SONY PS-X555ES
QUARTZ LOCK 
D.D. FULL AUTO PLAYER SYSTEM ¥70,000
1983年に,ソニーが発売したプレーヤーシステム。ソニーがこだわって開発してきた電子制御アーム
「バイオトレーサー」とリニアトラッキング方式を初めてドッキングさせたPS-X800の弟機で,大幅にコ
ストパフォーマンスが高められていました。

PS-X555ESの最大の特徴は,上述のように,ソニー独自の電子制御アーム「バイオトレーサー」を世
界で初めてリニアトラッキング方式に組み合わせたというPS-X800の技術を継承していたことにありま
した。
ソニー自慢の「バイオトレーサー」は,1000分の1秒の間に数百の論理判断を行うマイクロコンピュー
ターと,速度および位置検出センサー,リニアモーターによって全ての動作を電子的にコントロールする
高精度な電子制御アームでした。トーンアームの動きを垂直・水平方向に独立した速度センサーにより
検出し,速度フィードバックをかけていました。「バイオトレーサー」の大きな特徴は操作性と音質の両立
を目指したアームの制御をこうした働きで高度に行っていることにありました。「バイオトレーサー」により
どんなカートリッジを使用しても低域共振のピークを3dB以内に抑えることができ,クロストークも改善さ
れるという従来のオイルダンプアーム的な働きをしていました。また,外乱による影響を受けにくく,レコー
ドのソリや偏心による針とびにも強くなっていました。そのうえに,リードイン,リターン,リピートといった
アームのオート動作の制御,コントロールボタンによるマニュアルアーム並の自在なキューイング(アーム
の位置調整)が可能となっていました。アームの位置はアームコントロールボタンの操作でダストカバーを
閉めたままで可能で,ボタンを押すとはじめしばらく(左右5mm)はゆっくり,押し続けると速くなるようになっ
ており,位置調整が効率的にかつ細かくできる仕組みになっていました。さらに,電子式の針圧調整を装
備しており,0g~2.5gまで0.1g刻みのデジタル表示が行われ,電子的に針圧が印加され,レコード演
奏中でも音質を確かめながらの針圧調整が可能でした。
フルオートプレーヤーである,PS-X555ESでは,前面にあるフェザータッチのボタンで,スピード切換
アーム操作,スタート,ストップなど全ての動作が行えるようになっていました。レコードサイズを自動的に
検出するオートサイズレコードセレクターが搭載され,スタートボタン1プッシュで簡単にスタートが可能と
なっていました。さらに,トーンアームリフターと連動したミューティング回路によるミューティング機構の
採用で,針先によるポップノイズも抑えられていました。

PS-X555ESの大きな特徴であるリニアトラッキング方式は,速度センサーによって,微妙なアームの
トラッキングエラーを検出し,アーム駆動モーターにフィードバックするもので,従来のオフセットアームに
比べ,トラッキングエラーが1/10以下に抑えられていました。また,ルミナスセンサー(無接触光電素子
検出)により無接点でアームの位置検出を行っているので,アーム駆動の負荷が減少し,アームの動き
がスムーズになっていました。駆動用モーターには,駆動専用のローノイズDCモーターを採用していまし
た。
レコードをカッティングするカッターヘッドと同じく横行する軌跡をたどるリニアトラッキング方式は上述の
ように,ある意味理想的な形ですが,アームの根元を動かすということが大きな弱点にもなっていました。
アームの付け根をしっかり固定できないことによりガタが発生しやすいということがありました。このガタ
は共振をよび,アーム鳴きといわれる特有の色づけのある音になってしまう傾向がありました。バイオト
レーサーをリニアトラッキングアームと組み合わせることで,無共振化を図り,クリアな音質を実現してい
ました。
アームパイプは,同じ断面積の丸型パイプに比べ,断面第2次モーメントで70%強化された角形パイプ
アームで,リニアトラッキング方式特有のショートスパンとあいまって,剛性と軽量を両立させていました。
ヘッドシェルコネクタは,ユニバーサル型で,通常のユニバーサル型トーンアームに対応したカートリッジ
に適合していました。
PS-X555ESには,MC型カートリッジXL-333Eが標準装備されていました。XL-333Eは,強力なサ
マリウムコバルトマグネットと,空芯8の字コイルを使用したMC型で,構造の工夫で,針交換も可能と
なっていました。

ターンテーブルは,直径32cmのアルミダイキャスト製で,「リニアBSLモーター」によるダイレクトドライブ
方式が採用されていました。リニアBSLモーターは,ブラシ&スロットレスの名の通り,DCモーターから
ブラシもスロットも取り去り,トルクむらの原因を根本的に断ったリニアな回転を実現していました。
ターンテーブル外周に高密度に着磁された512波のパルス信号を,マルチギャップヘッドでで平均値検
出し,微少な回転数の変化もキャッチしてサーボをかける「マグネディスクサーボ方式」が採用され,比較
的高い発生信号周波数を持っているため,フラッター成分の中でも高い周波数までサーボ補償が可能と
なっていました。このサーボ系に水晶発振の高い発振精度を利用して位相制御をかける「クォーツロック」
を組み合わせて,温度や電源等によって生じるドリフトも抑えられ,ワウ・フラッター0.015%(WRMS)
の高い回転精度を実現していました。こうした3段構えの高精度な回転系を,ソニーは「3段ブロック回転
系」と称し,PS-X800とも同じシステムになっていました。

キャビネットには,金属に比べて内部損失が大きく,かつ高精度の加工が可能で,強度も大きいというソ
ニー自慢の新素材SBMC(SONY Bulk Molding Compound)を採用し,要所要所に補強を施して部
分共振をも抑え,薄型デザインながら剛性の高いキャビネットとしていました。インシュレーターは,固体と
液体の中間のゲル状物質を封入した構造として,SBMCキャビネットや防振設計のバイオトレーサー方
式のアームとあいまって,ハウリングに強い構造としていました。インシュレーターは,約6mmの高さ調整
機構も搭載されていました。

以上のように,PS-X555ESは,ソニーらしく理詰めの設計が特徴のハイテクプレーヤーPS-X800の
エッセンスを投入したコストパフォーマンスの高いプレーヤーシステムでした。薄型の筐体に先進的な技
術によるすぐれた性能と機能性を実現したソニーの意欲作でした。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



電子制御のバイオトレーサーと
ピュア・ルーカスのリニアトラッキング方式で,
トーンアームの理想に近づけ,
3段ブロック回転系で,高い回転性能を獲得した,
ソニー”ES”シリーズのフルオートプレーヤーです。

●ソニーが開発し,育てあげた電子制御のトーンアーム
 バイオトレーサーを搭載
●オフセットトーンアームに比べ,トラッキングエラーを
 10分の1(当社比)にまで激減した,リニアトラッキング方式
●同じ断面積の丸形パイプに比べ,断面第2次モーメントで
 70%(当社比)強化された角形ショートスパンアームパイプ
●ソニー独自のリニアBSLモーターをマグネディスク速度検出と
 クォーツロックで強力に制御した3段ブロックの回転系
●サマリウムコバルトを使用した空芯8の字コイルによる,
 針交換可能なMCカートリッジ(XL-333E)を標準装備
●レコード演奏中でもパネル上のボリュームコントローラーにより
 針圧調整のできる,バイオトレーサーならではの電子式針圧
 印加方式。針圧値はデジタル表示
●トーンアームの左右移動までボタン操作で行えるキューイング
 機構。左右5mmの範囲内での移動はゆっくり動く設計なので
 正確な頭出しに便利
●アームがレスト位置まで戻らずレコード盤の頭からすぐに演奏
 を再開するクイックリピート機構
●17cmEP盤,30cmLP盤にかかわらず,自動的にサイズが
 セレクトされ,トーンアームが正確にリードインする
 光電子ディスクサイズセレクター
●針先が降りきるまでは出力をカットし,レコード盤と針先が
 タッチしたときのノイズをなくすミューティング機構

●強度と十分な内部損失をあわせもったSBMC材を
 キャビネットに使用
●高粘弾性物質封入のインシュレーター
●別売RM-65の使用により,ソニーのデッキとタイミングを
 合わせた演奏/録音が行えるシンクロプレイが可能




●主な仕様●

<ターンテーブル部>

ターンテーブル 32cmアルミダイキャスト
ワウ・フラッター 0.015%WRMS(回転系)
負荷特性 0%(針圧100g)
起動特性 1/2回転以内(33・1/3rpm時)
SN比 78dB(DIN-B)

<トーンアーム部>

トーンアーム リニアトラッキングバイオトレーサー
(電子制御トーンアーム)
有効長(全長) 130mm(212.5mm)
針圧調整範囲 0.5g~2.5g(電子式)
シェル自重 7.2g(SH-156・フィンガーなし)
使用可能カートリッジ自重範囲
(シェル自重含む)
10~15g,14.5~19.5g(補助ウェイト使用)

<カートリッジ部>

カートリッジ MC(XL-333E)
周波数特性  10~35,000Hz 
出力電圧 0.165mV(1kHz,5cm/sec,45°) 
0.3×0.8mil楕円ダイヤモンド 
自重 3.5g

<その他>

大きさ 430W×105H×425Dmm
重さ 7.4kg

※本ページに掲載したPS-X555ESの写真・仕様表等は1983年11月
 のSONYのカタログより抜粋したもので,ソニー株式会社に著作権があ
 ります。したがって,これらの写真等を無断で転載,引用等をすることは
 法律で禁じられていますので,ご注意ください。

 
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