DENON PMA-S1
INTEGRATED AMPLIFIER ¥400,000
1994年に,デンオン(現デノン)が発売したプリメインアンプ。このころデンオンは「Sensitive」を頭文字と
し「S1」を型番に入れた「S1シリーズ」を展開していました。そして,セパレートアンプ,CDプレーヤー,カー
トリッジ,昇圧トランス等次々と高級機を発売していきました。そうした中,発売された「S1」の型番を持つプ
リメインアンプがPMA-S1でした。
PMA-S1の最大の特徴は,パワーアンプの増幅素子と出力回路にありました。増幅素子としてはバイポー
ラトランジスターとMOS-FETの2種類があり,バイポーラトランジスターは一般にドライブ能力にすぐれ,力
強いクリアな音という傾向があり,MOS-FETは,奇数次歪の少ない滑らかで繊細な音という傾向があると
いわれています。しかし,逆に言うと,バイポーラトランジスターは繊細な滑らかな音においてはMOS-FET
に対しては一歩譲るものがあり,MOS-FETは内部抵抗が高いため,強力な電源部を要し,力強さにおい
ては,バイポーラトランジスターに一歩譲るということが一般的で,”繊細さ”と”力強さ”を両立する素子はな
かなか難しいといわれています。
また,多くのアンプでは,電力増幅段において,電流供給能力を向上させるために,増幅素子を多数並列
接続するマルチパラレルプッシュプル回路となっており,素子動作のバラツキ,信号経路の複雑化等により
音のにじみ等が生じ,精妙なニュアンスが描き切れていない傾向もあるといわれています。
そこで,PMA-S1では,同じ「S1シリーズ」のパワーアンプPOA-S1に続いて大電流型増幅素子UHC
(Ultra High Current)-MOSを採用していました。UHC-MOSは,もともとオーディオ用の素子ではなく,
大電流スイッング用の素子で,耐圧はあまり高くはありませんが,ON抵抗が非常に低く,大電流が取り出
せる特性を活かしてオーディオアンプ用に改良されたものでした。電流供給能力がバイポーラトランジスター
と同等以上に改善され,MOS-FETの音質的なメリットも合わせもつのがUHC-MOSでした。PMA-S1
に搭載されたUHC-MOSは,実際,通常のMOS-FETの35個分,バイポーラトランジスターの3個分とい
う電流リニアリティが確保された素子でした。
PMA-S1の出力回路は,大電流が取り出せるUHC-MOSを生かし,素子のバラツキの問題を解消できる
シングルプッシュプル構成が採用され,カスコードブートストラップ方式によって,電力増幅段への理想的な負
荷を実現し,シンプル&ストレートな構成が実現されていました。同時の音質を汚す原因であったソース抵抗
もUHC-MOSの安定性を生かして,排除が可能となっていました。
さらに,BTL回路が採用され,UHC-MOSに適した低い電源電圧で安定した出力確保され,音響用のすぐ
れたディバイスの搭載も可能となっていました。また,動作規準となるアース回路とスピーカー出力電流を完
全分離し,すぐれた音像の定位,繊細なニュアンスの再生に対する障害を取り除いていました。
この当時,ケーブルの誘導ノイズ等に強いバランス伝送が一つの主流となりつつありました。PMA-S1はBTL
構成を生かし,バランス入力とノーマル入力の両入力に対応する新開発NEW INVERTED Σ BALANCE
回路が搭載されていました。入力段,電圧増幅段での個別の変換回路を不要とし,ダイレクトにBTL構成の
バランスパワーアンプに入力できるバランスダイレクト設計となっており,プリアンプ,パワーアンプが一体となっ
たプリメインアンプならではのシンプル&ストレート増幅が実現されていました。
フォノイコライザー回路は,初段にローノイズFETを使用したディスクリート構成で,2段構成の専用定電圧電
源が採用され,独立して設けられたEQ POWERスイッチをOFFにすることで,回路および電源を完全に遮断
できるため,CDなどライン入力の音質への影響が解消できるようになっていました。
ラジエーター,トランスなどによる内部振動や外部からの振動による音質への悪影響を抑えるため,PMA-S1
のシャーシには,振動減衰特性にすぐれ,電磁ひずみが発生しにくく,しかも高精度な加工が可能な非磁性体
の砂型鋳物を採用していました。さらに,シャーシとラジエーターを一体化する構造設計によって,徹底した高剛
性,無共振化が実現されていました。大型の電源トランスのコアはシャーシに直接固定され,シャーシレイアウト
とあいまって周囲への影響を抑えていました。また,トランスに厳重な磁気シールドが行われ,リーケージフラッ
クスが抑えられていました。さらに,焼結合金インシュレーターもシャーシの直接固定されるなど,全体として厳
重な防振構造体となっていました。
入力端子は,PHONO(MM),TUNER,CD,AUX-1,AUX-2,TAPE-1,TAPE-2,BALANCEDの8系
統が装備され,REC OUT端子は,TAPE-1,TAPE-2の2系統をそれぞれ装備していました。REC OUTセレ
クターにより,REC OUTの切り離し,TAPE-1,2相互のダビングも可能となっていました。しかし,PMA-S1
には,PHONO入力もMMのみ,トーンコントロール,フィルター,ラウドネス,ミューティング,ヘッドホン端子,プ
リアウト,メインインも装備されていないなど,信号経路のシンプル&ストレート化が徹底され,フロントパネルも
シンプルながら重厚さを感じさせるものとなっていました。
以上のように,PMA-S1は,それまでのデンオンの歴史になかったほどのグレードの高い高級プリメインアンプ
として設計され,物量,技術が徹底して投入され,シンプルな回路で音質を追求した意欲作でした。50W+50W
という出力からは想像できないほどの駆動力を感じさせる,滑らかかつ重厚な音をもっていました。そして,PMA
-S1は,PMA-SA1,PMA-SX,PMA-SX1といった同社の高級プリメインアンプへの道をつくることとなりまし
た。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



創世記が聴こえてくる。

”繊細さ”と”力強さ”,
その表現力の両極を統合した増幅回路。
そして,防振思想の理想を徹底追求した
シャーシの創出。
いま,プリメインアンプの新世紀が拓かれる。
真の音楽感動が響き出る。

◎”繊細さ”と”力強さ”を表現する,
 UHCシングルプッシュプル回路搭載。
◎シンプルな増幅段構成と
 ソース抵抗の画期的追放。
◎音楽信号の鮮度を守りきる
 BTL回路を採用。
◎振動抑止を究めた
 砂型鋳物ラジエーター一体型シャーシ。
◎高音質バランスパワーアンプを構成する
 NEW INVERETED Σ BALANCE回路。
◎アナログの愉しみに心から浸るために
 イコライザーアンプ完全分離設計。
◎PHONOからBALANCEDまで8系統の
 入力端子。
◎シンプル&ストレートの思想で
 ピュアネスを高精度に磨き上げる。




●仕様●


[パワーアンプ部]

定格出力 50W+50W(20Hz〜20kHz:8Ω)
100W+100W(1kHz:4Ω)
全高調波歪率 0.007%(1kHz,25W,8Ω)
出力帯域幅 5Hz〜50kHz(出力25W,8Ω,T.H.D./0.1%)
出力インピーダンス 0.1Ω以下
スピーカー出力端子 4〜16Ω



[プリアンプ部]

入力感度・インピーダンス PHONO MM:2.5mV,47kΩ
LINE:150mV,47kΩ
BALANCED:150mV,100kΩ
最大許容入力電圧 PHONO MM:150mV(0.1%)
定格出力(REC OUT) 150mV(1kHz)
イコライザー(RIAA)偏差 20Hz〜20kHz ±0.3dB
全高調波歪率 0.002%(1kHz,5V)



[総合・その他]

SN比 PHONO MM:91dB(入力5mV時)
LINE:108dB
電源・消費電力 AC100V 50/60Hz,230W
外形寸法 434W×155H×493Dmm
重量 25.5kg
※本ページに掲載したPMA-S1の写真,仕様表等は,1994年4月
 のDENONのカタログより抜粋したもので,D&Mホールディングス
 に著作権があります。したがってこれらの写真等を無断で転載・引
 用等することは法律で禁じられていますのでご注意ください。

 

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