DENON POA-1500
STEREO POWER AMPLIFIER ¥150,000
1983年に,デンオン(現デノン)が発売したパワーアンプ。当時の同社のセパレートアンプのエントリー
モデルながら,上級機の
POA-3000,
POA-8000などで開発された技術を受け継ぎ,高いコストパ
フォーマンスを実現したモデルでした。
POA-1500の基本回路構成は,カスコードブートストラップつきFET差動入力・3段差動増幅回路の電
圧増幅段,カレントミラー負荷・プリドライブ段,3段ダーリントン接続パラレルプッシュプルの無帰還電力
増幅段という上級機とほぼ同様の構成となっていました。
POA-1500の大きな特徴は,オーバーオールのNFB(負帰還)ループをもたない無帰還方式の採用で
した。当時の最上級機POA-8000の回路方式を受け継ぐもので,信号のフィードバックがなく,時間遅れ
が生じないため,動的歪みが発生しにくく,NFB回路がないことから,スピーカーからの逆起電力の影響
も受けにくく,信号系のハイスピード化が可能で,動特性が大きく向上していました。
負帰還をかけていない最終出力段には,「ダイレクトディストーションサーボ回路」が搭載され,歪みの低
減が行われていました。この「ダイレクトディストーションサーボ回路」は,最終段の入力と出力を比較して
歪み成分のみを検出し,これを逆相にして入力に戻して歪みを打ち消すというもので,主信号がフィード
バックされることなく出力端子側へ伝送され,静的歪みがゼロに近いほど除去され,歪みとともに現れる
ノイズも入力信号との差として効率よく除去されるようになっていました。
無帰還方式による信号系のハイスピード化は,さらにスルーレイトを重視したfT150MHzの高速トランジ
スターを使用したプリドライバー段,ダイレクトDCサーボ回路採用の全信号経路完全コンデンサーレス
(完全DC構成)などによりさらに強化され,入力端子→出力端子間のスルーレイトは,±400V/secが実
現されていました。
最終出力段は,Pc130Wの大容量・高速パワートランジスターがパラレルプッシュプルで構成され,さらに
スイッチング歪み,クロスオーバー歪みを抑えたノンスイッチング方式が採用されていました。
出力段を支える電源部は,600VAの大形のトロイダルトランス,66,000μFの大容量ブロックコンデン
サーによって構成され,同時に,整流回路にも容量の大きい整流ダイオードが使用され,電流供給能力は
15Aと大幅にアップされていました。
高速で大容量の電源部,大形のヒートシンクに支えられ,240W+240W(4Ω),200W+200W(6Ω)
150W+150W(8Ω)のハイパワーが余裕をもって確保されていました。
また,音質に影響を与えるアース回りには,「フローティング・ロード回路」が採用されていました。これは,電
源ブロックコンデンサー部のコモンプレートに無酸素銅板のブリッジ(橋絡)を加えたもので,電源リップル電
流による歪みの発生,またリップル電流のアンバランスによって生じるスパイクノイズが低減されていました。
入力端子は,NORMALとHIGH CUT FILの2系統が装備されていました。HIGH CUT FIL端子は,CDの
サンプリング周波数に近い超高音域の40kHz以上をカットし,−3dBのアッテネーターが組み込まれ,CDプ
レーヤーのダイレクト接続にマッチングするようになっていました。また,この入力端子は,電子キーボードや
マイコンなどの超高周波パルスをもつ機器などにも対応できるものでした。
POA-1500はエントリーモデルながら,光沢のある美しいサイドウッド,大型のレベルメーターなど,上級機
POA-3000のデザインイメージを継承した高級感あるデザインとなっていました。また,フロントパネル中央
部には,上級機POA-3000Zにも採用された自己診断機能付きディスプレイが装備されていました。L・Rチ
ャンネルレベルメーターの間に設けられたこのディスプレイは,ヒートシンクの異常温度検出,左右各チャンネ
ルパワー段の動作状態などを自己診断し,その状態を表示するもので,POWERスイッチON後,一定時間
後,正常動作・異常動作をインジケートするようになっていました。
以上のように,POA-1500は,セパレートアンプとしては手頃な価格のモデルながら,本格的なパワーアンプ
として仕上げられ,しっかりした内容を持つコストパフォーマンスの高い1台となっていました。音質の面でも低
域の支えのしっかりとしたオーソドックスなバランスのとれた音をもっていました。