ＥＳＯＴＥＲＩＣ Ｒ-１
ＤＩＧＩＴＡＬ ＡＵＤＩＯ ＴＡＰＥ ＤＥＣＫ ￥５００，０００（受注生産）
１９８７年にティアックがエソテリックブランドで発売したＤＡＴデッキ。型番からも分かるように，ティアックがデ
ジタルオーディオのためのプレミアムブランド・エソテリック（ＥＳＯＴＥＲＩＣ＝奥義を究めた，深遠な）を立ち上
げ，ＤＡＴ第１号機として発売した１台で，同社の最上級機であることはもちろんＤＡＴデッキ全般の中でもトッ
プクラスの内容を持つ高性能ＤＡＴデッキでした。
Ｒ-１の最大の特徴は，ティアックらしくＡ／Ｄコンバーター，Ｄ／Ａコンバーター両方に「ＺＤサーキット」が搭載
されていたことでした。「ＺＤサーキット」は，業務用ＰＣＭレコーダーよりはるかに大振幅の１２ｂｉｔのディザを
デジタル加算し，変換後きわめて正確な減算をすることで，量子化歪み，高調波歪みを大幅に低減するもの
で，ティアック製のＣＤデッキＺＤ
-５０００等に初めて採用され，高精度なＤ／Ａ変換を可能とし，その後同社の
デジタル技術のひとつの基幹をなしたものでした。
特に，Ｒ-１では，「ＺＤサーキット」をＡ／Ｄコンバーター用にも新開発して搭載していました。Ａ／Ｄコンバーター
用の「ＺＤサーキット」は，１０ｂｉｔのディザの加算と減算でＡ／Ｄコンバーターの変換誤差を大幅に低減し，すぐ
れた録音性能を実現していました。
Ｒ-１では，Ａ／Ｄ，Ｄ／ＡそれぞれＬ・Ｒ独立で４つの「ＺＤサーキット」を搭載した「４ＺＤサーキット」として業務
用機以上のクオリティーをめざした設計となっていました。
Ｄ／Ａ変換部だけでなくＡ／Ｄ変換部にもオーバーサンプリング・デジタルフィルターを搭載し，群遅延特性を
向上させ，帯域内リップルを追放し，高品位の録音・再生を実現していました。
「ＺＤサーキット」は，０Ｈｚからの完全ＤＣ化を実現し，０Ｈｚ〜２２ｋＨｚという帯域の録音・再生を実現していま
した。さらに，Ｄ／Ａ変換後の伝送回路にカップリング・コンデンサーやＤＣサーボ回路を必要とせず，位相特
性にすぐれた，低歪率の「全段直結リニア・フェーズ・サーキット」を実現していました。
走行メカ部には，新開発のブラシレスＤＤモーターを装着していました。ドラム×１，キャプスタン×１，リール
×２と４つのモーターでダイレクトドライブする４ＤＤモーター構成として，安定したテープ走行を実現していまし
た。さらに，デジタルデータを正確にピックアップできる高出力センダストヘッドと，テープを保護し安定した走
行を生み出すデジタル・サーボシステムとあいまって，連続１２０分にわたる録音・再生や２００倍速サーチで
も安定したテープの定速駆動，高速駆動を実現していました。
音質を左右する回路間やメカ間の電気的干渉，外部振動，さらに固有共振などを防止するために，電源部，
メカ部，デジタル部，アナログ部，コントロール部，サーボ部をそれぞれすべて高剛性の独立したＢＯＸにシー
ルドし，５mm厚アルミ削り出しのフロントパネルと肉厚シャーシをリジッドに固定したボディにこの６つのシール
ドＢＯＸをタイトにレイアウトした強靱な高剛性・重量級のソリッドな構造をとっていました。
さらに，ボディは重量級・大型のインシュレーターが支える構造となっていました。このインシュレーターは，素
材に制振特性にすぐれた粉末焼結合金を使用し，さらに耐振，耐共振性をより高めるため，特殊アルミリング
を装着したものでした。
アナログ部の回路構成，パーツの面でもオーディオ機器として十分検討がなされ，オーディオ用のコンデンサー
リレー，抵抗が使用されていました。付属しているＲＣＡピンコードも含め，主要な伝送回路の線材には，バン・
デン・ハル社製のモノクリスタル・シルバーコーディング線が使用され，伝送ロスを抑えていました。
オーディオ系，サーボ系，コントロール系すべてに，絶縁度が高く，経時変化にもすぐれた安定度を示す両面
ガラスエポキシ基板を使用し，伝送性，耐振動性も高めていました。
電源部は，相互の干渉を抑えるため，ツイントランス７電源という構成となっていました。巻線には高純度の
ＯＦＣ線を用い，ＡＣラインノイズフィルターとともに，ノイズを抑えた高純度の伝送を可能にしていました。さらに
極性表示付の極太タイプＯＦＣ電源コードを装備し，ピュアでパワフルな電源供給を実現していました。
フロントパネルのデザインは，シーリングパネルを閉じた状態では非常にシンプルですっきりしたイメージでした。
シーリングパネルはモータードライブで静かに動作し，オープンにすると多機能な操作が可能となっていました。
シーリングパネル内には２５セグメントのピークレベルメーターが装備されていました。ピークレベルの表示は０〜
２秒の範囲で無段階に変えられ，明るさもＮＯＲＭＡＬ/ＤＩＭと変えられる輝度調整機構も付いていました。リモコ
ン操作ですべてのディスプレイ情報のＯＮ/ＯＦＦ等の操作も可能となっていました。
ＤＡＴテープ挿入部は，センサーが自動的にテープを近づけたことを感知し，ローディング部のドアが開き内部にス
ムーズにスライドしていくようになっているＩ.Ｔ.Ｌ.Ｓ.（ＩＲ Ｓｅｎｓｏｒ Ｔｈｒｏｕｇｈ Ｌｏａｄｉｎｇ Ｓｙｓｔｅｍ）機構が装備さ
れていました。ＤＡＴカセットの受け口であるアプローチ部分には，摩擦係数が少なくカセット本体の損傷を防止す
るよう，テフロン加工が施されていました。
Ｒ-１には，「インテリジェント・デスクトップ・ワイヤレス・リモート・コントロール」と称した大型のリモコンが付属し，
すべてのファンクションキー操作はもちろん，テープイジェクト，各種ＩＤの書込み/消去，ブランクサーチなどをワン
タッチで操作でき，シーリングパネルのＯＰＥＮ/ＣＬＯＳＥ，ディスプレイ表示の操作まで可能など，機能をすべて
操作できるようになっていました。
以上のように，Ｒ-１は，エソテリックブランドを立ち上げるにあたりティアックが作り上げた最高級ＤＡＴデッキで，
安定した録音・再生能力を持ち，多機能を実現したプレミアムな１台でした。しかし，第１世代機に共通の問題点
として，ＣＤからのデジタル出力を録音できないという致命的な弱点を持っていたことは実に残念でした。
以下に，当時のカタログの一部をご紹介します。
