PIONEER PL-L5
FULL AUTO PLAYER SYSTEM ¥99,800
1979年に,パイオニアが発売したプレーヤーシステム。パイオニアは,前年の1978年に,リニアトラッキング
方式の高級プレーヤーPL-L1を発売し,すぐれた技術を示していました。そんなパイオニアが,その2号機,あ
るいは弟機として発売したリニアトラッキング方式のプレーヤーがPL-L5でした。
上述のように,PL-L5の最大の特徴であるアーム部は,カッティングマシンと同じように針先が直線軌跡を描い
てレコードをトレースし,トラッキングエラー,インサイドフォースがほぼゼロになるという,理論的に最も理想に近
いといわれたリニアトラッキングアームでした。しかし,理想といわれるリニアトラッキングアームの一番の問題点
がアームベースの移動にありました。本来,がっちり固定するのが理想であるはずのアームベースが移動する
ことによる問題点が指摘されていました。そのため,アームベースの移動に対しては,高精度でスムーズな移
動が理想とされています。PL-L5では,上級機PL-L1で開発された「リニアD.Dアーム方式」を継承し,採用し
ていました。この「リニアD.Dアーム方式」は,アームベースの下に取り付けた可動マグネットに,細長い直線状
のコイルを対向させ,コイルに電流を流し,これによって発生した磁気反発エネルギーを利用してアームを直線
移動する方式でした。これまでのメカニカルな方式では不可欠だった歯車,ベルト,ギア,糸かけといった伝達
機構が一切なく,アームを静かに正確に駆動できる方式でした。
リニアトラッキングアームには,信頼性の高い電子フルオート(IC制御)機構が採用されていました。オートリード
イン,オートリターンの位置検出はLED(発光ダイオード)とフォトトランジスターを組み合わせた電子式で,アーム
のエレベーション動作には,専用のDCモーターが使用され,アーム感度を損うことのない高感度設計となってい
ました。
レコードの任意の位置に針を下ろす操作には,電子アーム送りノブが装備され,他の操作ボタンと合わせ,フード
を閉めたままでもアーム操作が自在に可能な前面操作型となっていました。
ターンテーブルは,直径31cmのアルミダイカスト製で,慣性質量330kg-cm2というしっかりしたものでした。ター
ンテーブルを駆動するDDモーターには,ターンテーブルの支点と重心を一致させ,サーボをかける以前にモーター
自身の裸特性をいちだんと高めることによって回転精度を向上させた「SH・ローター方式モーター」が採用されて
いました。モーターそのものは,基本的にDCサーボホールモーターが搭載されていました。このモーターは,磁極
切換(スイッチング)機構にホール素子を応用したもので,従来DCモーターで必要であったブラシ,コミュテーターを
用いておらず,ブラシによる機械的スイッチングに比べて低振動,高S/N比,高耐久性を実現していました。ホール
素子は,固体(半導体薄膜)に電流を流し固体表面に対し垂直に磁界を加えたとき、電流方向及び磁界方向それ
ぞれに垂直な方向に電圧が発生するという原理(ホール効果)を利用した磁気量を電気量に変換することができる
素子で,現在でもCD−ROM、DVDドライブ用などの小型高性能モーター等に使用されている技術です。パイオニ
アは既に1969年に他社に先駆けて真空蒸着による量産化技術を確立し,ホールモーターを開発,翌1970年に
は,このホール素子を用いたホールモーターの商品化を実現しているなど,パイオニア伝統の技術を継承した自慢
のモーターでした。
以上のような,起動トルク1.4kg-cmの強力なSHローター方式採用のDCサーボホールモーター,水晶発振器を
利用した高精度のクォーツPLL制御,大型のアルミダイカストターンテーブル等により,ワウ・フラッター0.013%以
下(WRMS,FG直読法)という高い回転精度が実現されていました。
キャビネットは,しっかりとしたアルミダイキャスト製で,ハウリングマージンを高めたコアキシャルサスペンション方式
で支えられていました。さらに,モーター及びリニアDDアームユニットを1枚の強化樹脂製のアンダーボードに固定し
アンダーボード全体をサスペンション構造のスプリングで吊り下げた形となっており,外部振動の影響を受けにくくし
た構造となっていました。また,厚みのある重量級のアルミダイキャスト製キャビネットは,その重量によりハイトル
ク化によるターンテーブルの回転モーメントの反エネルギー作用も抑制する働きをもっていました。
以上のように,PL-L5は,先進的なリニアトラッキングアームを核として,持ち前のすぐれた技術を投入して完成さ
せた中級機で,パイオニアのプレーヤー技術の高さを示した1台だったと思います。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



◎SN比はじつに78dB(DIN-B)。メカニカル
 な伝達機構を一切使わずアームをダイレクト
 に直線駆動するリニアD.D.アーム方式を採用。
◎トーンアームの感度を損なわない
 信頼性の高い電子フルオート
 (IC制御)機構を採用。
◎回転ムラ0.013%以下(WRMS/FG直読
 法)を実現。SH・ローター方式のハイトルク
 1.4kg-cmクォーツロックPLLモーター。
◎耐ハウリング特性にすぐれたコアキシャル
 サスペンションキャビネットを採用。

●アクリルカバーには,独自の前面傾斜
 型を採用。これによって,カバーを閉めた
 ときにも針先位置を容易に確認できます。
●クィックプレイ,クィックストップ機能装備。
●LPレコードの途中曲から針を下ろしたいとき
 に便利な電子アーム送りノブを装備。
●フードを閉めたままアーム操作が可能な
 前面操作型。





●PL-L5仕様●


■フォノモーター■

モーター Quartz PLL DCサーボホールモーター
軸受方式 SH・ローター方式
駆動方式 ダイレクトドライブ
ターンテーブル 直径31cmアルミダイキャスト
(慣性質量330kg-cm2,ターンテーブルシート含む)
回転数 331/3・45rpm
回転ムラ 0.013%(WRMS/FG直読法)
SN比 78dB以上(DIN-B)
65dB以上(JIS)
負荷変動 0%(針圧220g以内)
起動特性 1/4回転以内
起動トルク 1.4kg-cm
回転数偏差 0.002%以下
ドリフト 時間ドリフト:0.00008%/h
温度ドリフト:0.00003%/℃



■トーンアーム■

型式 リニアD.D.スタティックバランスリニアトラッキングアーム
実効長 190mm
オーバーハング
適合カートリッジ重量 4〜14g(別売ウェイトにより14〜23g)
高さ調整範囲 ±3mm
ヘッドシェル アルミインパクトプレスヘッドシェル,自重10.5g



■その他■

オート機構 専用DCモーター使用フルオート
(マニュアル,クィックプレイ可)
使用半導体,その他 水晶×1,IC×22,cds×1,ホール素子×3
LED×14,トランジスタ×17,フォトトランジスタ×5
ダイオード×17
付属機構 クィックストップ,クィックプレイ,オートリードイン
オートリターン,オートカット,アームエレベーション
アーム高さ調整機構,マニュアルアーム送り機構
供給電圧 AC100V 50/60Hz
消費電力 10W
外形寸法 494W×154H×456Dmm
494W×471H×499Dmm(アクリルカバー全開時)
重量 12kg
※ 本ページに掲載したPL-L5の写真・仕様表等は1979年11月の
 PIONEERのカタログより抜粋したもので,パイオニア株式会社に
 著作権があります。したがって,これらの写真等を無断で転載,引
 用等をすることは法律で禁じられていますので,ご注意ください。

 
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