marantz PM-99SE
STEREO PRE-MAIN AMPLIFIER ¥330,000
1992年に,マランツが発売したプリメインアンプ。マランツは,1953年にアメリカで生まれたオーディオブ
ランドですが,資金難から1964年にスーパースコープ社に買収され,1968年には,日本のスタンダード
工業がスーパースコープ社と提携することとなり,マランツブランドのオーディオ機器の設計・製造も担当す
るようになって,1975年より社名も日本マランツとなりました。1980年には,スーパースコープ社からオラ
ンダフィリップス社にマランツブランドが売却され,日本マランツもフィリップス傘下に入ることとなりました。
1970年代から1980年代半ばまでは,アメリカ生まれのマランツブランドをイメージさせるアメリカンなデザ
イン,伝統的な左右対称のデザインのプリメインアンプを発売していましたが,1980年代後半から,PM-95
PM-80,PM-90など,フィリップスブランドの影響も感じさせるヨーロピアンな落ち着いたデザインのプリメ
インアンプに移行していきました。そうした中でPM-90をベースにした上級機として発売された当時の同社
の最高級機がPM-99SEでした。

PM-99SEは,「SE=Special Edition」の名称が示すとおり,PM-90のシャーシ,コンストラクションを
ベースに,新開発の技術や高品質のパーツを投入して強化されたモデルで,大きさ,デザインなど一見よく
似ていますが,内容は大きく進化していました。
前述のように,筐体や全体の構造は,PM-90をベースにしたもので,聴感上のS/Nの劣化を防ぐために,
しっかりとした制振構造となっていました。ベースとなるシャーシに,複雑な構造の専用の亜鉛ダイカストシャー
シが採用されていました。底面いっぱいの面積を持つ一体化構造で,中央部には,トランスやコンデンサーの
サイズにぴったり合わせた箱形の電源シャーシがあり,放熱用に空けられた抜きの部分の周囲の梁の部分
はすべて補強用のリブが付いているという,複雑なダイカストシャーシは,通常の折り曲げ成型のシャーシよ
りもかなりコストがかかったものでした。さらに,PM-99SEのシャーシには銅メッキが施されていました。この
銅メッキ亜鉛ダイカストシャーシと同じものは,後に高級プリメインアンプPM-15,パワーアンプSM-5等に
も使用されていました。こうした頑丈なシャーシに,亜鉛ダイカスト製のサイドパネルが取り付けられ,3mm厚
の制振鋼板トップカバーはサイドパネルともしっかり連結され,アルミブロック脚部の組み合わせで,全体とし
て高い強度を持つ重量級の制振構造になっていました。
さらに,珪素鋼板のシールド板,70μ箔プリント基板など,SEシリーズに共通するパーツや構造により,シー
ルド能力と制振性を追求していました。



PM-99SEの大きな特徴として,高速電圧増幅モジュール「HDAM」を搭載していたことがありました。「HDAM」
は,Hyper Dynamic Amplifier Moduleの略で,通常IC化されているオペアンプをディスクリート化したともい
えるアンプモジュールで,切手大ほどの銅ケースの中に,多層基板によるシールド構造がとられたアンプ回路が
納められており,熱や振動,電磁波からの影響を排除しつつ常に安定した性能が発揮できるというものでした。
通常のオペアンプの約15~20倍の速さを誇るスルーレイトとICのスペース効率,熱や振動に対する高い安定
度を実現し,音質面でも密度感やスピード感が上がるという効果がもたらされていました。この「HDMA」は,自
社グループ内に通信機部門を持つマランツならではのもので,持ち前の多層基板技術,表面実装技術,ノイズ
対策の技術などを生かした自社開発のモジュールでした。プリメインアンプとして初搭載で,この後,マランツの
アンプだけでなく,CDプレーヤー等にも搭載されていくことになりました。PM-99SEでは,フォノイコライザー,
バランスバッファーアンプ,プリアンプ,トーンコントロール,パワーアンプ前段と,チャンネルあたり5個,計10
個を使用し,ハイスルーレイトを実現していました。

パワーアンプ出力段は,PM-90のバイポーラトランジスターのパラレルプッシュプルに対し,新たにMOS FET
のパラレルプッシュプル構成がとられていました。PD(=許容損失)が150Wと従来型MOS FETより大きい新
型のMOS FETを使用することにより,並列数が少ないパラレルプッシュプルで,従来のトリプルプッシュプル使
用時を上回るほどの電流ドライブ能力を可能としていました。そして,マランツ伝統の純A級回路が搭載されてお
り,A級で30W/ch(8Ω),40W/ch(6Ω),AB級では130W/ch(8Ω),160W/ch(6Ω)の出力を実現し,
A級とAB級の動作切替スイッチが装備されていました。トリプルプッシュプルではなくパラレル数を抑えたパラレ
ルプッシュプルとし,22ランクに選別したディバイスからの徹底したペアリングにより,音の滲みの少ない再生音
を実現していました。



こうしたパワーリニアリティを支える電源部には,大型のトロイダルトランスと銅シールド付き低箔倍率電解コン
デンサーなどが搭載され,強力な電源部を構成していました。PM-90がEIコア電源とランスであったのに対し,
磁束漏れ,振動等の少ない,よりSN比を重視した設計であったようです。

PM-99SEは,PM-90同様に,パワー部の負担を低減させるためにゲインを26.6dBにまで抑え,ゲイン
5.4~20dBのプリアンプを組み合わせた本格的な2アンプ構成としていました。
さらに,実使用時のS/Nの劣化を防ぐために,4連ボリュームのうち,2連をプリアンプのNFループに挿入し
た4連アクティブボリューム方式を採用し,ボリュームが絞られたとき,入力信号が小さくなるのに合わせてプ
リ部のゲインも下がり,残留ノイズが抑えられるようになっていました。そして,この4連アクティブボリューム
にHDAMが組み合わせられており,ゲインの可変範囲が大幅に拡大していました。さらに,ボリューム部品
に松下電機部品製の抵抗体回転型のボリュームを使用し,低インピーダンス仕様として,実使用時の特性
を高めていました。



プリメインアンプとして機能的にはPM-90に準じつつも音質重視でシンプル化された部分もあり,比較的オー
ソドックスに仕上げられていました。入力は,PHONO1系統,LINE4系統,TAPE入出力3系統の他,CD
バランス入力も装備されていました。PHONO入力は,ハイゲインタイプで,MMだけでなくMCにも対応してい
ました。そして,スピーカー出力は1系統のみに絞られていました。フロントパネル上には,電源スイッチ,メ
インボリューム,インプットセレクター,そして,ソースダイレクトスイッチ(トーン回路などを通らずバイパスす
るスイッチ),MUTINGのみが配置されていました。下部のシーリングパネル内には,ヘッドホン端子,スピー
カー出力ON/OFFスイッチ,A級/AB級動作切替,BASS/TREBLE独立のトーンコントロール,バランスボ
リューム, REC OFFや相互ダビングも可能とするREC OUTセレクター,MM/MC切替などが装備されて
いました。

以上のように,PM-99SEは,プリメインアンプとしては最高級機として作り上げられた1台で,細かな部分ま
での解像度が高く,微少レベルでも高いリニアリティをもつ完成度の高い音質をもっていました。ここで開発,
搭載された技術が,超高級プリメインPM-15へとつながっていくこととなりました。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



PM-90に,
SE技術と数々の新開発技術を投入。
3つの視点が出会って完成した,
マランツ自信のハイグレード・モデル。

PM-90のシャーシ・コンストラクションをベースにチューンアッ
プを図ったPM-99SE。SEシリーズの統一パーツはもちろん,高
速モジュールをはじめとするいくつかの新開発テクノロジーを投
入し,聴感上のSN比の向上,スピーカードライブ能力のさらなる
向上を目指したハイグレード・モデルです。

◎数々の利点を一挙に獲得するHDAM。
◎新型パワーMOS FETを使用
◎4連アクティブ・ボリュームをクオリティアップ。
◎電磁シールド能力と高剛性を徹底的に追求。
◎抜群のパワー・リニアリティを保証する電源部。




●定格●

定格出力 A級:30W+30W(8Ω),40W+40W(6Ω)
AB級:130W+130W(8Ω),160W+160W(6Ω)
    200W+200W(4Ω) 
全高調波歪率 0.005% 
周波数特性  10Hz~100kHz+0dB,-1dB 
SN比  HIGH LEVEL:111dB 
消費電力  350W(電気用品取締法) 
最大外形寸法  454W×170H×460Dmm 
重量 26.0kg 
※本ページに掲載したPM-99SEの写真,仕様表等は,1993年
 10月のmarantzのカタログより抜粋したもので,株式会社D&M
 ホールディングスに著作権があります。したがってこれらの写真等
 を無断で転載・引用等することは法律で禁じられていますのでご注
 意ください。

 

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