PIONEER PL-780
FULL AUTO DD PLAYER ¥69,800
1981年に,パイオニアが発売したリニアトラッキング方式のフルオートプレーヤー。パイオニアは,
1968年に国産としては初の本格的プレーヤーシステムPL-41を発売するなど,アナログプレー
ヤーの分野でもすぐれた製品を発売してきたブランドで,超弩級機といえるものから普及機まで多
くの製品群を発売し,高い評価を受けていました。1978年には,リニアトラッキング方式の高級
プレーヤーPL-L1を発売し,高い技術を示し,翌年の1979年には,弟機のPL-L5を発売する
など,リニアトラッキング方式のプレーヤーでもすぐれた製品を発売していました。そんなパイオニ
アが1980年代に入り発売したリニアトラッキングプレーヤーがPL-780でした。



PL-780のアーム部は,カッティングマシンと同じように針先が直線軌跡を描いてレコードをトレース
し,トラッキングエラー,インサイドフォースがほぼゼロになるという,理論的に最も理想に近いといわ
れたリニアトラッキングアームでした。しかし,こうした長所を持ちながら,本来固定されているアーム
のベース部が移動するリニアトラッキングアームは,SN比が悪化しやすい,音の濁りが起きやすい
などの欠点もありました。これは,アームの直線的移動の駆動力を回転式モーターなどからギアや
ベルトを介して機械的に得るため,モーターの振動や動力伝達部の応答速度の遅れが,音質劣化
につながるためでした。この欠点を解消するために,パイオニアが採用したのがリニアDDアーム方
式でした。

この「リニアD.Dアーム方式」は,一般のDD型モーターを直線にしたもので,アームベースの下に取
り付けた可動マグネットに,細長い直線状のコイルを対向させ,コイルに電流を流し,これによって
発生した磁気反発エネルギーを利用してアームを直線移動する方式でした。機械的な変換機構を
一切介在させずに,電気エネルギーをダイレクトに直線エネルギーとして取り出してしまうという方式
でした。したがって,機械的な接触がなくなり,音質劣化の要因となる振動などの問題を解決してい
ました。
さらに,精度の高い電子フルオート機構を採用していました。リニアトラッキング動作,フォノモーター
の回転・停止・回転数切換も含め,新開発のマイコンが信頼性の高い制御を行い,より静かで精度
の高いアーム駆動が実現されていました。

トーンアームは,実効長162mmストレートアームで,超軽量。高剛性のカーボングラファイトを採用
し,ローマスで共振のほとんどないトーンアームを実現していました。その構造には,質量集中の理
論を応用し,メインウェイトを軸受け部に近づけてアームの実効質量を低減し,すぐれたトラッカビリ
ティを実現していました。また,内部リード線には無酸素導線を使用し,音質の向上を図っていまし
た。さらに,このクラスのリニアトラッキングプレーヤーでは初めてのユニバーサルトーンアームを装
備し,市販されているカートリッジのほとんどが装着可能となっていました。



ターンテーブルは,直径32cmのアルミダイキャスト製で,コギングのないコアレスDCサーボ・ホール
モーターによりダイレクトドライブされていました。このコアレスモーターには,軸受け構造そのものから
回転精度を高めたSH・ロー ター方式が採用されていました。SH・ローター方式は,Stable Hanging
Rotorの略で,これまでモーターの底部にあったローターの支点をターンテーブルのすぐ下に移動する
ことによりターンテーブルの重心と支点をほぼ一致させ,安定した回転を実現し,モーターの裸特性を
大きく向上させたものでした。
さらに,回転制御には,水晶発振器の高精度を生かしたクォーツPLLサーボが搭載され,安定性がさ
らに高められ,ワウ・フラッター0.012%以下(FG直読法)という回転精度と耐負荷特性を実現してい
ました。

PL-780には,パイオニアが独自に開発した高出力型のMCカートリッジ・PM-MC4が付属していま
した。新構造の効率的な発電機構により,MCカートリッジながら1.5mVの高出力を実現し,専用ア
ンプやヘッドアンプが不要となり,MMポジションでの使用が可能となっていました。さらに,この新構
造は,シンプル化に徹しているため,MCカートリッジでは難しかった針交換も容易となり,MM並の
使いやすさとMCカートリッジらしいクリアな音質を両立させていました。

キャビネットは,アルミダイキャスト製で,薄型ながら堅牢なつくりとなっていました。ハウリングマージ
ンを高めたコアキシャルサスペンション方式で支えられ,モーター及びリニアDDアームユニットを1枚
の強化樹脂製のアンダーボードに固定しアンダーボード全体をサスペンション構造のスプリングで吊
り下げた形となっており,外部振動の影響を受けにくくした構造となっていました。

以上のように,PL-780は,リニアトラッキングプレーヤーとして,上級機で開発された技術を巧みに
継承し,しっかりとした中身を持ったプレーヤーとなっていました。現在ではとうていこの価格では作れ
ない1台で,この内容でこの価格を実現しているのは,当時のパイオニアの総合的技術力やオーディ
オ界の状況があったといえるでしょう。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



リニアDDアームを搭載。
先進のリニアトラッキングプレーヤーです。

◎リニアトラッキング方式の基本性能に独自
 開発の技術をプラス。リニアDDアーム。
◎フラットで透明感の高い音質を実現。MM
 ポジションで使える高出力MCカートリッジ。
◎回転ムラ0.012%以下(FG直読法)。
 SH・ローター方式&コアレスモーター。
◎ローマス&ハイトラッカビリティ。
 カーボングラファイト採用のストレートアーム。

●精度の高い電子フルオート機構を採用。




●PL-780の仕様●
 

■フォノモーター■

モーター コアレスQuartz PLL DCサーボ・ホールモーター
軸受け方式 SH・ローター方式 
駆動方式 ダイレクトドライブ
ターンテーブル 直径32cmアルミダイキャスト
回転数 331/3・45rpm
回転数切換  タクトスイッチ電子式 
回転ムラ 0.012%以下(WRMS/FG直読法) 
0.025%以下(WRMS/JIS)
SN比 78dB以上(DIN-B)
起動特性 1/3回転以内
回転数偏差 0.002%以内
ドリフト 時間ドリフト:0.00008%/h 以下
温度ドリフト:0.00003%/℃以下

■トーンアーム■

型式 リニアDDスタティックバランスリニアトラッキングアーム
実効長 162mm
オーバーハング 0mm
適合カートリッジ重量  3~8g(ヘッドシェルを含まず) 
ヘッドシェル  カーボンファイバー製 
トラッキングエラー  0.25°以内 
針圧可変範囲  0~3g 

■カートリッジ■

型式 MC型(針先0.3×0.7mil楕円型ダイヤモンド針)
交換針PN-4MC
出力電圧 1.5mV(1kHz,50mm/sec水平)
負荷抵抗  30~100kΩ 
適正負荷抵抗・負荷容量  40kΩ・170~330pF 
適正針圧 2g±0.3g
周波数特性 10~35,000Hz

 

■その他■

 
使用半導体・その他  IC×10,トランジスタ×6,フォトトランジスタ×3
ダイオード×6,Cds×1,ホール素子×2,
LED×12,水晶×1
付属機能 2スピード切換えロケートボタンによる両方向トーンアーム
リモート操作機能,マニュアル操作機能,フェールセーフ機能
供給電圧 AC100V 50/60Hz
消費電力 12W
外形寸法 420W×120H×427Dmm
420W×405H×427Dmm(ダストカバー全開時)
重量 8.3kg

※本ページに掲載したPL-780の写真・仕様表等は1982年2月の
PIONEER
のカタログより抜粋したもので,パイオニア株式会社に著
作権があります。
したがって,これらの写真等を無断で転載,引用等
をすることは法律で禁じられ
ていますので,ご注意ください。
 
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