PCM-F1の写真
SONY PCM-F1
DIGITAL AUDIO PROCESSOR ¥250,000
ソニーが1981年に発売したデジタル・プロセッサー。当時,世界最小・最軽量で,世界初のAC/DC両用で,ポータブル
VTRと組み合わせることにより,可搬型のデジタルレコーダーとして使うことができました。1977年に,世界初の民生用
のデジタルプロセッサーPCM−1(¥480,000)を出したソニーならではの製品でした。当時のデジタル録音は,このよ
うなデジタルプロセッサーとVTRを組み合わせて行われていましたが,同社のベータ方式ポータブルVTRであるSL-F1と
組み合わせて使われる例が多かったようです。この組み合わせは,恐らく世界で最も人気を得たデジタル録音システムで
はなかったかと思います。この組み合わせは,海外のレコーディングスタジオでも使われ,現在発売されているCDの中に
も,このデジタル・プロセッサーで録音されたものがあるようです。

PCM-F1の小型化には,専用LSIの新開発がありました。それまで,数百個のICを必要としデジタル・プロセッサーの大
型化(?)の原因になっていたデジタル信号処理回路を,「A/Dコンバーター」,「D/Aコンバーター」,「RECデーター処理」
「PBデーター処理」,「シンクセパレーター」の5つのLSIに統合できた成果としての小型化でした。(現在では当たり前の技
術となりましたが・・)

PCM-F1の当時,デジタル録音のEIAJの標準フォーマットは14ビットでした。そこで,PCM-F1もEIAJ標準14ビット直線
量子化のフォーマットを搭載していました。それでも,当時,(現在でも)高音質と信頼性が評価され,プロ用の現場でも使わ
れてきた実績がありました。PCM-F1は,さらに,リアパネルのスイッチの切替により,当時としては画期的な16ビットフォ
ーマットによる録音も可能とし,より広いダイナミックレンジ(86dB→90dB)と低歪み(0.007%→0.005%)の録音を実
現していました。この16ビットモードは,EIAJ標準14ビットフォーマットとも互換性を持ち,16ビットで録音したテープも,14
ビット標準フォーマット機で再生することができました。また,高精度のエンファシス回路とローパスフィルターを搭載し,特に
高域でのSN比と歪みの改善を図っていました。
デジタル信号系とアナログ信号系が分離配置されたシャーシ構造とセパレート電源部とし,大型ヒートシンクにより回路の温
度の安定化を図っていました。

PCM-F1は,デジタル録音のワイドなダイナミックレンジを生かすために,−50dB〜0dB・24セグメントのワイドなレベルメー
ターを備えていました。(基準レベルは−15dB)AUTO/MANUAL切替可能のピークホールド機能とリアルタイムのレベル表
示を装備したダブルインジケーション方式を採用し,さらに,オーバーレベルを警告するOVER表示も装備していました。
TRACKINGスイッチをONにすると,ピークプログラムメーターのRchにトラッキング状態が表示され,録音/再生用のVTR側
のトラッキングの最適ポイントを示してくれる機能もありました。

PCM-F1には,可搬機に必要なマイク端子も装備していました。単売していたマイクアンプMX-1000E(¥48,000)と同等
以上の性能を持つDCアンプ構成の高性能なマイクロホンアンプということでした。また,PCM-F1にVTRを2台接続することに
よりデジタルコピーができるコピー(デジタル)出力端子も装備していました。

PCM-F1とSL-F1
 

以上のように,デジタルオーディオ界の雄ソニーらしく,当時としては先進的な内容を持つデジタルプロセッサーでした。VTRと
組み合わせて使うという面倒さはありましたが,14ビットであっても,その音の良さは今でも印象に残っています。PCM-F1の
技術が後のDAT,MDの開発へとつながっていったといえるでしょう。
 
 

以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



小型・軽量・ポータブル。
PCMライブ録音を志向した
<デジタルデンスケ>。

◎小型・軽量でAC/DC両用のポータブルタイプ。
  屋外での生録音に機動性を発揮します。
◎美しい録音への厳しい見張り役。
  多機能ピークプログラムメーター。


●PCM-F1の主な仕様●



 

信号形式 NTSC TV方式準拠
符号形式 EIAJ標準フォーマット(14ビット)/16ビットフォーマット
オーディオチャンネル数 2チャンネル
標本化周波数 44.056kHz
量子化ビット数 14ビット/16ビット直線量子化
周波数特性 10〜20,000Hz±0.5dB
高調波歪率 0.007%以下(14ビット)
0.005%以下(16ビット)
ダイナミックレンジ 86dB以上(14ビット)
90dB以上(16ビット)
セパレーション 80dB以上
誤り検出方式 CRCCによる誤り検出
誤り訂正方式 P,Q 2パリティによる誤り訂正と補正(14ビット)
P   1パリティによる誤り訂正と補正(16ビット)
エンファシス 時定数:50μsec/15μsec
使用ビデオ範囲 ベータマックス,Uマチック他
入力端子 マイク(標準ジャック×2) ローインピーダンス
ライン(ピンジャック×2) −10dB/40kΩ
ビデオ(ピンジャッ) 1Vp-p/75Ω
出力端子 ライン(ピンジャック×2) −10dB/10kΩ以上
ビデオ(ピンジャッ) 1Vp-p/75Ω
コピー(ピンジャック) 1Vp-p/75Ω
ヘッドホン(ステレオ標準ジャック) 0.001〜0.3mW/8Ω 
電源 AC100V 50/60Hz(付属ACアダプター AC-700使用)
DC12V(別売りリチャージャブルバッテリー NP-1,NP-2
      /別売カーバッテリーコードDCC-2400B使用)
消費電力 17W(DC動作時)
電池持続時間 1時間充電で約1時間連続使用可能(別売NP-1使用時)
大きさ 215W×80H×305Dmm
重さ 4.0kg(充電式電池含まず)
※本ページに掲載したPCM-F1の写真,仕様表等は1983年5月のSONYのカタログ
 より抜粋したもので,ソニー株式会社に著作権があります。したがって,これらの写真等
 を無断で転載・引用等することは法律で禁じられていますのでご注意ください。        
  
 
 
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