POA-8000の写真
DENON  POA-8000
MONO-AURAL POWER AMPLIFIER ¥350,000

1981年にデンオン(現デノン)が発売したパワーアンプ。POA-1001,POA-3000とパワーア
ンプの実力機を出していたデンオンが,さらにグレードの高い最上級機として開発・発売したパワー
アンプで,しっかりと物量が投入され,モノラルアンプとしてまとめられていました。

POA-8000の基本回路は,3段ダーリントンパワー段を中心に構成され,初段から最終段まで
すべてコンプリメンタリー・A級プッシュプル回路の無帰還アンプという構成になっていました。
初段は,低雑音・高利得のFETのコンプリメンタリー・プッシュプル構成で,歪み除去回路による
無帰還電圧増幅回路となっていました。ここからの出力が,高fT小信号トランジスター・エミッター
ホロワー回路を通して低インピーダンス化されてプリドライバー段に送られるようになっていまし
た。
プリドライバー段は,fT130MHz,Pc1W,VCEO200Vの高耐圧型トランジス ターを4個並列使
用したコンプリメンタリープッシュプルの1段増幅というシンプルな回路構成がとられていました。
また,この段の利得を決定する抵抗は精度誤差±1%,温度係数±50PPMの高精度金属蒸
着型が使用され,安定した特性が確保されていました。

POA-8000のパワーブロックパワーブロックの内部

パワー段は,3段ダーリントン構成で,ファーストドライバー段は,高域特性に優れたfT400MHz
高リニアリティの小信号トランジスター2石によるカスコードエミッターホロワー回路,セカンドドライ
バー段はトランジスター4石のパラレルプッシュプル回路,最終出力段はPc150Wの高速パワー
トランジスター12石による6パラレルプッシュプル回路という構成で,200W/ch(8Ω)という大
出力を実現していました。パワートランジスター部のサーキットボードには,回路抵抗の小さい
140μ厚の銅箔を用いたガラスエポキシ基板と無酸素銅板が使用され,信号伝送のロスを極小
に抑えていました。

POA-8000に搭載されたA級プッシュプル回路は,トランジスタ1個の直線領域で増幅を行い,
一定のバイアスを常に流しておく固定バイアス方式のいわゆるピュアA級と呼ばれるものではなく
可変バイアス方式によるものでした。プッシュプル動作につきもののスイッチング歪み,クロスオー
バー歪みを防ぐために,パワートランジスターのバイアス電流をコントロールして常にパワートラン
ジスターをONの状態に保ちつつ必要なバイス電流量にコントロールすることでA級動作に近い
動作を可能としていました。このような方式はアメリカのスレッショルド社の「ダイナミックバイアス・
クラスA」にルーツがあり,当時各社から出されていました。デンオンの「DENON class A」では,
「リアル・バイアス・サーキット」がトランジスターの信号電流のピーク値に応じたバイアス電流を流
すようにコントロールしていましたが,バイス電流の追従に遅れが出ないように,常に若干の固定
バイアス電流を流しておき,信号電流の立ち上がり時にはその差を利用して時間差を埋めるよう
に工夫されていました。これにより,安定した低歪みのプッシュプル動作が行われ,ピュアA級の
1/5の消費電力でA級動作に近い動作が実現されていました。

POA-8000の最大の特徴は,オーバーオールにNFBを用いずに,安定した動作と低歪みを実
現した無帰還回路の採用にありました。1980年頃までの多くのアンプは,出力の一部を逆相に
して入力側に戻して加えることで歪み成分を打ち消すNFB(負帰還)をかけることが一般的でした。
しかし,この頃からアンプの実際の動作時の動的歪みや安定度においてはNFBにも弱点がある
ことが言われ,信号経路にNFBをかけない歪み低減回路が各社から出始め,無帰還アンプ,ノン
NFBアンプなどと称されていました。POA-8000の無帰還回路もその中の1つでした。これらの
方式の基本的な考え方は,FF(フィード・フォワード)回路の原理をアレンジしたもので,アンプの入
力信号と出力信号を比較して歪み成分を検出し(入力信号と出力信号を同じレベルで逆相加算す
ることで検出)これを別のアンプで増幅して出力側で逆相にして加えることで歪み成分をキャンセル
するというものでした。
デンオンの無帰還回路は,初段(電圧増幅段)と出力段(電力増幅段)それぞれに独立して歪み除
去回路が搭載され,それぞれの増幅段にあった歪み除去回路(電圧型と電力型)が採用されてい
ました。初段(電圧増幅段)では,FETのソース(カソード)側から逆相の信号を得,入力信号との差
動アンプで歪み除去回路が構成され,得られた信号は出力のドレーン(プレート)側で混ぜられるよ
うになっていました。出力段(電力増幅段)の歪み除去回路は,エミッター出力のため接続が異なる
以外は基本的な動作は全く同じものでした。これらの歪み除去アンプにはNFBがかけられて低歪み
が確保されていましたが,信号経路にはNFBは存在しないという方式で,信号経路にNFBループを
持つことによる各種動的歪みの発生を抑えつつ,静的歪みも極小に抑えられていました。

POA-8000の背面からの内部

電源部は,200Wの大出力を支える大型のものでした。2次側が4巻線となった大型のトロイダル
トランスが搭載され,パワー部(160V),電圧増幅部(220V)に高圧・高安定電流を供給できる
ようになっていました。ディスプレイ用,コントロール用には独立した電流が供給され,各セクション
の干渉を抑えていました。新開発の高耐圧・大容量の電解コンデンサー,1.5mm厚の黄銅板を
使用したコモンプレートなども採用され,強力な電源部を構成していました。

POA-8000の前部

フロントパネルには,PRA-6000と同様に,アルミパネルではなく,あのマッキントッシュのよう
にガラスパネルを用いていました。これは美しく磨きあげられた15mm厚板ガラスを特殊なダイヤ
モンド加工技術によって高精度に加工したもので,パネル上に文字やレベルメーターがくっきりと
浮かび上がる美しいものでした。
レベルメーターは,dBおよびWATT(0dB=200W/8Ω)の表示で,−50dB〜+5dBまでのワイ
ドレンジのピークメーターで正確な表示を可能とし,出力のピークレベルが定格出力を超えると内
部に埋め込まれた赤色の発光ダイオードが数秒間点灯するピークホールド機能も備えられていま
した。
フロントパネルには,デジタルディスプレイも備えられ,電源ONと同時に「7から0まで」カウントダ
ウンするミューティングカウンター機能とスピーカー1or2のスピーカー表示機能をもつディスプレイ
となっていました。さらに,このデジタルディスプレイは,「自己診断機能」の表示部ともなっており,
POA-8000が正常に動作しているかどうかをチェックし,異常があればコード化された「E-7〜
E-0」でエラー箇所を表示するようになっていました。

以上のように,POA-8000は,当時のデンオンのパワーアンプ中,最上級機として,高い技術と
しっかりした物量が投入された1台でした。その斬新で透明感あるデザインからイメージされるよう
なすっきりとクリアでしかも硬さを感じさせない大人の音を持った実力派のパワーアンプでした。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



高安定・無帰還回路による
低ひずみ・高出力
「純粋」A級パワーアンプ


◎クオリティの高さを象徴,秀麗なフィーリング
◎帰還ループを排除した無帰還アンプ

■増幅動作が極めて安定で,かつ動的ひずみ
 が発生しない無帰還方式>
■理想的に静的ひずみを除去

◎高効率・高出力の「純粋」A級動作
◎強力な3段ダーリントンパワーステージ
◎自己診断機能付きデジタルディスプレイ
◎ピーク指示方式の出力レベルメーター
◎A級200Wに余裕十分な強力電源部




●POA-8000の主な仕様●



●オーディオ特性●

ミュージック出力
320W(負荷8Ω)
定格出力
200W(正弦波連続20Hz〜20kHz・負荷8Ω)
全高調波ひずみ率
0.003%以下(正弦波連続20Hz〜20kHz・負荷8Ω)
混変調ひずみ率
0.005%以下(60Hz:7kHz=4:1,定格出力相当時)
出力帯域幅
5Hz〜100kHz(THD0.01%)
入力感度
1V
入力インピーダンス
50kΩ
出力インピーダンス
0.1Ω以下(1kHz)
SN比
120dB以上(IHF-A)
周波数特性
1Hz〜200kHz(+0dB〜−3dB,1W出力時)
出力端子
2系統
サブソニックフィルター特性
16Hz・6dB/oct
スルーレート
±380V/μsec



●レベルメーター特性●

指示方式
ピーク値指示方式レベルメーター
指示範囲
−50dB〜+5dB(0dB=200W/8Ω)
周波数特性
10Hz〜100kHz±3dB
付属機能
定格出力ピークホールド表示



●デジタルディスプレイ機能●

ミューティング表示
初期値7→0へのカウントダウン
スピーカー表示
SP1,SP2
自己診断機能
メイン回路,ひずみ除去回路,異常温度上昇時の動作診断



●その他●

電源
AC100V 50/60Hz
消費電力
330W(電気用品取締法による) 160W(無信号時)
寸法
310W×188H×462Dmm(つまみ類,足の高さを含む)
重量
22kg


※ 本ページに掲載したPOA-8000の写真,仕様表等は1981年10月の
 DENONのカタログより抜粋したものでデノン株式会社に著作権があり
 ます。したがって,これらの写真等を無断で転載・引用等することは法律
 で禁じられていますのでご注意ください。
        
  
 
 
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