YAMAHA
PX-2
NATURAL SOUND LINEAR TRACKING
PLAYER
¥180,000
1979年に,ヤマハが発売したリニアトラッキングプレーヤーシステム。1977年に同社初のリニア
トラッキング方式のプレーヤー
PX-1を
発売したヤマハは,そこで得られた多くの技術とノウハウを
生かしてリニアトラッキングプレーヤーの弟機の開発を行い,約3分の1の価格のPX-2として発売
しました。
リニアトラッキングアームは,アナログレコードの原盤を作るカッティングマシーンと相似形の動きを
する1つの理想の形ですが,アームの移動を行うメカニズムの精度が重要であり,また難しい面で
もありました。
PX-2のリニアトラッキングアームには,垂直中心軸にスリットの付いたシャッターが
付けられ,それをはさんで上方にはデュアルCdS(光導電素子)が,下方にはLEDが置かれ
てい
て,
アームが直角の状態からずれた場合には,CdSに不平衡電圧が発生し,サーボ回路により
コントロールされた電圧がサーボモーターに送られるようになっていました。そして,その回転はプ
ーリーで減速され,アームベースに取り付けられたベルトを駆動してアームベースを移動させると
いうものでした。このサーボ回路には,±0.
5
mmの不感帯が設けられ,レコードの偏芯が0.5
mm以下ならアームベースは前進運動をするようになっており,無駄なアームベースの動きを抑え
ていました。特性的に見ると,針先の偏位置が±0.5mm,アームの角度誤差がが0.15°以上
になるとサーボ回路が動作し始め,高調波歪が
ほとんど発生しない範囲に抑えられるようにアー
ム
ベースがコントロールされるようになっていました。
アーム駆動用のサーボモーターには,トルクが大きく振動や機械雑音の少ないDCコアレスモーター
が採用されていました。さらに,モーターの回転音と振動を低減するために,ネオプレンゴムで包ん
だ上に,振動吸収力の高いブチルゴムでリアベースから浮かせて固定されていました。また,モータ
ーからアームベース駆動用のベルトへはさらにベルトを介して回転トルクを伝える構造がとられ,ア
ームベースがリアベース上を移動する際に振動を発生しないように滑らかに仕上げたリアベースの
表面をSN比の良い3個のプラスチックローラーで支えて転がりによる振動を抑える仕組みになって
いるなどの工夫がされていました。これらの徹底した防振設計により,SN比80dB(IEC 98A
Weighted)という高SN比を実現していました。
PX-2のアームは,水平トラッキングエラーが原理的にゼロのリニアトラッキング方式を生かして有効
長190mmのショートアームが搭載されていました。このため,高剛性のアルミ材を使用したシェルや
パイプとあいまって,軽量で剛性の高いアームとなっていました。また,バランスウェイトを大型の横型
矩形として支点に近づけ,回転軸まわりの慣性モーメントを高くとり,振れ振動を抑えていました。そし
て,レコードのソリや偏心に影響されず音楽成分を完全にピックアップできるように,アームの低域共
振をカットオフする周波数(fo)を低周波と音楽信号のクロスオーバー周波数にあたる12Hzに設定し
ていました。ヘッドシェルは純アルミブロックを高圧油圧プレス機で成型した軽量・小型の高剛性のも
ので,フィンガーフックなしの左右対称構造となっていました。
このアームでは,針圧印加に通常のカウンターリング方式ではなく,針圧印加用のカウンターウェイト
がアームの軸上にあり,前後にスライドさせるスライディングウェイト方式が採用されていました。この
方式は,カウンターリング方式に比べ針圧調整の目盛が見やすく正確な調整が可能なだけでなく,カ
ウンターウェイトの前後の移動により,針圧に応じて針先等価質量も変わる等価質量/針圧比例型で
あるため,カートリッジのコンプライアンスに広く対応できるというメリットがありました。
また,アームベースに設けられたツマミにより,±4mmの精密な高さ調整ができるハイとアジャスト機
構も付属し,カートリッジへの対応性を高めていました。
PX-2のモーターは,原理的にコッギングがなく滑らかな回転を実現するコアレスタイプで,非接触方
式のホール素子を採用したDC4相8極コアレスホールモーターを搭載していました。全周積分型FG
(周波数発電機)によりターンテーブルの回転は高精度に検出され,クォーツ制御により水晶レベル
の高精度で安定した回転を実現していました。
ターンテーブルは,直径31cmのアルミダイキャスト製で,重量2.1kg(ゴムシート含む)の重量級ター
ンテーブルを採用し,慣性モーメントは270kg・cm
2に
達し,ピッチの細かい負荷変動を抑えていまし
た。これらのトータルな回転精度の追求により,ワウ・フラッター0.01%(FG直読)という安定した回
転を実現していました。
PX-2はフルオートプレーヤーで,ダストカバーの形状の工夫とあわせ,ダストカバーを閉じた状態で
もボタン操作によりトーンアームの操作が可能なデザインとなっていました。PX-2専用に新開発した
ハマハ製ロジックLSI(YM-294)を中心とした純電子的操作系で,17cm/30cmというレコードサ
イズ選択のボタンを押すだけのワンタッチで自動的に1曲目の先頭にリードインするPXシリーズ共通
の操作性を持っていました。オートリターン時も含めアームの位置検出は,非接触式の3ビットフォト
センサにより行われ,フルオート動作による音質への悪影響をなくしていました。ダストカバーを閉じた
状態でのボタンによるマニュアル操作も可能となっていて,2段階のストロークを持つボタンの操作に
より,アーム位置の移動速度を2段階(8mm/sec,20mm/sec)に切り換えられるようになっていま
した。アームのアップダウン時にはアームの左右の動きが自動的にロックされ,オイルダンプにより
アーム先端を安全に上下動させるプランジャーに信号が送られ安全にアップダウンが行われるように
なっていました。
PX-2では,ターンテーブルを駆動するフォノモーターのドライブのような持続的動作と,リニアトラッキ
ングアームの動作における間欠的動作があり,相互の動作が影響を与えないように,従来のプレー
ヤーに比較して大きな余裕を持たせた電源部を搭載していました。約400mAの定常電流に対して
約2.5の電流マージンをもった定電圧(24V)電源により,安定した動作が確保されていました。
キャビネットは,PX-1と同一のもので,一般の工業用のものに比べ,音質的にも剛性においてもすぐ
れた5mm厚の音響用アルミダイキャストを用い,徹底した防振・重量設計が施され,プレーヤー全体
の重量は17kgに達していました。インシュレーターは,スプリング・ゴム複合式のものが採用され,
外部振動を有効に遮断していました。ダストカバーも,ハウリングに強くぶ厚い5mm厚のアクリル製で
1.3kgという重量級のものが搭載されていました。
以上のように,PX-2は,プレステージモデルPX-1をベースに,各部をより合理的な設計とすることで
コストダウンを図りつつ,正確なディスク再生を目指して理詰めで完成された,すぐれた性能のプレー
ヤーでした。その後,このモデルでの技術やノウハウをベースに,弟機
PX-3も発売され,ヤマハは独
自の美しいデザインのリニアトラッキングプレーヤーのシリーズを完成させることになりました。