SONY PS-X55
FULL AUTO PLAYER SYSTEM ¥49,800
1980年に,ソニーが発売したプレーヤーシステム。ソニーは,1970年台に入り,PS-4700といった
4桁の型番をもつアナログプレーヤーを数多く発売していましたが,1977年,超弩級機PS-X9を発売
し,新たにPS-X1桁の型番を持つシリーズを発売,展開していきました。そして,翌年の1978年には
PS-X70,PS-X60・・といったPS-X※0(2桁)シリーズを展開していきました。そして,1980年に入り
PS-X75,PS-X65・・といったPS-X※5(2桁)シリーズを発売し,その中で,売れ筋価格帯に投入さ
れたモデルがPS-X55でした。
ターンテーブルは,直径31cmのアルミダイキャスト製で,このしっかりと重量のあるターンテーブルを,
ソニー自慢の「リニアBSLモーター」で駆動していました。BSLはブラシ&スロット・レスの略で,DCモー
ターの宿命であったコギング(トルクムラ)を解消するために,従来のようなモーターの極数やスロット数
を増やすことではなく,ブラシやスロットをなくすシンプルな構造とすることで,原理的にコギングを抑えよ
うとしたモーターでした。こうした構造のリニアBSLモーターは,トルクムラはきわめて少なく,回転が静
かで滑らかで,効率がよく高トルクが実現されるとともに,信頼性,耐久性にすぐれたモーターとなって
いました。
さらに,「マグネディスク検出方式」と「クリスタルロック」により,正確で高精度な回転を実現していました。
「マグネディスク検出方式」は,ミクロン単位以下のものを計測するソニーマグネスケールの高度な精密
計測技術を使ったもので,回転面積が広範囲にとれるターンテーブルの外周の内壁に磁性体をコーティ
ングし,512波の速度検出信号を高密度に着磁して,曲面をもたせてターンテーブルとの位置関係を改
善したマルチギャップヘッドで平均値検出し,サーボ系に送り込むという高精度な速度検出方式でした。
331/3rpm時に約284Hzという高い発生信号周波数を持っているため,フラッター成分の中でも比較的
高い周波数までサーボ補償が可能となっていました。
検出された速度信号は,周囲温度の変化や電源・電圧・周波数の変動にも影響を受けない水晶発振に
よる正確な基準信号と比較され,正確に位相制御される「クリスタルロックサーボ」により極めて正確な
回転を実現していました。こうしたリニアBSLモーター,マグネディスク検出方式,クリスタルロックをトー
タルに用いた回転系,制御系を3段ブロックと称し,ダイレクトドライブ方式で重要なモーターの回転精度
を大きく高めていました。
アームはスタティックバランス形のオーソドックスなタイプでしたが,高感度とともに,再生音に悪影響を
与える部分共振を抑えた設計も特徴で,そのために,アームの構造はネックシリンダーから軸受部ま
で”できる限りの一体構造”がとられていました。アームパイプには,剛性を大きく高めた特殊アルミ合
金を採用し,曲げ強度の大きなJ字型構造をとることで,従来のアルミパイプの約8倍(同社比)の剛
性を確保していました。軸受け部は,ボールベアリングの微妙な隙間によるガタを防ぐために,支点間
の距離を長くとった1本のストレート軸で支えることにより動作点のブレを低く抑えたロングスパン軸受
が採用されていました。ヘッドシェルとアームパイプの結合部であるネックシリンダーにもガタツキを抑
える構造が採用されていました。シェルプラグの先端をネックシリンダーの底にある斜面にあてクサビ
効果による強い力でホールドしさらにその反作用でロッキングナットが前に押し出される力を利用して,
シェルプラグの根元を4方向からチャック状に締め付けるという仕組みで,取り付けガタがほとんど生
じない構造となっていました。
以上のように,アームの基本性能を高めた上で,アーム駆動用の専用モーターとマイクロコンピュー
ターを搭載することでアームの動きの自由度をスポイルせずに操作性や安全性を高めたフルオート
機構を搭載していました。前面操作のボタン1つで,レコードサイズのセレクト,リードイン,リターン,
リピートの各動作が正確に行われるようになっており,レコードエンドの検出機構も,無接触方式と
なっていました。静かな各動作にくわえ,アームリフターと連動したミューティング機構でショックノイズ
も抑圧され,静かで快適な操作が可能となっていました。
また,トーンアームには,単売もされているMM型カートリッジXL-15が標準装備されていました。
キャビネットには,薄型ながら,ソニーが開発した音響素材SBMC(ソニー・バルク・モールド・コンパ
ウンド)が採用されていました。SBMCは内部損失が大きく共振しにくく,さらに高剛性で収縮率が小
さいため成形精度が高いなど優れた特徴を持つ樹脂素材で,厚さ構造などを総合的に検討して,要
所に補強を施し,部分共振を低減した剛性の高い構造としていました。
さらに,固体と液体の中間のゲル状高粘弾性物質をゴムカップに充填し,振動のダンピング効果を高
めた大型のインシュレーターを採用し,耐振性を高めていました。このゲル状物質は,ゴムまりに封入
して床に落としてもほとんどはねかえりがなく,また適度の弾性をあわせもち,振動をしっかりダンプす
る性能をもっていました。
以上のように,PS-X55は,当時のソニーのプレーヤーシステムのラインナップではエントリークラス
に近いモデルながら,各部に上級機の技術のエッセンスが投入されており,フルオート機構も含めて
音楽を聴くのに使いやすく安定した性能を持つ1台でした。当時のソニーのコンポーネントシステムに
も組み込まれていました。
また,半年ほど後に,ストレートアーム搭載のPS-X55Sが発売されました。この頃,軽針圧でハイコ
ンプライアンスのカートリッジが増えてきており,それに対応して軽量なストレートアーム登載のプレー
ヤーも増えていました。そうした流れの中でPS-X55Sが追加されたのではないかと考えられます。
SONY PS-X55S
FULL AUTO PLAYER SYSTEM ¥52,000
新たに登載されたローマス・ストレートトーンアームは,より軽針圧のカートリッジに対応した設計で,シェル
からアームパイプ等まで軽量化が図られていました。付属カートリッジはMM型のXL-20Gでした。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
X55
トーンアームの自由な動きと安全機構で,
デリケートなディスクをいたわり,
快適な操作が楽しめる
コンピュータ・プレーヤーです。
X55S
俊敏に,軽やかに動く,
トーンアームの新しいカタチ
<ローマス・ストレートアーム>を登載した,
先進のコンピュータ・プレーヤーです。
●主な仕様●
PS-X55 | PS-X55S | |
ターンテーブル部 | ||
ターンテーブル | 31cmアルミダイキャスト | 31cmアルミダイキャスト |
ワウ・フラッター | 0.02%WRMS(回転系) | 0.02%WRMS(回転系) |
起動特性 | 1/2回転以内(331/3rpm時) | 1/2回転以内(331/3rpm時) |
速度偏差 | 0.0003% | 0.0003% |
SN比 | 78dB(DIN-B) | 78dB(DIN-B) |
トーンアーム部 | ||
有効長(全長) | 216.5mm(300mm) | 216.5mm(300mm) |
針圧調整範囲 | 0~3.0g | 0~2.5g |
シェル自重 | 8.0g | 5.0g(SH-151) |
使用可能カートリッジ重量範囲(シェル含む) | 11.5~18.5g,18~25g(補助ウェイト使用) | 7.5~11.5g,11.0~15.0g(補助ウェイト使用) |
カートリッジ部 | ||
カートリッジ | MM型(XL-15) | MM型(XL-20G) |
周波数特性 | 10~30,000Hz | 10~30,000Hz |
出力電圧 | 4mV(1kHz,5cm/sec,45°) | 3mV(1kHz,5cm/sec,45°) |
針 | 0.6mil円形ダイヤモンド | 0.6mil円形ダイヤモンド |
自重 | 5.2g | 3.5g |
その他 | ||
大きさ | 430W×135H×375Dmm | 430W×135H×375Dmm |
重量 | 8kg | 8kg |
付属品 | 45回転アダプター,補助ウェイト,ヘッドシェル カートリッジ(XL-15),ダストカバー |
45回転アダプター,補助ウェイト,ヘッドシェル(SH-151) カートリッジ(XL-20G),カートリッジ取付ビス,ダストカバー |
※ 本ページに掲載したPS-X55,PS-X55Sの写真・仕様表等
は1980年10月のSONYのカタログより抜粋したもので,ソニー
株式会社に著作権があります。したがって,これらの写真等を
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