SONY PS-X60
D.D. FULL AUTO PLAYER SYSTEM ¥62,800
1978年に,ソニーが発売したプレーヤーシステム。ソニーは。前年の1977年に超弩級機とも
いえるPS-X9を発売し,その技術的特徴を受け継いだシリーズとしてPS-X70,PS-X60・・・
といったモデルを発売しました。PS-X60は,その中でも中間の機種ながら手頃な価格で発売さ
れた主力モデルでもありました。
ターンテーブルは,直径32cm,重量2.2kgのアルミダイキャスト製で,重量級ターンテーブル
の慣性質量により,動的に安定した回転を実現していました。この重量級のしっかりしたターン
テーブルを,ソニー自慢の「リニアBSLモーター」で駆動していました。「リニアBSLモーター」は,
「ブラシ&スロットレス」の名の通り,トルクムラの原因となるブラシもスロットも持たないシンプル
な構造のモーターで,静かで滑らかな回転が得られ,しかも効率がよく,高トルクが実現されて
いました。そして,シンプルな構造ゆえに,信頼性,耐久性にもすぐれていました。
さらに,回転数の制御のために,「マグネディスク検出方式」と「クリスタルロック」を採用していま
した。「マグネディスク検出方式」は,ミクロン単位以下のものを計測するソニーマグネスケール
の高度な精密計測技術を使ったもので,回転面積が広範囲にとれるターンテーブルの外周の内
壁に磁性体をコーティングし,512波の速度検出信号を高密度に着磁して,曲面をもたせてター
ンテーブルとの位置関係を改善したマルチギャップヘッドで平均値検出し,サーボ系に送り込む
という高精度な速度検出方式でした。検出された速度信号は,水晶発振による正確な基準信号
と比較され,正確に位相制御される「クリスタルロックサーボ」により極めて正確な回転を実現し
ていました。
トーンアームはスタティックバランス形のオーソドックスなものでしたが,高級プレーヤーPS-X9
のアームの開発過程で得られたノウハウを継承していました。再生音に影響の大きい部分共振
を抑えるため,各コネクション部の接合を強化し,できる限りの一体化を進め無共振化をめざし
た設計となっていました。
アームパイプは,剛性の高い特殊アルミ合金製で,曲げ強度の大きいJ字型の形状とすること
で,従来のアルミパイプの約8倍(同社比)の剛性を確保していました。また,このパイプは,ネッ
クシリンダー部から軸受部まで一体構造をとり,余分な接合部をなくし,接合のガタから生じる
共振要因を追放していました。
ヘッドシェルとアームパイプの結合部にあたるネックシリンダー機構には,シェルプラグの先端
をネックシリンダーの底にあたる斜面にあて,クサビ効果による強い力でホールドし,さらにそ
の反作用でロッキングナットが前に押し出される力を利用して,シェルプラグの根元を4方向か
らがっちりと締め付ける構造が開発・採用されていました。ひとつの動作で前後2カ所をリング
状にホールドすることになり,どの方向にも同じ力で締め付けられ,ガタがほとんど生じない構
造になっていました。
軸受け部は,ボールベアリングの微妙な隙間によるガタを防ぐために,支点間の距離を長くとっ
た1本のストレート軸で支えることにより動作点のブレを最小限に抑えた構造が採用されていま
した。また,ピボット軸には,直径5mmの焼入れ超硬合金をテーパー状に鏡面仕上げし,精密
ラジアルベアリングとのコンタクトをよくし,剛性の高い支持が可能な構造となっていました。
そして,PS-X60のトーンアームには,MM型カートリッジXL-25Aが標準装備されていました。
PS-X60は,フルオートプレーヤーで,レコードサイズを選択しておけば,START/STOPボタン
1つで演奏のスタート,ストップ,演奏終了後のアームのオートリターンが搭載されていました。
トーンアームのリターン時には,針圧に側圧のかからない電子式のレコードエンド検出方式が
採用されていました。アームの位置検出をランプが発した光を光電素子が受けて,その光の量
と変化を検出し,アームをスムーズにリターンさせるルミナスセンサー方式が採用されていまし
た。また,トーンアームに駆動力より大きな力が加わると瞬時にオート機構が切り離されメカニ
ズムを守るアームリミッター機構も採用され,針先やメカニズムを守る安全性を高めながら使
いやすさを実現していました。レコードサイズ選択のツマミをマニュアルにするだけで,マニュア
ル操作にもワッタッチで切り換えられるようになっていました。
キャビネットには,ソニーが開発した音響素材SBMC(SONY Bulk Mold Compound)が
採用されていました。SBMCは内部損失が大きく,共振しにくく,さらに高剛性で収縮率が小さ
いため成形精度が高いなど優れた特徴を持つ樹脂素材で厚さ,構造などを総合的に検討して
要所に補強を施し,部分共振を低減した剛性の高いフレーム構造としていました。さらに,ゲル
状高粘弾性物質をゴムカップに充填し,振動のダンピング効果を高めた大型のインシュレータ
ーを採用し,耐振性を高めていました。このインシュレーターは,低重心で,高さ調整も可能と
なっていました。
以上のように,PS-X60は,中級機として比較的手ごろな価格ながら,上級機の技術的特徴
を継承した,コストパフォーマンスにすぐれた使いやすいプレーヤーでした。モーターをはじめ
回転系メカニズムなどにもすぐれた技術を持つソニーならではのバランスの取れた設計が安
定した性能を実現していました。
SONY PS-X50
D.D. AUTO RETURN PLAYER SYSTEM ¥54,800
PS-X60の内容をほぼ継承した弟機としてPS-X50も発売されていました。ターンテーブル部,
キャビネット,トーンアームの基本構造などほぼ同一で,フルオート機構が搭載されず,オート
リターンプレーヤーとして仕上げられたモデルで,よりコストパフォーマンスが高いプレーヤー
となっていました。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
PS-X60
回転系のよさを,
徹底した無共振化で,さらに引きだしました。
”ヒューマン思想”のフルオートも魅力の
高級プレーヤーシステムです。
PS-X50
カッティングマシーンをも変えた
回転系の実力を,徹底した無共振化で,
さらに生かします。
基本性能重視のオートリターン機です。
PS-X60 | PS-X50 | |
ターンテーブル | 32cmアルミダイキャスト2.2kg(ゴムシート含む) | 32cmアルミダイキャスト2.2kg(ゴムシート含む) |
モーター | リニアBSL(ブラシアンドスロットレス)モーター | リニアBSL(ブラシアンドスロットレス)モーター |
駆動方式 | ダイレクト・ドライブ | ダイレクト・ドライブ |
サーボ方式 | クリスタルロック方式 | クリスタルロック方式 |
回転数検出方式 |
マグネディスク方式 |
マグネディスク方式 |
負荷特性 | 0%(針圧150g) | 0%(針圧150g) |
起動特性 | 1/2回転以内(33・1/3rpm) | 1/2回転以内(33・1/3rpm) |
ドリフト(時間) |
0.0003%/h以下 |
0.0003%/h以下 |
ワウ・フラッター | 0.025%WRMS | 0.025%WRMS |
SN比 | 75dB(DIN-B) | 75dB(DIN-B) |
有効長(全長) | 235mm(330mm) | 235mm(330mm) |
アーム高さ調整範囲 |
±3mm |
±3mm |
針圧調整範囲 | 0~2.5g(0.1g間隔) | 0~2.5g(0.1g間隔) |
シェル自重 | 11.0g(SH-155) | 11.0g(SH-155) |
使用可能カートリッジ自重範囲 (シェル自重含む) |
11.0g~19.5g 19.0g~27.5g(補助ウェイト使用) |
11.0g~19.5g 19.0g~27.5g(補助ウェイト使用) |
カートリッジ | MM型(XL-25A) | MM型(XL-25A) |
周波数特性 | 10~30,000Hz | 10~30,000Hz |
出力電圧 | 4mV(1kHz5cm/sec45°) | 4mV(1kHz5cm/sec45°) |
針 | 0.3×0.8milダイヤ楕円針 | 0.3×0.8milダイヤ楕円針 |
自重 | 5.2g | 5.2g |
大きさ | 480(幅)×165(高さ)×420(奥行)mm | 480(幅)×165(高さ)×420(奥行)mm |
重量 | 12kg | 11.5kg |
k-nisi@niji.or.jp※本ページに掲載したPS-X60,PS-X50の写真・仕様表等は
1979年4月のSONYのカタログより抜粋したもので,ソニー株式
会社に著作権があります。したがって,これらの写真等を無断で
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