TEAC R-9000
AUTO REVERSE STEREO CASSETTE DECK
¥90,000
1989年に,ティアックが発売したカセットデッキ。ワンウェイ・3ヘッドデッキ
V-9000と同時期に発売され
たカセットデッキで,型番同様に,デザインも非常によく似ていますが,こちらは,3ヘッドデッキながら録・
再オートリバース機能を持っていました。
カセットデッキでは。オートリバース機能を搭載した機種はたくさんありますが,録音ヘッドと再生ヘッドが
独立している3ヘッド構成と録・再オートリバースを兼ね備えている機種は,非常に限られています。そう
した中の1つがこのR-9000でした。ティアックは,1984年,
R-999Xを発売し,3ヘッド・オートリバース
デッキを実現しました。R-9000に搭載されていた高精度なリバースメカニズムであるA.R.H.S(Acculign
Rotating Head System)はこのR-999Xで開発された技術でした。
A.R.H.Sは,FWD,REVとも同一のヘッドを使用するヘッド回転式のメカニズムで,本来ミクロンオーダー
の精度で固定すべきヘッドを回転させるために高度な技術が注がれていました。
(1) 回転部のヘッドホルダーと軸受け部に重量が軽くショック吸収性の高い高精度アルミダイカストを,ミクロ
ンオーダーで加工して使用。
(2) 世界で初めてシールドタイプの精密マイクロベアリングを2個使用し,ミクロン単位の驚異的回転精度を
実現し,ショックやゴミ,温度変化による初期特性の劣化を抑えている。
(3) 回転ヘッドのストッパー部には,ビッカース硬度1,800Hv,耐荷重24,000kg/cm2を誇る純度99.5
%のアルミナセラミックスを使用。極細ピッチのステンレスアジマススクリューとの組み合わせで,両
方向独立のアジマス微調整を実現。
(4) ティアック独自のヘッド・エレベーション・トリプルギアによってヘッドの高さ調整を可能にし,3次元的にヘ
ッドポジションを保持している。
などがA.R.H.Sの技術的特徴で,固定ヘッド式ワンウェイ機を凌駕するヘッド精度を実現していました。テープ
端検出センサーには,赤外線とフォトトランジスターによる,I.R(赤外線)コンビネーション・テープセンサーを
採用して,クイックリバース機能を搭載していました。
録・再ヘッドには,安定度が高く信頼性にすぐれた高硬度パーマロイのコンビネーションヘッドを搭載していま
した。消去ヘッドには,センダストカードのダブルギャップ型を採用し,消去ヘッドによる高域特性やSN比の
劣化を抑えていました。
両方向に安定した定速走行が必要なリバースデッキにとって重要な安定したバックテンションを得るために
V-9000にも搭載されたE.M.(Electro Magnetic=電磁式)ヒステリシス・テンションサーボによるバックテ
ンション・コントロールが採用されていました。これは,メカニカルな摩擦ブレーキに頼らず,リールの回転数
をIR(赤外線)フォトリフレクターで検出し,電気的にトルク制御を非接触で行うことにより,安定したテープテ
ンションを実現するものでした。また,キャプスタン軸には,外径70mm慣性質量1100g/cm2の 高精度大型
フライホイールが2個搭載され,ワンウェイ機に引けをとらない安定したテープ走行が実現していました。
R-9000では,基本的にV-9000と同様の振動対策が行われていました。カセットハーフの微振動を抑える
ために,カセットハーフをがっちり抑え込む「アンチスタティック・カセットスタビライザー」が搭載されていました。
このスタビライザーのアームは,制振効果の高い3mm厚アルミの3層構造がとられていました。さらに,ハー
フに広い部分で圧着する振動を吸収する効果も持つ高導電性のパッドが装備され,テープ走行によって帯電
するハーフの静電気を逃がす仕組みにもなっていました。
ハーフを支えるカセットホルダーは,1.6mm厚の鉄板で剛性を高め,さらに左右両側を確実にロックしてカ
セットの浮きから発生する振動やホルダー部の共振を抑える高剛性ダブルロック・カセットホルダーが搭載さ
れていました。また,がたつきが発生しない3点支持としたトライアングル・カセット・サポートシステムも採用さ
れていました。
さらに,モーターの微小コギングによって生じる巻き取り軸部の振動を,リール台からカセットハーフ内のハブ
へ伝える部分で吸収してしまう,ダイナミック・トルク・ダンパー付きリール台も搭載されていました。
加えて,筐体全体の高剛性化,制振化も図られていました。内部振動の発生源となるテープ走行メカニズム部
は,U型の専用シャーシに収めてからフロント側と強固に一体化された二重構造がとられ,フロント,リアシャー
シ,独立のサイドシャーシと底面全体を保持するボトムシャーシ一体化による重層構造の強固な高剛性構造と
なっていました。さらに,逆U型でトップパネル部分に制振シートを装着した一体化したボンネット,制振効果の
高いサイドウッドと振動を抑える構造となっており,内部損失が高く,高比重で音速が速い特殊金属複合材製
で,がたつきを抑えた高精度インシュレーターが本体を安定に保持するようになっていました。
すべての再生アンプは,±2電源ダイレクト・カップリング方式による全段DCアンプ構成で,高音質が実現され
ていました。ヘッドアンプ部も入力カップリング・コンデンサーを排除したFET入力によるDCサーボ構成として,
録・再で10Hzをクリアーするなど,低域特性を大きく改善していました。さらに,電源電圧の供給力を40%アッ
プしてアンプ部の余裕を大きくしていました。ノイズリダクションとしてドルビーB,Cタイプが搭載され,ドルビーIC
出力もカップリングコンデンサーを排除して高耐圧化が図られていました。さらに,高域特性や位相特性を改善
するドルビーHXプロも搭載されていました。
回路部は,アルミダイキャスト密閉ケースに納められ,録音ボリュームは,基盤と直付け構造とされ,アンプ部,
電源部,ディスプレイ部などの基板を分離した上,各部を専用のインナーシャーシに収めた完全シールドの独
立構造とて相互の干渉によるノイズの発生を防止していました。バイアス録音回路では,信号入力などの高調
波とバイアス周波数との間でのビートを避けるため,バイアス信号周波数が150kHzに設定されていました。
その他,機能的には,比較的に多機能を備えていました。最大15曲も頭出しができるCPS(Computomatic
Program Search),再生中に10秒以上の無信号部分があると自動的に早送りして次の曲から再スタートす
るブランクスキャン,3ヘッドならではのTAPE,SOURCEのモニター切換は定速走行時には自動的にTAPE
に切り換るオートモニターを採用していました。
テープカウンターは,テープ残量時間表示,ピークレベルも切り替えで表示できる機能を持ち,音質重視で,ディ
スプレイを消せるディスプレイON/OFFスイッチも装備していました。
以上のように,R-9000は,3ヘッドデッキとオートリバースデッキの両立という難しさを,ティアックならではすぐ
れたテープデッキ技術で解消し,録・再オートリバースデッキとして,ワンウェイ3ヘッド機に負けない性能を実現
した力作でした。以前のR-999Xとは異なり,V-9000ゆずりのすっきりした外観デザインを備えていたのも特
徴でした。