PIONEER D-900
DIGITAL AUDIO TAPE DECK ¥200,000
                (価格改訂後¥181,200)
1988年に,パイオニアが発売したDATデッキ。1987年に,パイオニアは第1号機D-1000でDAT
に参入し,音質面で高い評価を受けました。そして,2号機として,価格を下げてコストパフォーマンス
を高めつつ,技術的内容も充実させて発売されたのがD-900でした。

D-900は,D-1000同様に,D/A側だけでなく,A/D側にもデジタルフィルターが搭載され,録音時
のA/D変換でもアナログローパスフィルターだけを用いていた方式に比べ,アナログフィルターの負
担が軽減され,ローパスフィルターによる歪みや位相遅れの影響を受けにくくしていました。特に再
生側には,8倍オーバーサンプリングのデジタルフィルターが採用されていました。



さらに,入力側には,比較的低次な5次のローパスフィルターが搭載されていましたが,CDプレー
ヤーなどのデジタルソースでは,周波数帯域の上限が20kHzであるため,折り返し雑音発生の原
因となる22kHz以上の成分はほとんどないため,ボリュームと5次ローパスフィルターを通さずに,
2次のローパスフィルターのみを通してA/Dコンバーターに入力するラインストレート機能が装備さ
れていました。このラインストレート機能をONにすると,信号経路の最短化が図れるとともに,高次
のローパスフィルターによる位相回りも軽減され,実質的に8倍オーバーサンプリングのデジタルフィ
ルターを通す出力側と同等の性能・音質を実現していました。

A/Dコンバーター,D/Aコンバーターは,チャンネル間の相互干渉や位相ズレを抑えるためにL・R
独立のツイン・リニアエンベロープ・コンバーターが搭載されていました。ここで採用された「リニアエ
ンベロープシステは,ビットの誤差による歪み,特に波形の上下切り換え部分にあたるMSBの誤
差によるゼロクロス歪みを低減するための技術で,上位ビットの誤差を適正値に補正することで,
変換精度を向上させるというものでした。

オーディオ基板は,ツイン・モノコンストラクションが採用され,録/再,L/Rの回路ブロックを4分割し,
パーツの配置線材の長さや引き回しを対称として,各回路間の相互干渉を抑え,チャンネル間の
位相差も排除していました。そして,端子配置も,入出力ピンジャックの間隔を考慮し,チャンネル
セパレーションの向上が図られていました。
さらに,オーディオ用プリント基板では,片面をすべてアース箔とした両面基板が採用され,シール
ド効果を上げることで,ノイズの低減が実現されていました。基板上のグランドラインには1mm厚の
極厚無酸素銅板のバスバーが採用され,グランドの低インピーダンス化と剛性の向上が図られて
いました。また,コンデンサーや抵抗に至るまで高品質のパーツを厳選使用していました。
電源トランスは,デジタル系とオーディオ系の干渉を防ぐために,オーディオ系とデジタル系を別巻
線としたバイファイラ巻きOFC巻線の大形の電源トランスが搭載されていました。また,トランス本
体の振動を抑えるため,ケース内部にはエポキシ樹脂が充填されていました。

ヘッドは,高出力ATヘッドが搭載されていました。センダストを素材とし,精密加工技術により,トラ
ックのトレース方向に対して20μmの均一なトラック加工をした(ALL TRACK)構造が特徴のヘ
ッドでした。耐摩耗性を向上させるために,ガラスをヘッド両側に溶着し,ギャップには特殊なポリシ
ング加工を施すなど,高度な加工が行われて,非常に安定したテープタッチを実現していました。ま
た,再生出力レベルを従来の2~6dB高くすることで,ゆとりあるエラーレート確保していました。
1号機のD-1000は,ソニー製の4DDメカニズムを搭載していましたが,D-900の2DDメカニズ
ムは,新しい自社開発のメカニズムを搭載していました。
メカニズム部のシャーシには,剛性の高い板厚1.6mm厚の鋼板を使用し,しかも曲げ加工による
歪みの発生を避けたフラットな構造を採用し,安定したテープ走行を支えていました。さらに,ギア
ベルトの材質,形状などを検討し,テープ走行時やカセット装着時の動作音を低く抑えていました。
そして,D-1000同様に,カセットハーフを上下から特殊ゴムで挟み込み,左右2箇所の樹脂で抑
え込むことにより,振動を抑えるカセットスタビライザーを採用していました。




振動源となるテープ駆動部分であるメカニズム部及び電源トランス部は,アイソレートシャーシに
乗せて,メインシャーシから独立させていました。このアイソレートシャーシは,亜鉛ダイキャスト製
の専用インシュレーターに取り付けられ,オーディオユニットと機械的に分離されることで,不要な
振動による音の濁りを防いでいました。
また,外部からの有害な振動を,メカニズム部や各回路に伝えないために,振動減衰特性にすぐ
れた大型ハニカムインシュレーターと銅メッキハニカムシャーシを採用していました。



DATデッキとして,テープに記録されるTOC(テーブル・オブ・コンテンツ)情報により,ソースのトータ
ル曲数とトータル時間,各曲の演奏時間,各曲の開始時間,記録部分の残量時間などが表示でき,
CD感覚でテープ再生が楽しめる多彩なテープオペレーションが可能となっていました。特に,D-900
では,プログラムナンバーを読みとると,その位置を記憶し,約300倍というインテリジェント高速サー
チを実現していました。さらに,TOC情報の記録されていないテープでも,A-Time(アブソリュートタイ
ム=絶対時間)情報により,テープの最初からの経過時間が示され,スムーズなつなぎ録音,各曲の
頭からの経過時間表示,録音の終了点の表示などが可能で,リナンバーした際に自動的にTOC情
報が記録されるようになっていました。

ディスプレイ部には,FL表示によるレベルメーターが装備されていました。このレベルメーターはピーク
表示タイプで,最大許容レベルに対するマージンとオーバーをdB表示するマージン表示も備えていま
した。マージン表示はホールドでき,録音ボリュームと連動され,録音レベルボリュームを-01dBにな
るように調節するだけで,最大許容レベル(フルビット/00dB)まであと何dBの余裕があるのかを表示
するようになっていました。-50dB~00dBまでを1dBステップで表示するピークマージン表示と最大
許容レベル(00dB)をこえたレベルも+8dBまで1dBステップで表示するようになっており,録音ボリュ
ームの減衰量も1dBステップで0dB~35dBまで表示できるようになっていました。

以上のように,D-900は,パイオニアのDATデッキの2号機として,より完成度を高めつつ,コストパ
フォーマンスが高められていました。そこには,DATデッキに向けたパイオニアの意欲が感じられるも
のがあり,実際に,パイオニアは,これ以降も多くのDATデッキを開発・発売していくこととなりました。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



D-1000の高音質を基本に,
約300倍の高速サーチ,
TOC記録など高度な
オペレーションを
実現したD-900誕生。

徹底して信号の歪発生を抑える。
澄みきった音と,素早く高度な
オペレーションを実現した
新世代DAT,D-900。



高音質回路
●デジタルソースの録音時に,信号経路の最
 短化を図るとともに,高次ローパスフィルター
 による位相歪を減少させるラインストレート
 入力。
●入力波形を忠実に再現するために,録音
 側にもデジタルフィルターを採用。
●A/D,D/Aの変換誤差を少なくし,歪の発
 生を防ぐツイン・リニアエンベロープA/D
 コンバーター,D/Aコンバーター。
●録/再,L/Rを4分割構成とし,各回路ブロ
 ック間の干渉を排除したツイン・モノコンス
 トラクション。
●パイオニア独自,新開発高出力ATヘッド
 採用。
●細部に至るまで徹底して歪と電気的な干渉
 をなくした無誘導高音質パーツ。


無共振化コンストラクション
●振動の発生源であるメカニズム部及び電
 源トランス部をメインシャーシから独立させ
 たアイソレートシャーシ。
●カセットテープの振動を抑えるカセットスタ
 ビライザー。
●テープ走行の精度を高める,1.6mm厚素材
 の高剛性フラットシャーシ採用。
●有害な振動を回路に伝えない大型ハニカ
 ムインシュレーター&銅メッキハニカムシャ
 ーシ。
●バイファイラ巻OFC巻線大型電源トランス。


素早く高度なオペレーション
●簡単な操作で適切な録音レベルの調整
 ができるインテリジェント・ピークモニター。
●CDと同じような感覚でDATを楽しむため
 のTOC(Table Of Contents)を民生用
 DATで初めて採用。
●快適なオペレーションを実現する,約300倍
 のインテリジェント高速サーチ。
●オペレーション効率を向上させる,その他の
 時間情報。




●D-900の主な仕様●



 

型式 回転ヘッド方式デジタルオーディオテープデッキ
テープスピード 8.15mm/s
量子化ビット数 16ビットリニア
サンプリング周波数 48kHz録音/再生
44.1kHz再生
32kHz(デジタル録音のみ・再生)
録再周波数特性 2~22,000Hz±0.5dB(標準モード)
S/N 92dB以上
ダイナミックレンジ 90dB以上
全高調波歪率 0.005%以下(1kHz)
ワウ・フラッター 測定限界(±0.001%W・PEAK)以下
アナログ入出力端子 ライン入力端子 RCA PIN×2 250mV/100kΩ
ライン出力端子 RCA PIN×2 250mV/570Ω
デジタル入出力端子 同軸入力端子 RCA PIN×1 0.5Vp-p/75Ω
同軸出力端子 RCA PIN×1 0.5Vp-p/75Ω
光入力端子×1
光出力端子×1
寸法 420W×132.5H×335.2Dmm(突起物を含む最大外形寸法)
重量 9.5kg
消費電力 36W
電源 AC100V 50/60Hz

※本ページに掲載したD-900の写真,仕様表等は1989年4月の
PIONEERの
カタログより抜粋したもので,パイオニア株式会社に
著作権があります。したがって
,これらの写真等を無断で転載・引用
等することは法律で禁じられていますのでご注
意ください。

  
 
 
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