DENON PRA-1000
STEREO PRE AMPLIFIER ¥100,000
1983年に,デンオン(現デノン)が発売したプリアンプ。デンオンは,セパレートアンプの分野では,
1975年の真空管プリアンプPRA-1000B,パワーアンプPOA-1000Bで高い評価を受け,さら
に,1979年には,プリアンプ
PRA-2000,パワーアンプ
POA-3000というセパレートアンプの名
機を生み出しました。さらに,1982年には,高級プリアンプ
PRA-6000,パワーアンプ
POA-8000
を発売し,これも高い評価を得ることとなりました。そして,翌年,これらのセパレートアンプの技術を
受け継ぐ弟機として,同社のセパレートアンプのエントリーモデルとなるプリアンプPRA-1000,パワ
ーアンプPOA-1500が発売されました。
PRA-1000は,アナログプレーヤーやカートリッジにすぐれた製品を持っていた同社らしく,上級機
のPRA-2000,PRA-6000のリアルタイムイコライザーアンプの技術を継承した「スーパーイコライ
ザーアンプ」が搭載されていました。極低雑音Hi-gmFET8石を初段に採用した4パラレル差動アンプ
構成で高SN比を実現し,MCカートリッジに対しても十分なゲインが確保されていました。また,初段
はカスコードブートストラップつきのカレントミラー負荷として,入力インピーダンスの変動による歪みの
増加を抑え,カートリッジへの広い対応性を実現していました。以上のような構成により,SN比90dB
(MM)/77dB(MC),歪率0.001%以下と,アンプとして高い基本性能を実現し,出力の小さいMC
カートリッジに対しても,十分なゲインを持つハイゲインイコライザーアンプとなっていました。また,高
精密C・R素子などを用い,CR型とNF型のイコライザー特性を組み合わせたスーパーイコライザー
により,RIAA周波数特性は,±0.2dBの範囲で20Hz〜100kHzと,超高域まで補償していました。
イコライザーアンプの次段にあり,ライン入力が直結されるフラットアンプは,高速オペレーションアン
プと極低雑音FET差動アンプで構成されていました。初段にカスコードブートストラップ回路が付加さ
れ,初段ボリューム影響による歪みの増大を防ぎ,0.002%以下という低歪率が実現されていまし
た。
トーンコントロールは,フラットアンプの帰還回路内にトーンコントロール素子を組み込み,信号経路
から音質に有害なコンデンサーを除去したリアルタイムトーンコントロールが採用されていました。主
信号経路の回路構成に変化を与えないシンプルな回路構成で,音質劣化が抑えられていました。
パワーアンプに接続されるプリアウトには,パワーアンプや接続コード等による音質への影響を抑える
ためのバッファーアンプが設けられていました。このバッファーアンプは,完全シンメトリカルなカスコー
ドブートストラップつきコンプリメンタリーFET入力構成の無帰還回路が採用され,動的歪みの発生も
避けられ,接続されるパワーアンプなどの入力特性による影響を受けることなく,クオリティの高い信
号伝送を可能としていました。また,新開発のDCサーボ回路により,微細なDCドリフトも高速に阻止
され,DCドリフトによるパワーアンプへの影響も抑えられていました。
ファイナル・ミューティング機構は,従来のミューティング方式に代えて,新開発の電子ミューティング方
式(ミューティング・サーキット)が採用され,接点不良などによる経時的な変化やIM歪みの発生などが
防止されていました。
電源部は,レギュレーションとSN比にすぐれたトロイダルトランスが搭載され,大容量のブロックコンデ
ンサー,スイッチング歪みを抑えるファストリカバリーダイオード等が採用されていました。高性能なIC
化電源回路をさらに強化したダーリントン回路とレベルシフト回路が搭載され,リップル除去率を大幅
に改善し,高速応答性にすぐれた電源部が構成されていました。
内部レイアウトの面では,微細な入力信号を引き回すことを避けるために,筐体背面パネルに設置さ
れたプリント基板に金メッキ入力端子をダイレクトに固定した構造が採用され,入力信号は,アンプ基
板の入力回路に直結されるようになっていました。入力信号を切り替えるファンクションスイッチは,ス
イッチのある前面パネルから離れた位置の背面パネル近くの基板上でリモートコントロールで入力切
り替えを行う構造になり,同時に前面パネル部でダイレクトにLED表示をコントロールする,ダブル動
作のレリーズスイッチが採用され,LEDの点滅によるノイズが信号系に混入することも避けられていま
した。
配線基板には,主にコンピューターなど,超高周波信号などを扱う機器のみに限定使用されていたポ
リエステル系基板をオーディオ用に開発・使用していました。従来の紙フェノール系基板と比較して絶縁
抵抗が約300〜3000倍も向上したこの基板により,ロスのないクリーンな信号伝送が実現されてい
ました。
以上のように,PRA-1000は,セパレート構成のプリアンプとしては比較的価格が抑えられたエントリー
モデルながら,上級機の技術やノウハウが積極的に導入され,コストパフォーマンスにすぐれたプリア
ンプとなっていました。デザイン的にも上級機PRA-2000に共通したイメージを備え,価格を超えた高
級感のある1台となっていました。