TEAC R-10
DIGITAL AUDIO TAPE DECK ¥180,000
1990年に,ティアックが発売したDATデッキ。ティアックはDAT元年の1987年に,エソテリックブランドで超高級機
R-1を発売し,すぐれた技術を示していました。そんなティアックがティアックブランドで初めて発売したDATデッキが
R-10で,同社初のSCMS対応機でもありました。
ティアックは,1990年代に入り,タスカムブランドで業務用としてDATデッキを次々に発売し,これ以降タスカムブラ
ンドの業務用DATデッキと共通性のある機種を発売していきました。実際にはDAT規格は,民生用オーディオ機器
としてより,業務用,スタジオ用の機器として普及していったという事実もありました。そして,R-10も,タスカムブラ
ンドのDA-30との共通性の高い機種となっていました。
A/Dコンバーターは,アナログ信号をパルス波に変換し,このパルス波の幅を直接デジタル信号に変換する1ビット
方式のデュアルA/Dコンバーターが搭載されていました。さらに,4次ノイズシェイピング回路が採用され,オーディオ
信号帯域のノイスがはるか高域にシフトされ,微小信号のリニアリティの高い変換が可能となっていました。また,原
理的にゼロクロス歪みが排除され,位相ズレも抑えられていました。
D/Aコンバーター部には,信頼性の高い8倍オーバーサンプリング方式の18ビットデジタルフィルターが採用され,高
解像度のアナログ変換を可能にしていました。また,左右チャンネルの位相ズレを発生させないために,完全独立形の
モノラルD/Aコンバーターを各チャンネル用にそれぞれ搭載したツイン構成となっていました。
ヘッドには,信頼性が高く,高出力で耐久性にすぐれたセンダストスパッタヘッドが搭載されていました。また,トータル
な音質向上のために,回路基板は配線の最短化を実現する両面基板とし,さらに,オーディオ系とメカ系で巻き線を変
えた完全独立巻線大型電源トランス,独立整流回路,大容量コンデンサーなど厳選したパーツが使用されていました。
コンストラクションにおいては,不要振動を排除するよう高剛性化が図られていました。筐体は厚手の鋼板とサイドウッド
を使用し,トップパネルにも制振シートを装着して共振を排除していました。さらに,メカ部は,U型の専用シャーシに納め
てからベースシャーシと強固に一体化することによって振動の発生と伝播を抑えていました。
また,相互干渉を避けるために,電源部,メカ部,ディスプレイ部,信号変換部などの各ブロックを完全分離レイアウトとし
内部シャーシでシールド処理することによって,各セクション相互の電気的,物理的な干渉を排除するとともに,筐体全体
の剛性が高められていました。さらに,全体を支える脚部には,内部損失が大きく,振動吸収にすぐれた特殊セラミックな
どを複合した高比重素材の大型インシュレーターが採用されていました。
DATデッキとして,テープ上に音楽とは別にサブコードを記録するスペースが設けられ,指定したプログラム番号を直接探
し出すダイレクトサーチ,現在の位置から前後のスタートIDを探し出すスキップサーチ,曲の頭を順番に10秒間ずつ再生
するイントロチェック,記録終了位置を探し出すエンドサーチ,未録音部分を探し出すブランクサーチなど,デジタルならで
はの多彩な選曲機能が搭載されていました。
上述の多彩な機能は,サブコードスペースに記録されるIDによって可能となっていました。曲の始まりを示すスタートIDは
録音する曲のレベルを検出して自動的に記録することができ,テープ編集でスタートIDを追加したり,位置を変更したい場
合には,リハーサル機能を使えば,録音した曲を聴きながらマニュアルでスタートIDやスキップIDを記録することができる
ようになっていました。記録する位置は±0.15秒(5フレーム単位)というクラス最高のプロ機並の精度で設定できるよう
になっていました。
また,サブコードのIDとは別に,単純な3倍のキュー,レビュー機能,早送り,巻き戻しはテープデッキとして可能でした。
さらに,付属のワイヤレス・リモコンを使用することで,最大50曲のランダム選曲/全曲,1曲のリピート機能/9倍のサーチ
機能も可能となっていました。
フロントパネルは,アルミ引き抜き材のゴールドパネルで,同時期の同社のカセットデッキV-9000V-8000S等に共
通したイメージを持つものとなっていました。フロント部には,基本機能とサブコード用のキーのみがシンプルにレイアウト
され,大型のキーの採用により確実な操作性を実現していました。入力ボリュームは,同軸タイプではなく,一方の回転に
合わせて他方が精密に動作する差動型左右連動タイプで,はじめにL・Rそれぞれ調整し,その後片方のノブを回すだけ
でバランスを保ったままL・R両方のボリュームコントロールができるようになっていおり,操作性だけでなく,従来のボリュ
ームに比べて,チャンネルセパレーションが10dB以上改善されていました。そして,これらの操作系の特徴はタスカムブラ
ンドのDA-30,DA-25,DA-40とも共通性の高いものとなっていました。
さらに,大型のFL表示パネルと,コントロールキーに配されたLEDのインジケーターにより,リモコンによる離れた位置か
らの操作でも動作状態が確認しやすくなっていました。FL表示パネルには,大型の17セグメント・デジタル・ピークメーター
絶対時間,プログラム時間,残量時間,テープカウンターの4モードカウンター,デジタル・ピークマージン表示などが配され
ていました。また,表示パネルは,4段階で明るさをコントロールできるディマー機能が装備されていました。
入力は,4系統(アナログ:バランス×1,アンバランス×1,デジタル:同軸×1,光×1),出力は5系統(アナログ可変:バ
ランス×1,アンバランス×1,アナログ固定:アンバランス×1,デジタル:同軸×1,光×1)が装備され,様々な使用状態
に対応し,さらに,ボリューム付きヘッドホン端子も装備されていました。各端子の金属面はすべて金メッキ仕様で,酸化防
止が図られていました。

以上のように,R-10は,ティアックブランドのDATの最上級機として,また,同社初のSCMS対応機として,高い完成度を
示していました。そして,この機種はタスカムブランドのDAT群とも共通性の高い(あるいはベースとなった)もので,ティアッ
クらしさがしっかり出た1台だったと思います。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



感性あふれる
DAT創りへの
挑戦。

TASCAMブランドの業務用DATから機能とメカニズムを
ESOTERICブランドのDAT/R-1から音質を受け継いだ
SCMS対応のDAT「R-10」誕生。
ティアックだけの高度な先進技術の融合がここにある。

◎あくまでも原音に忠実な
 高精度デジタル変換を追求した
 1ビット方式A/Dコンバータ
◎信頼性の高い18ビット
 高精度LR独立ツイン・モノラル
 D/Aコンバータ
◎不要振動を津排除する
 高剛性コンストラクション
◎音質追求のための厳選した
 オーディオパーツや回路基板
◎操作性に優れた
 キーレイアウトと,洗練された
 フロントパネル
◎音を楽しむための
 多彩なテープオペレーション
◎測定器を思わせる
 差動型左右連動入力ボリューム
◎アナログソースを高品位に伝える
 バランス入出力端子(キャノン)も
 装備した豊富な入出力端子
◎プロの編集精度
 ±0.15秒(5フレーム単位)を実現した
 リハーサル機能

●視認性の高い大型の17セグメント・デジタル・
 ピークメーター
●ディスプレイの明るさを,きめ細かく4段階コント
 ロールできるディマー機能(リモコンで可能)
●絶対時間,プログラム時間,残量時間,テープ
 カウンターの4モードカウンター
●デジタル・ピークマージン
●選曲後ポーズ待機になるスタンバイ機能
●確実にテープをローディングするダブル・トレイ方式
●多機能ワイヤレス・リモコン装備(リモコンのみの機能
 :最大50曲のランダム選曲/全曲,1曲のリピート機能)




●SPECIFICATION●

信号フォーマット
型式 回転ヘッド方式デジタルオーディオ・テープデッキ
テープスピード 8.15mm/sec(12.225mm/sec対応)
量子化ビット数 16ビット直線
サンプリング周波数 48kHz:録音(デジタル入力・アナログ入力),再生
44.1kHz:録音(デジタル入力),再生
32kHz:録音(デジタル入力),再生
オーディオ(アナログ録音・再生)
録再周波数特性 1〜22,000Hz±0.5dB
S/N 94dB以上
ダイナミックレンジ 94dB以上
全高調波ひずみ率 0.004%以下(録音再生総合 1kHz FS時)
チャンネルセパレーション 94dB以上(1kHz)
ワウ・フラッター 測定限界以下(±0.001%)以下
入力端子
アナログ XLRタイプ×1系統(ステレオ)/バランス
RCAピン×1系統(ステレオ)/アンバランス
デジタル 同軸/75Ω,光(1系統,切り換え)
出力端子
アナログ XLRタイプ(可変)×1系統(ステレオ)/バランス
RCAピン(固定)×1系統(ステレオ)/アンバランス
RCAピン(可変)×1系統(ステレオ)/アンバランス
ヘッドフォン(標準ジャック)×1系統
デジタル 同軸/75Ω×1系統
光×1系統
一般
電源 100V,AC 50−60Hz
消費電力 32W
寸法(最大) 473W×149.5H×356Dmm
重量 9.8kg
※本ページに掲載したR-10の写真,仕様表等は1990年12月のTEAC
 のカタログより抜粋したもので,ティアック株式会社に著作権があります。
 したがってこれらの写真等を無断で転載・引用等することは法律で禁じら
 れていますのでご注意ください。 
       
  
 
 
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