SONY PCM-1
PCM AUDIO UNIT ¥480,000(予約注文販売)1977年にソニーが発売したPCMプロセッサー。デジタルレコーディングをPCMと称し早くから取り組んで
いたのは,日本コロムビア(現デノン)で,PCM(Pulse Code Modulation)という名を世に知らしめまし
た。そして,民生用VTRと組み合わせてデジタル録音ができる機器PCMプロセッサー(A/Dコンバーター
とD/Aコンバーターの組み合わせ)を民生用に最初に発売したのがソニーのPCM-1でした。PCM-1のデジタル処理は,13ビットの2進コードを用いたものでした。現在の16ビット,18ビット,20ビッ
ト,さらに24ビットといったデジタル処理から見ると少なく見えますが,当時としては画期的なものでした。
13ビットでしたが,オーディオ信号とデジタル信号へ符号化する段階で3析線量子化というという技術(一種
の圧縮処理のようなもの)を用いることで,14ビットによる信号処理と同等の性能を持ち,85dB以上のダイ
ナミックレンジを確保していました。VTRで発生するワウ・フラッターやスピード偏差は,メモリー回路で吸収され,再生信号では問題のないレベ
ルまでなくなる(ほぼ皆無)というデジタル録音独特のメリットもこの当時からアピールされていました。VTRのドロップアウト等によるエラーに対しては,信号コードにあらかじめ誤り検出を目的とした信号(冗長ビッ
ト)を付加することで,99.9985%という高い確率で誤りを検出することが可能となっていました。そして,信
号コードの並び方を変え(インターリーブ)し,誤った信号を,その信号の直前・直後の信号の平均値レベルを
もつ信号と置き換える(平均値補完)という,補償対策をとることで,対処していました。現在のデジタル録音・
再生技術の原型がここで見られていました。PCM-1では,後にCD等でも見られるプリエンファシスの機能も搭載され,スイッチでON/OFFできるようにな
っていました。PCM-1のエンファシス回路は,録音時に高域をブースト(プリエンファシス時定数T1=50sec
T2=15sec)させ,再生時に下降(デ・エレファシス)させることで,S/Nをさらに7dB改善するというものでし
た。
レベルメーターは,LED(発光ダイオード)を縦一列に並べた応答特性に優れたピークメーターを搭載してい
ました。オーバーレベル表示機構とあわせて高精度のレベル監視を可能とし,最高レベルの指示を続ける
ピークホールド機構も備えていました。
入出力端子はRCAピン端子と同時にXLRキャノン端子も備え,業務用途も考慮された設計であったことが
うかがえます。そして,何より,当時としては非常に高度な半導体技術を生かして実用的に使える大きさま
で小型化を実現していた1台でした。
以上のように,PCM-1は,一般のVTRデッキを記録装置として使える実用的な民生用PCMプロセッサー
第1号として画期的な1台でした。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
かつて,
月面から宇宙飛行士の姿を伝えた。
いま,
あなたのもとで,音楽の深さを捉える。
PCM=パルス・コード・モデュレーション
◎家庭用”ベータマックス”,
業務用”ベータマックス”および
”U-Matic”方式のビデオレコー
ダーをそのまま使用できます。
◎従来のアナログテープデッ
キに比べ,高忠実度の録音再
生が可能で,特に,ワウ・フラッ
ターは測定限界以下,ダイナミ
ックレンジは85dB以上を実現
しています。
◎PCM録音システムでは,波
形がコード化されているため,
周波数と磁気記録の変化が
直接関係しないため,優れた
周波数特性(2〜20,000Hz
±1.0dB以内)を実現しています。
◎強力な誤り検出符号(検出確率
99.9985%)とインターリーブ
の組み合わせにより,ドロップ
アウトの補償をしています。
◎録音レベルメーターには
LED方式のピークメーターを
採用し,録音,再生時の瞬時
のピーク値を正確に読みとる
ことができます。
◎S/Nを改善するエンファシス
回路(ON・OFFスイッチ付)
を採用しています。
使用半導体 | IC 278個,FET 2個,トランジスタ 63個,
ダイオード34個,LED 60個,サイリスター 3個 |
チャンネル数 | 2チャンネル |
変調方式 | 標準テレビジョン信号利用のPCM |
標本化周波数 | 44.056kHz |
情報密度 | 1.726Mビット/sec |
符号構成 | 1H中,94ビット(内16ビットはCRC用)
データ 13ビット×2チャンネル |
量子化 | 3析線量子化 13ビット(14ビット相当) |
ダイナミックレンジ | 録音再生 85dB以上(2〜20,000Hz) |
高調波ひずみ率 | 0.03%(スペクトル測定) |
周波数特性 | 2〜20,000Hz ±1.0dB以内 |
入力端子 | マイクロホン(標準ジャック)
最小入力レベル0.3mV(−68dB) 低インピーダンスマイクロホン用 ライン入力(ピンジャック及び キャノンコネクターXLR-3-14不平衡型) 最小入力レベル0.095V(−18dB) 入力インピーダンス100kΩ ビデオ入力(ピンジャック) 規定入力レベル1Vp-p 入力インピーダンス75Ω |
出力端子 | ライン出力(ピンジャック及び
キャノンコネクターXLR-3-13不平衡型) 規定出力0.435V(−5dB)100kΩ負荷時 適合負荷インピーダンス10kΩ以上 ビデオ出力(ピンジャック) 規定出力レベル1Vp-p 出力インピーダンス75Ω |
電源 | AC100V,50/60Hz |
補助電源コンセント | 300W,電源スイッチと非連動 1 |
消費電力 | 55W |
大きさ | 430W×170H×435Dmm |
重さ | 19kg |
接続VTR | ベータマックス,U-Matic(全機種) |
※本ページに掲載したPCM-1の写真,仕様表等は1978年2月のSONYのカタログ
より抜粋したもので,ソニー株式会社に著作権があります。したがって,これらの写真等
を無断で転載・引用等することは法律で禁じられていますのでご注意ください。
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