PIONEER
PL-70
PLAYER SYSTEM ¥150,000
1979年に,パイオニアが発売したプレーヤーシステム。パイオニアは,スピーカーからスタートしたブラン
ドながら,古くからアナログプレーヤーにもすぐれた製品を送り出していました。そうした中,1978年に
超弩級機
P3を発売し,そのすぐれた性能で高い評価を得ました。そのP3の技術やデザインのイメージを
受けつぎ,より一般向けの高級機として発売されたのがPL-70でした。
ターンテーブルは,直径31cm,慣性質量480kg-cm2と いう重量級のもので,負荷変動の影響を受けに
くい安定した回転を確保していました。このターンテーブルは,精密に成型された型の中にゆっくりと金属を
流し込み,時間をかけて自然に冷却させるという低圧鋳造法により,均一で高密度なすぐれたダイナミック
バランスのターンテーブルに丁寧に作り上げられたアルミダイカスト製ターンテーブルでした。また,ターン
テーブル自体の共振をデッドニングするために,裏面に特殊防振剤を施し,鳴き等を抑えていました。
重量級のターンテーブルを駆動するモーターは,2kg-cmの起動トルクをもつ,ハイトルク・クォーツPLL
DCサーボ・ホールモーターが搭載されていました。このモーターにより,1/3回転以内(約1秒)で重量級
のターンテーブルを定速回転させることができ,実際,少々手で押さえても止まらないほどの駆動力をもち
外乱に左右されない安定性が実現されていました。
フォノモーターのもう一つの大きな特徴は,パイオニア自慢の「SH・ローター方式」が採用されていたことで
した。これは,Stable Hanging Rotorの略で,これまでモーターの底部にあったローターの支点をター
ンテーブルのすぐ下に移動することによりターンテーブルの重心と支点をほぼ一致させ,安定した回転を実
現したものでした。
ターンテーブルのスタート,ストップは純電子式で,ボタン一つで瞬時にスタートして定速回転になり,また,ブ
レーキがかかり停止するようになっていました。
モーターの磁極切換え(スイッチング機構)には,同社が独自に製法を開発したホール素子による無接触切
換え方式が採用されており,駆動部のSH・ローター方式とともに,モーターシャフトと軸受け間に発生してい
た微細なノイズが排され,さらに,フォノモーター内部に施された特殊防振加工ともあいまって,高精度かつ静
粛な回転が確保され,ワウ・フラッター0.009%以下(WRMS・FG直読法),S/N比78dB(DIN-B)という特
性が実現されていました。
トーンアームは,トップモデルP3で培われた技術が生かされた,高精度なものでした。高剛性アルミパイプに
よる実効長282mmのS字型ロングアームで,ヘッドシェルは,軽質量・高剛性のカーボンファイバー製のもの
が標準装備されていました。メインウェイトをアーム軸に近づけ,針先の等価質量を低減させた質量集中方式
が採用され,トーンアームの慣性モーメントを低減させていました。トーンアームの軸受け部は,ミクロンオーダー
の精密加工技術が駆使された高精度なもので,ピボットをピボットホルダーに収納してスプリングでサポートす
るスタビリティサポートが採用されていました。
上述のように,トーンアームの精度を高めるとともに,さらにキャビネットとの固定も精度を高め,しっかりしたも
のとするために,PL-70のトーンアームには,真鍮ムク材をハンドメイドでひとつひとつ切り出した1kgもの重量
のアームベースが採用されていました。さらに,アーム軸を固定する支持部には,8枚の金属羽根がアーム軸全
面を均一に包んでガッチリと締め付けるチャッキングジョイント方式が採用され,ガタを追放して部分共振の発生
を防いでいました。
PL-70のトーンアームには,さらに,低域共振を抑制するためのレベル可変オイル制動方式が採用されていま
した。これは,アーム軸上部に設けられたオイルカップに経時変化や温度による粘性変化がないシリコンオイル
が注入されており,先端を45度にカットしたリング状の制動フィンをしずめることでダンピングをかける構造で,
垂直方向・水平方向にそれぞれ適した制動量がワンポイントでかけられ,ダンプレベルを強くすると低域の量感
が増し,ソフトな感じの音に,弱くするとシャープな感じの音になり,カートリッジの特性に合わせるだけでなく,音
質のコントロールも可能でした。
ハイトルクモーターや高精度のアームを支えるキャビネットは,8.5kgもの重量級のキャビネットが採用されてい
ました。高剛性・高比重で,内部損失の大きい針葉樹ソリッドボードを4層積層した強固な構造となっていました。
インシュレーターは,プレーヤーシステムの重心とインシュレーターの支点をほぼ同じ高さにして,スプリングでサ
ポートするパイオニア自慢の「低重心構造インシュレーター」を搭載し,縦・横両方向の振動を抑制する構造にな
っていました。キャビネットの外装は天然銘木を表面材に使用したマーブルエボニー仕上げの美しいものでした。
以上のように,PL-70は,¥150,000という価格が安いと思わせるほどの内容を持ち,機能的には,演奏終
了時のオートアップ機構ももたない,純粋なマニュアルプレーヤーで,カートリッジの性能を生かしつつバランス
のとれた再生音をもつ高性能プレーヤーでした。1981年には,後継機の
PL-70LUが発売されます
が,アーム
部など,オリジナルのPL-70の方が仕上げがよかったなどの声もあり,根強い支持者がいる1台でもあります。