Aurex PC-X66AD
adres deck ¥84,800
1979年に,オーレックス(東芝)が発売したカセットデッキ。同年に発売された
PC-X60ADの上級機といった
存在で,筐体デザインもシルバーからブラックになっている他,ほぼ同一で,内部も非常に共通点の多いもの
となっていました。
PC-X66ADの最大の特徴は,ノイズリダクションシステムとしてオーレックス独自の「アドレス(adres)」を搭載
していたことでした。adresはAutomatic Dynamic Range Expansion Systemの略で,オーレックスが
1977年に発表したNR(ノイズ・リダクション)システムで,基本的には,dbxに近い1:1.5の圧縮・伸張型の方
式でした。これに,ブリージング(息つき現象)の目立ちやすい高域にドルビーでおなじみの可変エンファシスを組
み合わせ,SN比を高域で30dB以上改善し,ダイナミックレンジを100dB以上に拡大し,歪みを6分の1に改善
するというものでした。音的には不自然さが比較的少なく,繊細な音を特徴としていて,当時かなり評価されてい
ました。単体ユニットも発売され,アドレスでエンコードされたアナログレコードも発売されるなど,オーレックスの
頑張りは見事でしたが,結局普及はあまりしませんでした。搭載デッキは,オーレックスだけですが,ユニットとし
ては,OEMでオンキョーやアカイなどからも発売されていました。
PC-X60ADに対して,PC-X66ADの最大の強化ポイントは走行系で,アドレス搭載デッキとして初のDD(ダイ
レクトドライブ)方式が採用されていました。キャプスタンをモーター軸とし,リール台駆動をもう一つのモーターで
駆動する2モーター方式で,キャプスタン駆動がDD化されたことにより,最後まで残されていた1本のベルトが
なくなり,メカニズムのさらなるシンプル化が実現されていました。
キャプスタン用のDDモーターには,新開発のFGサーボ・スロット&コアレスモーターが搭載されていました。こ
のモーターは,平面対向型で,ローターがステーターコイル側に適度に吸引されながら回転するため,スラスト
方向(軸方向)の遊びがなく,安定した回転が得られるようになっていました。また,3相6コイルによる駆動方式
がとられているため,トルクリップル(コッキング)が低減されており,滑らかな低速回転が確保されていました。
さらに,位置検出にホール素子を採用したブラシレスモーターが採用されおり,回転部分に摺動摩耗部がなく,
これにより長寿命・高信頼性が実現されていました。
モーター,駆動系の機械精度も高められ,モーターシャフト=キャプスタンの真円度誤差を0.1μ以下に確保し
ローター部分には,精密加工された鉄系焼結合金が採用されていました。さらに,このローター部分周辺部に
マスを集めてフライホイール効果をもたせた構造とされ,ワウ・フラッター,負荷特性等の向上が図られていまし
た。そして,DDモーターのメリットをより高めるために,独自の往復通電方式が採用され,駆動部電源の独立と
合わせ,安定した電力供給が確保されていました。
FGサーボ系の回転検出部には,精度の高い全周積分方式の周波数発電機が採用され,1回転あたり160パ
ルスという高密度の検出極を磁気変換素子によって検出し,回転を制御するようになっていました。約1kHzとい
う高い制御応答周波数により,ごく細かな回転の乱れにも対応でき,フラッター成分にまでサーボをかけて制御
できるようになっていました。FGサーボ系の回路構成には,専用のF-V(周波数−電圧)変換用ICのほか,新た
に開発されたドライバー用ICが用いられ,CR素子にも,温度係数を検討した厳選されたものが採用されるなど
高信頼性のサーボ回路が構成されていました。
リール台駆動用には,キャプスタンとは独立した専用のDCモーターが搭載された2モーター構成で,オープンリー
ルデッキなどと同様に,電圧コントロールによって回転を制御し,スムーズなテープの巻き取り,滑らかなテープ
走行が確保されていました。また,リール台を停止させるブレーキには,機械式のブレーキを使わないバックテン
ション方式が採用され,走行モードの切換,走行停止時ともバックテンションを利用して過大なテンションをかける
ことなくテープを静かに停止させることができるようになっていました。
以上のような回転系,制御系により,ワウ・フラッター0.032%という高精度なテープ走行が確保されていました。
テープ走行の操作系は,専用のオペレーションIC,TC9121PによるICロジックコントロールで,フェザータッチに
よる軽快な操作が実現されていました。
録再ヘッドには,最大磁束密度が高く,耐摩耗性にも優れたセンダスト使用のAS(オールセンダスト)ヘッドが搭
載されていました。
PC-X80ADのものと同じヘッドで,ヘッド面の角度が小さく,よりシャープなヘッドタッチが得ら
れ,コンターエフェクト(形状効果)が非常に少なくなるハイパボリック(双曲)形状が採用されていました。
消去ヘッドには,高い消去効果を持つ特殊フェライトを用い,消去効率を高める2ギャップ構造としたAF(オーレッ
クスフェライト)ヘッドを搭載していました。
録・再アンプは,カップリングコンデンサーを排除したDC構成とし,アンプの録・再切換及びアドレスユニットの録・
再切換にスイッチング素子Hi-gmFET,2SK-177を採用して電子化し,メカニズム部からのアンプ部への干渉
を排除するワイヤリングのシンプル化,各素子や基板のレイアウトの合理化が図られていました。
電源部は,メカニズム部とアンプ部の電源が分離されて。相互の影響が排除されていました。2台のモーターに
は,それぞれ専用の定電圧回路が設けられ,回転精度が高められていました。録・再アンプ,アドレス回路への
電力供給は,独立した±2電源の定電圧回路が搭載されていました。
フロントパネルは,PC-X60ADとほぼ同じデザインながら,ブラックパネルで,精悍さが増していました。このフロン
トパネルは頑丈なダイキャストパネルで,テープ駆動メカニズムのベースともなっており,メカニズムを安定して支え,
かつシンプルな構造になっていました。
以上のように,PC-X66ADは,アドレス搭載デッキの中級機として,走行系を中心にしっかりとした作りがなされ
た実力機でした。走行系等のメカ部の作りなど,これ以降のオーレックスのデッキよりもしっかりした部分があり
走行系に関しては,上級機のPC-X80ADにも負けないものでした。すぐれた走行系とアンプ系に支えられて,癖
の少ないすっきりとした音を聴かせてくれる1台でした。