marantz PM-90
PREMAIN AMPLIFIER ¥160,000
1991年に,マランツが発売したプリメインアンプ。マランツは,1953年にアメリカで生まれたオーディオブランドです
が,資金難から1964年にスーパースコープ社に買収され,1968年には,日本のスタンダード工業がスーパースコー
プ社と提携することとなり,マランツブランドのオーディオ機器の設計・製造も担当するようになって,1975年より社名
も日本マランツとなりました。1980年には,スーパースコープ社からオランダフィリップス社にマランツブランドが売却
され,日本マランツもフィリップス傘下に入ることとなりました。ヨーロッパのフィリップス傘下に入って以降,アメリカ・マ
ランツのイメージを継承したアメリカンなデザイン,伝統的な左右対称のデザインから,PM-95,PM-80など,フィリッ
プスブランドの影響も感じさせるヨーロピアンな落ち着いたデザインのプリメインアンプが発売されていきました。そうし
た中,35万円もの高級機,PM-95のイメージを継承しつつ,20万円を切る価格帯に突如出現した強力なプリメイン
アンプがPM-90でした。

PM-90の大きな特徴として,プリメインアンプという名の通りの本格的な2アンプ構成となっていることがありました。
CDなどのデジタルソース,出力レベルの高いソースが主流の時代となったこの頃,プリメインアンプでも,ゲインを高く
とったハイゲイン・パワーアンプとゲインを持たないプリ部・ボリュームを組み合わせる方式が多くなっていました。こう
した方式は,構成がシンプルとなり,S/N等でも有利であると考えられていました。しかし,ここでいうS/Nは,カタログ
上で示されるボリューム最大時のものであり,実使用時を考えると,ボリュームは絞られた状態で使用され,その際の
入力信号(S)は小さくなり,パワーアンプ部の残留ノイズはボリューム位置に関係なくそのまま出力されるため,実使
用時のS/Nは,スペックよりも劣ることになってしまいます。また,こうしたボリューム+ハイゲイン・パワーアンプという
方式では,パワー部のゲインが40dB以上にもなり,負担が大きすぎてアンプ自身の安定度や歪みなどの面でも問題
が生じてくる可能性が高くなります。
そこで,PM-90では,パワー部の負担を低減させるためにゲインを27.8dBにまで抑え,ゲイン17.8dBのプリアン
プを持たせた本格的な2アンプ構成としていました。
さらに,実使用時のS/Nの劣化を防ぐために,4連ボリュームのうち,2連をプリアンプのNFループに挿入したアクティ
ブボリューム方式を採用し,ボリュームが絞られたとき,入力信号が小さくなるのに合わせてプリ部のゲインも下がり,
残留ノイズが抑えられるようになっていました。

変化する電気信号に瞬時に対応するために,カスコード・テクノロジーを駆使した高速かつ低インピーダンスの電圧増
幅部を搭載していました。また,ドライバー段にMOS FETを使用し,パワー段は,バイポーラトランジスターをパラレル
プッシュプルで構成したもので,十分なドライブ能力を実現していました。そして,マランツ伝統の純A級回路が搭載され
ており,A級で25W/ch(8Ω),AB級では130W/ch(8Ω)の出力を実現し,A級とAB級の動作切替スイッチが装備
されていました。

こうした強力な出力を支える電源部は,EIコアの電源トランス2基でトータル500VAの強力なものでした。2つのトラン
スはL・R独立というものではなく,+と-をそれぞれ受け持つ方式のシングル電源で,2つのトランスの電流方向が逆
になるように配置され,お互いのリーケージフラックス(漏れ磁束)を打ち消すコンストラクションになっていました。フィル
ターコンデンサーは,71V,22,000μFのものが2基登載されていました。さらに,ノイズキラー素子が高周波ノイズ
を吸収するようになっており,聴感上のS/Nにも配慮した電源部になっていました。



筐体や全体の構造は,聴感上のS/Nの劣化を防ぐために,しっかりとした制振構造となっていました。まず,ベース
となるシャーシに,複雑な構造の専用の亜鉛ダイカストシャーシが採用されていました。底面いっぱいの面積を持つ
一体化構造で,中央部には,トランスやコンデンサーのサイズにぴったり合わせた箱形の電源シャーシがあり,放熱
用に空けられた抜きの部分の周囲の梁の部分はすべて補強用のリブが付いているという,複雑なダイカストシャーシ
は,通常の折り曲げ成型のシャーシよりもかなりコストがかかったものでした。この頑丈なシャーシに,亜鉛ダイカスト
製のサイドパネルが取り付けられ,トップパネルは3mm厚鋼板製で,サイドパネルともしっかり連結され,全体として
高い強度を持つ制振構造になっていました。強力な電源部も含め,アンプ全体の重量は27kgに達していました。
背面パネルの入出力のRCA端子はすべて金メッキ仕上げで,スピーカー端子も金メッキ仕上げとなっており,バナナ
プラグ対応のものでした。また,背面パネルには,電源コードの極性をひと目で確認できるAC極性インジケータが装
備されていました。

シンプルなイメージの外観ですが,プリメインアンプとして機能的にはオーソドックスに仕上げられていました。入力は
PHONO1系統,LINE4系統,TAPE入出力3系統の他,CDバランス入力も装備されていました。また,グラフィック
イコライザーなどの接続も考えたプロセッサー入出力(ジャンパーピンで接続された出力と入力端子)も装備されてい
ました。PHONO入力は,ハイゲインタイプで,MMだけでなくMCにも対応していました。そして,スピーカー出力は2
系統装備されていました。フロントパネル上には,電源スイッチ,メインボリューム,インプットセレクター,そして,ソー
スダイレクトスイッチ(トーン回路などを通らずバイパスするスイッチ)のみが配置されていました。
下部のシーリングパネル内には,ヘッドホン端子,スピーカーA/B切替,A級/AB級動作切替,BASS/TREBLE独
立のトーンコントロール,バランスボリューム, REC OFFや相互ダビングも可能とするREC OUTセレクター,MM
/MC切替などが装備されていました。

以上のように,PM-90は,プリアンプ部とパワーアンプ部のゲイン配分を見直し,実使用時の音質向上を図るなど,
正攻法で技術と物量を投入したプリメインアンプでした。ドライバー段にMOS FETを使用し,パワー段は,バイポー
ラトランジスターという構成ながら,パワー段にもMOS FETを搭載したかのような,繊細さをもちつつ低域もしっかり
とした音をもち,繊細感とパワー感を併せもつバランスのとれたアンプでした。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



プリメイン・アンプのあるべき姿を追求。
カタログ・スペックより聴感を重視した
マランツの代表機種。

◎本格的設計のプリアンプ部と4連アクティブ・
 ボリュームの採用
◎圧倒的な音場感を再現する純A級回路を搭載
◎充分なドライブ能力を確保するパワーステージ
◎ツイン・パワートランスを採用した強力な電源部
◎ハイリジッドな制振構造
◎AC極性インジケータ




●定格●

定格出力 A級:25W+25W(8Ω)
AB級:130W+130W(8Ω),150W+150W(6Ω)
    180W+180W(4Ω) 
全高調波歪率 0.0015% 
周波数特性  10Hz~100kHz+0dB,-3dB 
SN比  PHONO(MM):89dB
PHONO(MC):70dB
CD(ハイレベル):111dB 
入力感度/インピーダンス PHONO(MM):2.8mV/47kΩ
PHONO(MC):220μV/100Ω
ハイレベル(アンバランス):170mV/20kΩ
ハイレベル(バランス):170mV/600Ω 
消費電力  290W(電気用品取締法) 
最大外形寸法  454W×170H×460Dmm 
重量 27.0kg 
※本ページに掲載したPM-90の写真,仕様表等は,1993年10月
 のmarantzのカタログより抜粋したもので,株式会社D&Mホール
 ディングスに著作権があります。したがってこれらの写真等を無断
 で転載・引用等することは法律で禁じられていますのでご注意くだ
 さい。

 

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