ブレーキに代わってバックテンションがブレーキングを兼用する仕
組みになっており,静粛性が高まり,テープを傷めにくくなっていました。

2モーターシンプル&サイレントメカニズムPC-X55ADのヘッド

録・再用ヘッドには,自社開発のAS(オール・センダスト)ヘッドが搭載されていました。センダスト合金を用いた
このヘッドは,最大飽和磁束密度が高く,メタルテープにも余裕を持って対応でき,耐摩耗性にも優れたヘッド
でした。コンターが少なくヘッドタッチが良好なハイパボリック(双曲)形状が採用され,1μのヘッドギャップにより
すぐれた高域特性も確保され,同時にMOL特性も向上していました。消去ヘッドには,消去効率の高い4ギャッ
プAF(オーレックス・フェライト)ヘッドが搭載されていました。

録・再アンプは,カップリングコンデンサーを排除したDC構成とし,アンプの録再切換及びアドレスユニットの録
再切換は電子化し,メカニズム部からのアンプ部への干渉を排除するワイヤリングのシンプル化,各素子や基
板のレイアウトの合理化が図られていました。さらに,ローノイズトランジスターを高電圧駆動することで高いリニ
アリティが確保されていました。電源部は,±2電源の定電圧回路が採用され,アンプ用とアドレス用にそれぞ
れ別系統で電源を構成し,動作の安定と電源部の充実を行っていました。

テープセレクターは,ノーマル,クローム,フェリクローム,メタルの4ポジションが装備され,レベルメーターは
ニードル式の−40〜+10dBというワイドレンジのピークメーターが備えられていました。
そして,PC-X55ADには,もう一つ隠された特徴がありました。アドレスによるダイナミックレンジ拡大を生かし
たかったのか,ハーフスピード(2.4cm/s)での長時間の録音・再生ができるようになっていました。テープ走
行の操作ボタンの上部にある「SELF ILLUMINATED SOFT TOUCH OPERATION」と書かれた不自然
なカバーを外すと切り換えスイッチがありました。この機能は,カタログ等にも謳われておらず,所有した人のみ
が知る,知る人ぞ知るといった機能でした。この機能に関しては,オーレックスが,コンパクトカセットのライセン
スを持つフィリップス社からのクレームを受けたあるいは恐れたという噂が伝わっていましたが,真偽のほどは
私も分かりません。ただ,さすがにアドレス録音とはいえ,ハーフスピードでの音はやや苦しいものがあったよう
です。

以上のように,PC-X55ADは,オーレックスのアドレスデッキの中でも少し変わり種といった存在でしたが,基
本的な性能はしっかりしており,アドレス独特の繊細で優しい爽やかな音を聴かせてくれる1台でした。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。




◎テープオーディオ時代を確立した
 オーレックスのアドレスデッキ。
◎総合SN比88dB,ダイナミックレンジ
 103dB(1kHz),総合歪率0.4%。
◎見やすい自照操作ボタンによる
 ICロジックコントロール方式と静粛な
 動作の2モーターシンプル&サイレント
 メカニズムを採用。
◎ハイパボリック形状の・録・再用ASヘッド。
 メタル対応をさらに徹底。
◎ポーズボタンによりワンタッチで無録音部分
 が作れるポーズ/ミュート。
◎オートリピート。
◎−40〜+10dBをカバーする見やすい
 ワイドレンジピークメーター。
◎BIAS,EQ同時4段切換式テープセレクター。
◎タイマースタンバイ。
◎音質重視のDC構成録・再アンプ。
◎磁気感応半導体採用のASOセンサー。
◎リモコン対応。





●SPCIFICATIONS●

適応テープ
ノーマル,フェリクローム,AX(クローム),メタル
テープスピード
4.8cm/秒 ※(2.4cm/秒)   ※カタログには記載なし
バイアス消去
85kHz
ヘッド
録音・再生:ハイパボリック形状AS(オールセンダスト)
消去:フェライト
使用半導体
IC11個,トランジスタ56個,ダイオード50個
入力レベルとインピーダンス
マイク:0.25mV(600〜10kΩ)
ライン:70mV(50kΩ)
出力レベルとインピーダンス
ヘッドホン:0.25mW(8Ω)
ライン:0.4V(50kΩ)
ワウ・フラッター
0.04%
FF・REW時間(C-60)
80秒
ダイナミックレンジ(1kHz,メタル)
103dB
雑音レベル −80dB(100Hz),−90dB(1kHz),−93dB (10kHz)
総合SN比(アドレスIN,メタル)
88dB
周波数特性(メタル,−20dB)
20Hz〜20kHz
総合歪率(0dB,400Hz)
0.4%
外形寸法
420W×110H×280Dmm
電源
100V・50/60Hz
消費電力:23W
重量
5.5kg

※本ページに掲載したPC-X55ADの写真,仕様表等は1980年5月
 のAurexのカタログより抜粋したもので,東芝株式会社に著作権が
 あります。したがって,これらの写真等を無断で 転載・引用等すること
 は法律で禁じられていますのでご注意ください。

   
 
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