KYOCERA PL-901
FINE CERAMIC PLAYER SYSTEM ¥580,000
1983年に,京セラが発売したプレーヤーシステム。アームが付属していないため,アームレスプ
レーヤーシステムあるいはターンテーブルシステムでした。この頃,京セラはオーディオに本格参
入し,この後続々と高級機分野にユニークな製品を投入していきました。このPL-901は,そうし
た高級機シリーズのスタートともいえる1台で,同社の最高級機でもありました。
当時(現在も)京セラは,京都セラミックという社名のとおり,ファインセラミックにおいて世界に知ら
れている企業で,集積回路のパッケージ,人造ルビー,サファイヤなど多くの応用製品を作ってい
ました。ファインセラミックは,ダイヤに次ぐ硬さをもち,電気絶縁性がガラスやプラスチック以上に
高く,1600度を超える熱にも,化学薬品にも,放射線にも耐える安定性を持ちながら,非常に高
精度な加工が可能っであるなど,すぐれた特徴を備えた素材でした。空気の物理振動との闘いで
もあるオーディオにおいて,剛性と質量の二律背反に対し,硬さと軽さの両立したファインセラミック
を生かした製品を作っていこうとしたのが京セラのオーディオでした。
アナログプレーヤーの分野では,不要な振動を抑えるために,剛性の大きいもので遮断する,抑え
るといったことになり,通常のプレーヤーは金属が主要な部分の材質であるため,高い剛性で振動
を断つ形がとられています。しかし,金属は剛性は高くとも共振しやすい材料であるため,重量を非
常に大きくすることで振動に対応していました。ファインセラミックを使用することで,重量を金属製
ほど大きくしなくとも,振動を抑えることをねらった設計となっていました。
セラミックは硬く共振しにくい材料ですが,固体であるため,最低共振周波数(fo)は存在しています。
そこで,foの異なる金属と共に使い,組み合わせることで,共振を最少限に抑え,外来振動を断つと
いう作りになっていました。
ターンテーブルは,厚さ15.3mm,重さ3.6kg,圧縮強度22000kg/cm2のセラミックプラッターと
重さ2.4kgの砲金製サブターンテーブルを組み合わせた二重構造ターンテーブルで,異なるfoを組
み合わせることで共振をキャンセルしていました。セラミックの高度な加工技術により,ターンテーブ
ル表面は非常に平滑に研磨されており,レコードを痛めることなく装着できるようになっており,表面
がわずかにスリバチ状になっており,レコードの密着性が高められていました。
ターンテーブルを支えるシャフト部は,ダイヤモンドに次ぐ硬さをもち,直径16mmという極太のセラ
ミックシャフトは,大きなシャフト径により支点が明確で,高い剛性に比して重量が軽く,スラストベア
リングに対する負荷を軽くしていました。また,このシャフトは真円度0.5ミクロンという平滑性を実
現しており,スラストベアリングもセラミックを用いており,真球度0.2~0.5ミクロンで,高い耐久
性を実現するとともに,ランブルの発生および増加を防いでいました。潤滑はオイルバス方式で,
シャフトと軸受けの10ミクロンのすき間に薄い油膜を形成し,滑らかな回転を支えていました。軸受
けはアルミ製で,シャフトのセラミックと異なるfoにより,共振をキャンセルしていました。
シャフト部を含むターンテーブル部を支えるシャーシには,内部損失の大きいアルミ材を用いたX型
シャーシが搭載され,振動を吸収するとともに,アルミ軸受部やベースシャーシとは異なるfoにより,
foをキャンセルしていました。そして,このX型シャーシは,金属スプリングとゴムダンパーにより支
えられ,不要な振動が抑えられていました。
アームベースは,ターンテーブルシャーシとガッチリ一体化する構造となっていましたが,六角ボルト
で固定する構造のため,アームのオーバーハング等に簡単にアジャストできるようになっていました。
X型シャーシを含むターンテーブルメカニズム全体を支えるベースシャーシは,適度の内部損失をも
つセラミックコンパウンド製で,振動を遮断する働きをもち,このベースシャーシは,金属スプリング
とゴムダンパーによるインシュレーターで支えられる構造となっていました。このインシュレーターは
効きをアジャストできるようになっていました。
ターンテーブルの駆動は,FGサーボブラシレスDCモーターが,砲金製のサブターンテーブルをベル
トで駆動するベルトドライブ方式となっていました。モーターのトルクムラ=コギング等による振動を吸
収でき,ターンテーブル面=ディスク面からモーターを離すことができ,さらに,モーターの回転を減速
することでトルクムラの影響が抑えられるなど,ベルトドライブには音質面で有利な点があるといわれ,
現在の高級プレーヤーでは主流となっています。(他の要因もありますが・・)また,PL-901のモー
ターは,重量20kg,慣性モーメント2.7tに達するターンテーブルを駆動できる強力なもので,非常に
ゆとりをもってターンテーブルをドライブしていました。さらに,モーターは,磁束漏洩の少ないアウター
ローター型で,かつ珪素鋼板のショートリングで磁界の漏れを防いでいました。
DCモーターでは,直流電流の安定性が回転の安定に直結するため,電源回路には,大容量コンデン
サーや高品質の半導体を使って,定電圧回路を構成し,クリーンな電流供給を実現していました。
ターンテーブルを駆動するベルトは,標準ではウレタンゴム製でしたが,別売の布製のベルトとも交換
できるようになっており,また,ベルトのテンションもアジャストできるようになっていました。
さらに,PL-901は,音質重視でまとめられていましたが,使いこなしがいや使いやすさを考えた設計
にもなっていました。上述のように,アーム,ドライブベルト,インシュレーターなどの各要素を選択・調
整することで,音質のチューニングが可能でした。そして,音質重視の高級機でありながら,ファインセ
ラミックという素材を生かし,普通のオーディオラックでも使える大きさと重量にまとめられていました。
また,高級プレーヤーには付属しないのが常識となっているダストカバーを,ホコリ防止のために付属
させているのも特徴でした。
PL-901は,ファインセラミックという先端技術とオーソドックスな技術や物量の積み上げにより,すぐ
れた性能を実現していました。京セラというオーディオにおいては新参者のブランドながら,しっかりと
考えて設計されたプレーヤーで,カートリッジの性能をしっかりと引き出す1台となっていました。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
オーディオの歴史は,素材革命の歴史でもあります。
いままた,ファインセラミックという先端素材を得,
オーディオの新しい歴史をひらきます。
●主な仕様●
駆動方式 | ベルトドライブ方式 |
モーター | DCブラシレスFGサーボモーター |
定格電源電圧 | 100V 50および60Hz(両用) |
定格電力 | 5W |
回転数 | 331/3および45rpm |
回転ムラ | 0.02%(W.R.M.S.) |
S/N | 60dB(補正カーブJIS) |
回転数可変範囲 | ±6% |
メインターンテーブル | ファインセラミック 直径30cm,3.6kg |
サブターンテーブル | 砲金 直径18cm,2.4kg |
寸法 | 474W×391D×192Hmm |
重量 | 27kg |
※本ページに掲載したPL-901の写真・仕様表等は1983年の
KYOCERAのカタログより抜粋したもので,京セラ株式会社に
著作権があります。したがってこれらの写真等を無断で転載,
引用等をすることは法律で禁じられていますので,ご注意くだ
さい。
★メニューにもどる
★アナログプレーヤーpart8のページにもどる
現在もご使用中の方,また,かつて使っていた方。あるいは,思い出や
印象のある方,そのほか,ご意見ご感想などをお寄せください。