PIONEER PD-2000
COMPACT DISC PLAYER ¥87,200
1988年に,パイオニアが発売したCDプレーヤー。前年発売の高級機
PD-3000の弟機といった位置づ
けのCDプレーヤーでしたが,PD-3000に見られた豪華さや多機能を抑えたシンプルさを追求しつつ,音
質重視の姿勢で設計された1台でした。当時,パイオニア自身も「聴くことに徹したシンプルCDプレーヤー」
と称していました。
PD-2000の最大の特徴は,「CDダイレクトコンストラクション」と称する内部構造にありました。信号の伝
送ロスをできるだけ少なくし,他からの影響を受けにくくするためのコンストラクションが「CDダイレクトコンス
トラクション」でした。ピックアップからラインアウトまで,信号の流れに沿ってシンプルかつストレートに内部の
レイアウトが行われ,デジタル/サーボとアナログ回路のプリント基板は分離独立されていました。さらに,アー
スのローインピーダンス化で,有効なシールド効果が得られるシールデッドPCB(両面基板)をデジタル系,ア
ナログ系を問わず全面的に採用していました。また,アナログ基板も入力から出力までの最短化が図られ,
同時にL・R独立の対称構成がとられていました。このような「CDダイレクトコンストラクション」により,信号間
の相互干渉が大きく低減されていました。さらに,電源回路においても,伝送経路の最短化と±電源の平衡
化がはかられ,電源基板からアナログ基板の電源ラインにダイレクトに接続することで,配線の引き回しの最
短化・等長化がなされ,回路の高精度化も実現されていました。
D/Aコンバーター部には,20ビット演算18ビット出力のデジタルフィルターが搭載されていました。これは,サンプ
リング周波数を352.8kHzにまでシフトアップする8倍オーバーサンプリングのもので,後段のフィルターの負担を
軽減できたことで,アナログフィルターとして,位相特性,周波数リップルにすぐれたバターワース形3次のローパス
フィルターが搭載されていました。
D/Aコンバーターには,18ビットD/Aコンバーターが採用され,チャンネル間の相互干渉や位相ズレを抑えるため
にL・R独立のツイン・コンバーターの構成になっていました。さらに,パイオニア独自の「リニアエンベロープシステ
ム」が採用されていました。これは,ビットの誤差による歪み,特に波形の上下切り換え部分にあたるMSBの誤差
によるゼロクロス歪みを低減するための技術で,上位ビットの誤差を適正値に補正することで,D/A変換精度を向
上させるというものでした。また,電源トランスにおけるD/Aコンバーター専用巻き線,専用電源やローインピーダン
スガードリンクなどにより,D/A変換精度の低下を抑え,微小レベル信号の再現性が高められていました。
アナログ段のラインアウトおよびI/Vアンプ段には,AクラスプッシュプルFETバッファアンプが採用され,接続される
負荷に影響受けにくい安定した波形伝送が実現されていました。
ピックアップ部には,レーザー効率を向上した自社開発の「クリーンレーザーピックアップ」を搭載していました。コリ
メータレンズなどの光学部品を削減することにより,従来のピックアップに比べ光学系>のパワーロスを大幅に減少さ
せるとともに光路内の収差を低減させたもので,クリーンで歪みのない>信号のピックアップを可能としていました。ま
た,I/V変換ヘッドアンプ内蔵フォトディテクタを採用し,ピット面から跳ね返ってきたレーザービームがフォトディテク
タで変換された数マイクロアンペアの電気信号を200mVオーダーに増幅し,外乱ノイズの影響を受けにくいシステ
ムとしていました。
ピックアップボディは,約1000の要素に分割して強度解析を行って開発されたエンジニアリングプラスチックボディ
が採用されていました。このエンジニアリングプラスチックでは,従来のダイキャストでは困難であった精密形状が
可能となり,精度,信頼性が高められ,さらに高剛性,高内部損失により無共振化が実現されていました。
ピックアップの防振から両面基板の防振まで,全帯域にわたって不要振動周波数対応型の無振動・無共振化の対
策が行われていました。フロートベースを新たに搭載し,回路基板,ピックアップをフローティングして不要振動を抑
える構造がとられ,ディスク駆動部には,ディスクの不要振動を抑えるマグネットクランプ方式ディスクスタビライザー
が採用されていました。また,振動発生の少ない新開発リニアモーターサーボメカを低重心構造とした上,高剛性
高内部損失のFRPメカベースで支える構造とし,これをMRA(マルチレゾナンスアブソーバー)にマウントして,無
共振化が徹底されていました。
さらに,筐体も無振動・無共振化が行われていました。フロントパネルは4mm厚のものが使用され,さらにボンネッ
トの無共振化と高剛性化のために,二重構造アルミトップボンネットが採用されていました。また,銅メッキハニカ
ムシャーシ,大型ハニカムインシュレーターなどがシステム全体をしっかり支える構造となっていました。
電源部は,必要容量の3倍以上のコアサイズを持たせ,磁気歪みや振動,洩れ磁束を抑えたラミネートラップコア
構造の大容量電源トランスを搭載していました。この電源トランスは,出力電圧の平衡度の向上,ノイズや振動,浮
遊容量を低減するためにバイファイラ・ツイスト巻きが採用されていました。また,オーディオ系,D/A変換系,デジ
タル系,ディスプレイ表示それぞれの相互干渉を抑えるために,4独立巻線・4独立電源回路・7レギュレーターの
構成がとられ,さらに,オーディオ回路には,負荷変動に対してすぐれた過渡応答特性をもつディスクリートプッシュ
プルレギュレーターが配置されていました。電源コードには,極性表示付OFC極太4芯電源コードが採用されてい
ました。
他の同時のパイオニアのCDプレーヤーと比較して操作ボタンが少ないことにも表れているように,機能的には比
較的シンプルにまとめられていましたが,音質重視の設計は一貫して通されていました。選曲機能は,通常の選
曲,プログラム選曲,リピート等標準的なものが備えられていました。選曲機能等に関わるマイコンには,操作キー
を押したときだけ動作し,スキャンニングノイズを防止するクリーンマイコンを搭載していました。ディスプレイの表示
も比較的シンプルで,ディスプレイ点灯時のスキャンニングノイズに配慮した,ディスプレイOFFスイッチが装備され
ていました。デジタル出力は同軸と光が1系統ずつ,備えられていました。デジタル出力は音質重視の方向でON/
OFFができるようにデジタル/アナログ切り換えスイッチが装備されていました。アナログ出力ラインも接点を少なく
したダイレクトコンストラクションを貫くため,ヘッドホン回路は搭載されていませんでした。
以上のように,PD-2000は,「シンプルCDプレーヤー」と称するとおり,音質重視の方向に合理的な設計が行わ
れた,コストパフォーマンスの高いCDプレーヤーとなっていました。その作りが示すとおり,癖の少ない明るい音が
特徴でした。