PIONEER PL-1800
DIRECT DRIVE STEREO PLAYER ¥90,0001975年にパイオニアが発売したプレーヤーシステム。当時のパイオニアブランドのプレーヤーシステムの
最上級機で,単売もされていた高性能のターンテーブルとアームをシステムとしてまとめたという形のプレ
ーヤーでした。プレーヤーシステムとして使いやすいサイズとバランスのとれた設計が光る1台でした。ターンテーブル部は,単売されていたMU-1800(¥45,000)とほぼ同様の内容をもつもので,アルミダ
イカスト直径34cm,慣性質量280kg・cm2のターンテーブルをDCサーボモーターで駆動するダイレクトド
ライブターンテーブルでした。
モーターは,ホール素子を使用した,ブラシレスDCサーボモーターを搭載していました。DCモーターは,
電流をステーター捲線へ交互に送ることによってローターを回転させる駆動力を得ていますが,このとき
に必要な磁極切換(スイッチング)をローターの内面に着磁された磁気信号を3個のホール素子が無接点
で位置検出し,回転による磁界の変化を確実に変化に変換するため,ブラシをもたないブラシレス型と
し,DCモーターならではの1kg・cmのハイトルクを実現していました。
サーボ系はFGサーボ(磁気パルス検出の周波数制御方式)を採用していました。ローターの下面に速度検出用
の磁気パルスを着磁し,これに対向した面にパルス状のパターンをもつプリント基板を設置し,ローターの回転に
よって発生した周波数を検出して,その交流信号をサーボ回路に送り込む方式で,温度や湿度の変化に対しても
安定性をもち,高い応答速度をもつというもので,サーボでは主流となっていった方式でした。
駆動回路への電源供給は,電流許容量の大きな安定回路から行われ,十分な温度補償をほどこすことで,電源
電圧の変動に対する安定性や,温度ドリフト,時間ドリフトも高い安定性を確保していました。また,各回転数ごと
に,±6%(約半音階)の速度微調整が可能となっていました。
ターンテーブル外周のストロボはストロボ照明が波形整形回路によって点灯される仕組みになっており,従来のス
トロボ照明に比べてシャープで見やすく,速度調整がしやすいものとなっていました。
ターンテーブルシートには,柔軟性に富むブチルゴムを使用し,ディスク面とのなじみが良く適度な内部損失により
共振を抑える効果を持たせていました。
トーンアームには,単売されていたPA-1000とほぼ同等のものを搭載していました。このトーンアームの最大の特長
は,カーボンファイバーを素材として使用していたことでした。カーボンファイバーの長繊維を網目状に編み込みそれを
エポキシ樹脂で整形した構造で,ねじれなどに対する高い強度と実効質量の低減の両方をねらったものでした。これ
によってアームの慣性モーメントが小さくなりトレース性能が高まるとともに,中域の部分共振も,この構造による高い
強度と適度な内部損失によって抑制されるというものでした。また,ヘッドシェルにもカーボンファイバーを使用し,さらに
慣性モーメントの低減を図っていました。後のPL-70LU等でも見られるカーボンファイバーを素材に使用したアームの
原型といえるかもしれません。
アームの水平・垂直回転部には特殊アンギュラコンタクトベアリング(かなり精度が高く高価なものらしいです。現在で
も軸受けの精度と強度が必要な機械類に使われているようです。)を採用し,摩擦の少ない高感度設計としていました。
このベアリングはフライス加工(フライスと呼ばれる円筒の外周や端面に多数の切れ刃をもつ切削工具を用いて平面や
みぞなどの切削をする加工法)と研磨仕上げがほどこされ,がたつきのない精密な動きが実現されていました。
また,アンチスケーティング機構にも,アンギュラコンタクトベアリングを2個使用したてこ方式が採用され,シンプルな構
造で高い安定性と水平感度を損なわない設計となっていました。キャビネットは,通常の合板の積層構造ではなく,硬質ファイバーボード・MDFを採用していました。MDFは,木材の中
でも最も硬い繊維(セルロース)だけを抽出し,この長繊維を圧縮して20mm厚の板に仕上げたもので,強度が高く,か
つ適度な内部損失を持つこの材質でした。この材質に適度な補強を施したキャビネットと,特殊形状のゴムとアルミダイ
キャストを組み合わせたクラスを超えた大型のインシュレーター(高さ調整可能)により,ハウリングに強く音質の良いキャ
ビネットが構成されていました。表面は精悍な黒色仕上げとなっていました。
キャビネットからの出力コードは,直付けではなく,着脱が容易なピンジャック端子式となっていました。以上のように,PL-1800は,モーター,アーム,キャビネットの素材等,基本から技術を投入してきちんと仕上げられた
プレーヤーで,システムとしてもパイオニアらしい設計のうまさが光る1台でした。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
◎駆動部にトルクの高いブラシレスDCサーボ
ホールモーターを搭載したD.D.方式
◎磁気パルス検出の周波数制御方式による,
きわめて応答速度の早いサーボ回路
◎S/N63dB以上(JIS)回転ムラ0.03%以下
(WRMS)の数値が示す高い完成度
◎波形整形されたストロボ照明を採用。回転数
の確認や微調整も一段とみやすくなりました。
◎温度ドリフトや時間経過による回転ドリフト特性
そして電源電圧変動特性にすぐれています。
◎ターンテーブルシートには,レコード面との
密着性が良く,音響特性を重視したブチルゴムを
使用。
◎トーンアームには,長繊維のカーボンファイバー
を編組みした強化パイプを採用。トラッキング能力
を著しく向上させました。
◎アンギュラコンタクトベアリングを採用した回転軸
と軸受け。高感度なアームの性能をさらに高めま
した。
◎硬質ファイバーボードを使用したハウリングマージ
ンの大きなキャビネット
◎このクラスの常識を超えた大型インシュレーター
●カートリッジの交換に便利なユニバーサル方式。
●無共振,超軽量の単売カーボンファイバーシェル(PP-312)を装備。
●アームの高さ調整(基準位置より+10,−5mm)が可能。垂直トラッ
キング角の調整も可能です。
●±6%(約半音階)の速度微調整が可能(各回転数独立調整)
●出力コードの着脱が容易なピンジャック出力端子の採用。低容量コード
(50pF以下/1m)も付属していますからCD-4の再生にも心配ありません。
■フォノモーター■
モーター | ブラシレスDCサーボ・ホールモーター |
駆動方式 | ダイレクトドライブ |
ターンテーブル | 34cm径アルミダイキャスト,外周アクリル樹脂 |
ターンテーブル慣性質量 | 280kg-cm2 (ターンテーブルシートを含む) |
回転数 | 33 1/3・45rpm |
回転数切換 | 電子式 |
回転数微調整範囲 | ±6%(各回転数独立調整) |
回転ムラ | 0.03%以下(WRMS) |
SN比 | 63dB以上(JIS) |
起動特性 | 1/2回転,1.5秒以内 |
■トーンアーム■
形式 | スタティックバランスS字型ユニバーサルアーム |
パイプ材質 | カーボンファイバー編組エポキシ強化パイプ |
実効長 | 237mm |
オーバーハング | 15.0mm |
オフセット角 | 21°41’ |
印加針圧範囲 | 0〜3.0g |
取付カートリッジ自重 | 4〜14.5g |
指示部構造 | (水平)特殊アンギュラコンタクトボールベアリング
(垂直)アンギュラコンタクトピボットベアリング |
高さ調整範囲 | +10mm,−5mm |
付属機構 | アンチスケーティング機構,オイルダンプシリンダー式アームエレベーション
針圧直読カウンターウェイト,プラグイン式カーボンファイバーヘッドシェル |
■その他■
付属機構 | 高さ調整可能インシュレーター,低容量出力コード
フリーストップヒンジ付アクリルフード |
消費電力 | 5W |
供給電圧 | AC100V,50/60Hz兼用 |
外形寸法 | 490(W)×190(H)×390(D)mm |
重量 | 13.0kg |
使用半導体 | トランジスター42石,ダイオード19個,ホール素子3個 |
※本ページに掲載したPL-1800の写真・仕様表等は1975年11月の
PIONEERのカタログより抜粋したもので,パイオニア株式会社に著作権
があります。したがって,これらの写真等を無断で転載,引用等をすること
は法律で禁じられていますので,ご注意ください。
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