SONY
PS-X70
FULL AUTO PLAYER SYSTEM ¥79,800(カート
リッジレス)
1978年に,ソニーが発売したプレーヤーシステム。前年の1977年に発売した超弩級機
PS-X9の
技術的な特徴を受け継ぎ,中級機として開発されたプレーヤーで,回転系,アーム,キャビネットなど
技術的にもデザイン的にも総合的にバランスの取れた実用的なプレーヤーでした。
ターンテーブルは,直径32cm,重量2.2kgのアルミダイキャスト製で,この重量級のしっかりした
ターンテーブルを,ソニー自慢の「リニアBSLモーター」で駆動していました。「リニアBSLモーター」は,
「ブラシ&スロットレス」の名の通り,トルクムラの原因となるブラシもスロットも持たないシンプルな構
造のモーターで,滑らかな回転を実現していました。PS-X70では,このモーターをさらにシンプル化
高トルク化して搭載し,スタート/ストップのクィック動作や,すばやい立ち上がり特性を実現するととも
に,シンプルな構造ゆえに,高い信頼性と耐久性も確保されていました。
さらに,「マグネディスク検出方式」と「クリスタルロック」により,正確で高精度な回転を実現していまし
た。「マグネディスク検出方式」は,ミクロン単位以下のものを計測するソニーマグネスケールの高度な
精密計測技術を使ったもので,回転面積が広範囲にとれるターンテーブルの外周の内壁に磁性体を
コーティングし,512波の速度検出信号を高密度に着磁して,曲面をもたせてターンテーブルとの位置
関係を改善したマルチギャップヘッドで平均値検出し,サーボ系に送り込むという高精度な速度検出方
式でした。検出された速度信号は,水晶発振による正確な基準信号と比較され,正確に位相制御され
る「クリスタルロックサーボ」により極めて正確な回転を実現していました。
アームはスタティックバランス形のオーソドックスなタイプでしたが,高感度とともに,再生音に悪影響を
与える部分共振を抑えた設計も特徴でした。そのために,アームの構造は「できる限りの一体化」の思
想で設計されていました。
アームパイプは,直径10mmの高剛性アルミパイプで,曲げ強度の高いJ字型が採用され,同社の従
来のアルミパイプの8倍もの剛性を確保していました。そして,ネックシリンダー部から軸受け部まで一
体構造で,ピボット部はパイプに貫通させ,両側からナットで締め付ける方法がとられ,パイプどうしの
接合に起因するガタをなくして,共振発生の要因を極力追放していました。
軸受け部は,ボールベアリングの微妙な隙間によるガタを防ぐために,支点間の距離を長くとった1本の
ストレート軸で支えることにより動作点のブレを低く抑えた構造が採用されていました。また,ピボット軸に
は,直径5mmの焼入れ超硬合金をテーパー状に鏡面仕上げし,精密ラジアルベアリングとのコンタクトを
よくし,剛性の高い支持が可能な構造となっていました。さらに,ウェイト軸とパイプ部の間にはナイロンシ
ャフトが挿入され,低域の外乱振動を低減できるようになっていました。
ヘッドシェルとアームパイプの結合部であるネックシリンダーにもガタツキを抑える構造が採用されていま
した。シェルプラグの先端をネックシリンダーの底にある斜面にあてクサビ効果による強い力でホールドし
さらにその反作用でロッキングナットが前に押し出される力を利用して,シェルプラグの根元を四方チャッ
ク状に締め付けるという仕組みで,取り付けガタがほとんど生じない構造となっていました。ヘッドシェルは
高剛性のアルミダイキャスト製が付属していました。
アームベースは,亜鉛ダイキャスト製の重いアームベースとされ,アーム本体をガッチリと固定し,アーム
の安定した動作を確保していました。
カートリッジとヘッドシェルを結ぶリード線,パイプ内を走る信号ケーブル,さらにフォノコードなどすべての
ケーブルにはウレタン皮膜導線(リッツ線)が採用されていました。このリッツ線は,芯を1本1本絶縁した
もので,高域でのインピーダンス上昇と信号の伝送ロスを低減したものでした。さらに,ピンプラグには金
メッキ処理が施されていました。
PS-X70のアームは,PS-X9のアーム部PUA-9と外観や基本構造の共通性が高く,PUA-7の名前で
単売(¥30,000)もされ,アーム単体としての実力もしっかりしていたことがうかがえます。
PS-X70は,アームの性能を高めた上で,アーム駆動用の専用モーターとロジック回路を搭載することで
アームの動きの自由度をスポイルせずに操作性や安全性を高めたフルオート機構を搭載したフルオート
プレーヤーでした。
その特長としては,(1)通常のフルオート動作の他,トーンアームのみ,ターンテーブルのみのオート動作
が行えることで頭出し動作が自由に行え,オート動作中にいきなりマニュアル動作に切り替えることができ
る。(2)針先に側圧をかけないレコードエンド検出のため,ルミナスセンサーを採用し,誤操作した場合に
も連続した動作指示に素早く対応でき,アーム駆動力より大きな力がかかるとオート機構が瞬時に分離さ
れてメカニズムに負担をかけない安全機構。(3)針先がレコード盤に下りるとき,離れるときのノイズを無く
したミューティング機構。などがあり,フルオート機構の正確さ,安全性,速さなどを実現していました。
キャビネットには,ソニーが開発した音響素材SBMCが採用されていました。SBMCは内部損失が大きく
共振しにくく,さらに高剛性で収縮率が小さいため成形精度が高いなど優れた特徴を持つ樹脂素材で厚さ
構造などを総合的に検討して,要所に補強を施し,部分共振を低減した剛性の高いフレーム構造としてい
ました。さらに,ゲル状高粘弾性物質をゴムカップに充填し,振動のダンピング効果を高めた大型のインシ
ュレーターを採用し,耐振性を高めていました。このインシュレーターは,低重心で,高さ調整も可能となっ
ていました。また,ダストカバーも厚みのある頑丈なものが採用され,耐振性に配慮されていました。
以上のように,PS-X70は,上級機の技術的特徴を受け継ぎ,中級機ながら各部にバランスの取れた設計
が行われ,オーソドックスながら使い易いアナログプレーヤーでした。