PIONEER PD-5000
COMPACT DISC PLAYER ¥200,000
1989年に,パイオニアが発売したCDプレーヤー。1987年発売の
PD-3000の上級機といった
位置づけで,その間の技術の進歩も取り入れられ,大きくなった筐体が示すとおり,各部により改
良が加えられ,それまでの最上級機PD-3000をより強化した力作でした。
D/Aコンバーター部は,「8fs・リアル18ビットダイレクトリニアコンバージョン」が搭載されていまし
た。8倍オーバーサンプリングデジタルフィルターには,演算精度を高める演算語長20×22ビット
の高精度LSIを採用し,精度の高いデーターを得るとともに,44.1kHzのサンプリング周波数を
8倍の352.8kHzへシフトアップし,量子化データーの密度を高め,アナログフィルターの負担の
軽減とすぐれた位相特性,群遅延特性を実現していました。
D/Aコンバーターとして,ワンパッケージ・リアル18ビットLSIを採用し,その中でもとくにリニアリティ
とローレベルでの歪みに厳しい基準を設定して厳選したハンドピックド・パイオニア・スーパーバージ
ョン仕様を採用していました。また,ビット誤差の重要度の高いMSBだけでなく2SB,3SB,4SB
まで誤差が最少となるようにコンバージョン・チューンを行い,より高精度なD/A変換を実現していま
した。
D/Aコンバーター以降の各ステージ全段にA級動作FETバッファアンプを採用していました。各ステー
ジの負荷を軽減し,アンプ全体の出力インピーダンスを低くすることによって,アンプの負荷となるロー
パスフィルターなどの容量性分の影響を補とほとんど受けないアンプ部を構成していました。A級動作
のアンプ部は,動作時の電力消費量の変動が少なく,低歪率化を実現していました。
電源部は,アナログ回路用とデジタル/サーボ回路用を完全に分離させたツインパワートランスを搭載
し,アナログ,デジタル間の相互干渉を抑えていました。特に音質を左右するアナログオーディオ回路用
のパワートランスの巻線にはOFC線によるバイファイラ・ツイスト巻きを採用し,電源の±電圧や出力イ
ンピーダンスの平衡度を高め,低域のドライブ能力を高めていました。さらに,電源コードも4芯構造の
極太OFCコードを採用し,電源プラグからアナログ回路とデジタル/サーボ回路を独立させ,電源からの
デジタルノイズ流入を防いでいました。また,電源トランスが発生する振動や誘導ノイズを本体に伝えな
いために,これらの電源トランスはメインシャーシから分離した極厚のアルミアングル「アイソレーテッド
ベース」にマウントされ,さらに,この「アイソレーテッドベース」は本体とフローティングされ,専用の真鍮
材の脚で支えられた構造となっていました。
電源回路は,プッシュプル電源回路が採用されていました。電流制御素子を並列に入れ,負荷電流が
急変した場合に,この電流制御素子をコントロールすることによって電源電圧を安定させるようになって
いました。また,ディスクリート構成部を多くし,高音質ディバイスを用いて高安定化を図っていました。
このような電源部により,低域から高域にわたる電源電圧の変動を抑え,過渡特性の向上と電源の高調
波歪も低く抑えられ,透明で安定した低音再生につながっていました。
ピックアップ部には,レーザー効率を向上した自社開発の「クリーンレーザーピックアップ」を搭載して
いました。コリメータレンズなどの光学部品を削減することにより,従来のピックアップに比べ光学系
のパワーロスを大幅に減少させるとともに光路内の収差を低減させたもので,クリーンで歪みのない
信号のピックアップを可能としていました。また,I/V変換ヘッドアンプ内蔵フォトディテクタを採用し,ピ
ット面から跳ね返ってきたレーザービームがフォトディテクタで変換された数マイクロアンペアの電気
信号を200mVオーダーに増幅し,外乱ノイズの影響を受けにくいシステムとしていました。
また,ピックアップ部には,高級LDプレーヤーLD-S1で開発された「アキュフォーカスシステム」を採
用し,読み取りエラーを大幅に低減していました。これは,レーザーの光信号を電気信号に変換し演算
処理するRF回路を改善する 技術で,フォカースサーボのために4分割されたフォトディテクタの構造上
レーザー光がピットの進行方向に沿ってフォトディテクタを横切るように動く際発生する,先行の信号と
後行の信号の間の時間的ズれによる高域の位相ズレを改善するために,先行の信号を遅延させ,後
行の信号と位相を合わせるシステムでした。これにより,読み取りエラーの少ない高出力のRF信号が
得られるようになっていました。
スピンドルモーターには,起動トルク65g/cmという高トルクコアレスDDスピンドルモーターが搭載され
直径4.5mmという極太スピンドルとあいまって負荷変動に強い安定したディスクドライブが確保されて
いました。
また,ピックアップ駆動には,トラッキング応答性の高い高速リニアモーターが採用され,正確なトレース
と,どのトラックも平均0.5秒以下という高速アクセスを実現していました。
ディスクの共振が音質に悪影響を与えることから,ディスクとの装着精度を高める「バーチカルクランプ
方式ディスクスタビライザー」が採用されていました。さらに,スタビライザーとクランパーに機械的接触
のないマグネットチャック方式を採用し,不要振動を徹底的に抑え,スムーズな回転を得ていました。
光学メカニズムを外部振動から守り,正確な読み取りを行うために,光学メカニズムを支えるメカベース
には「ラミサートメカベース」が採用されていました。これは,鉄板を2枚重ね合わせて,特殊樹脂でモール
ディングしたもので,さらにピックアップ側の鉄板を銅メッキすることにより,振動減衰特性の向上と,磁気
歪の影響を排除していました。また,このメカベースはセラミックメカサポートという高剛性で内部損失の
大きいセラミックの支柱に,特殊ゴムとスプリングを同軸状に一体化したコアキシャルサスペンションを介
して固定され,シャーシからの振動を遮断するようになっていました。
コンストラクションの面でも,PD-3000からの技術が受け継がれ,さらに充実が図られていました。
ピックアップから出力端子までの信号経路の最短化,各回路ブロックの適正な配置が行われ,光学系メ
カニズムはセンター配置され,主要回路が信号の流れに沿って最短距離でレイアウトされていました。配
線材も極力短くされ,露出も抑えられて,ピュアな信号伝送が図られていました。
回路基板は,デジタルとサーボ,アナログ回路基板および電源基板が独立分離され,アナログ回路の基
板はLchとRchの完全モノコンストラクションが採用されていました。さらに,アースのローインピーダン
ス
化が図られ,デジタル系ノイズの飛び出しに有効なシールド効果が得られるシールデッドPCB(両面基板)
が採用されていました。また,アナログ基板や電源基板にはローインピーダンス70μm極厚OFC(無酸
素銅)基板が採用されていました。
システム全体を支えるシャーシには,銅メッキ・ハイブリッド・ハニカムシャーシが採用されていました。これ
は,ハニカムシャーシに銅メッキを施し,制振効果と磁気歪みの低減を図り,さらに,ハニカムシャーシの
床面側に極細パイルを静電植毛して,床からの周波数の高い反射やシャーシ表面の微細振動を抑える
ようになっていました。
このシャーシを支えるインシュレーターには,高剛性の特殊樹脂をハニカム状に成形した大型インシュレー
ターが採用されていました。銅メッキ・ハイブ リッド・ハニカムシャーシとあいまって,外部からの振動を効果
的に抑えていました。
アナログ出力は,RCA固定のみで,デジタル出力は同軸と光の2系統が備えられていました。そして,使
用しない回路の動作を止めてノイズの混入を防ぐために,デジタル・アナログアウト切り換えスイッチが備え
られていました。
通常CDプレーヤーでは,常時操作キーにスキャンニング信号を流しているものが多いのですが,一種の
ノイズとなるため,PD-5000では,操作キーを押したときだけスキャンニングを開始するクリーンマイコン
を搭載していました。さらに,ディスプレイ点灯時に発生するわずかなスキャンニングノイズを抑えるために
不要なときにはディスプレイを消すディスプレイOFFスイッチも装備されていました。
以上のように,PD-5000は,パイオニアがパーツからコンストラクションに至るまで,PD-3000にも増し
て贅を尽くして高品質に作り上げた高級機でした。極厚アルミ押し出し材による高さを増した漆黒調パネ
ルにシンプルなキーレイアウトが施された外観は高級感が漂い,パイオニアらしい癖のない音ながら,力
強さと量感を持った音を持った実力機でした。