Technics U-38(RS-1500U)
OPEN REEL TAPE DECK ¥244,000テクニクスが1976年に発売したオープンリールデッキ。「アイソレートループ方式」という独自の走行系を開発,
搭載し,その安定した走行性能が高い評価を得て,ロングランを続け,シリーズを広げていった優れたオープン
リールデッキでした。RS-1500Uの最大の特徴は,上記の「アイソレートループ方式」という独自の走行系にありました。従来のダ
ブルキャプスタン方式に対して,テープを直線的にではなくU字型に走行させることで,シングルキャプスタン,
ダブルピンチローラーという独自の走行系を実現していました。
「アイソレートループ方式」は,1966年に走行系の中でヘッドを2つのキャプスタンとピンチローラーで挟む形にな
るクローズドループ方式をオープンリールデッキRS796Uにより国内で初めて製品化したテクニクスが,従来の
キャプスタンが2つある「クローズドループ・デュアルキャプスタン方式」のウィークポイント(2つのキャプスタンをベ
ルトなどで駆動することになるため,そのベルト厚みムラ,硬度ムラによるテープ走行への影響,また,2つのキャ
プスタンの間に回転精度誤差,直径差,垂直度差などがあればお互いに相互干渉を起こしてマイナス面が出てく
る可能性があるという面)を除こうと新たに開発した方式で,大直径キャプスタン1つとリバーシングローラー,2つ
のピンチローラーで構成されるというユニークな走行系でした。
キャプスタンは直径34mmというピンチローラーより太い大直径のもので,大直径にすることにより,加工精度の点
で有利になり,超精密ベアリングで支持することで高い精度が得られ,テープ走行が38cm/sec速度の場合でも
キャプスタンは,毎秒3.55回転という低速回転となり,機械的な振動やフラッタ成分が少なくなり,動作音も非常
に静かになる,また,テープとの圧接面が広くなりテープ駆動力が高まり,リール台のトルク変動によるテープテン
ションの変化の影響も受けにくいなどのメリットがありました。
2つのピンチローラーがこの大直径キャプスタンを左右対称で挟む形になるため,軸受けに偏った力がかからず,回
転精度への影響が低く抑えられ,また,2ピンチローラーによる安定した走行により安定したテープテンション,ヘッド
タッチが実現されていました。
テープ走行を反転させるリバーシングローラーは,立ち上がりを早くするために慣性質量を最低に抑えたもので,テ
ープパスを短くし,変調ノイズを抑えるとともに走行を安定させるはたらきをしていました。また,このリバーシングロー
ラーには,オープンリールデッキで初のストロボ装置が装着され,クォーツ制御により得た正確な周波数で点滅する
LEDの発光部により,秒単位の速度偏差がチェックできるようになっていました。
このような優れた走行系により,ワウフラッター0.018%WRMS(38cm/sec),速度偏差±0.10%という安定
したテープ走行を実現していました。
RS-1500Uでは,「アイソレートループ方式」を支える駆動系は,3つのモーターがそれぞれキャプスタン,リール台
に直結されたDD(ダイレクト・ドライブ)方式を採用していました。
キャプスタンの駆動には,電子整流子方式のDCモーターが搭載されていました。サーボシステムには,FG(周波数
発電機)によってキャプスタンの回転数を検出し,水晶発振器から得られる基準周波数と位相比較するクォーツPLL
制御方式により,高い回転精度を得ていました。
リール台もDD方式で,キャプスタンと同様に電子整流子方式のDCモーターを搭載していました。アルミダイカスト製
のリール台とローターを一体化し,ステーターをハウジング内に組み込むという構造になっていました。この駆動方式
により録音,再生時の安定したテープ走行に加え,早巻き・巻き戻し時にもほぼ一定の速度で安定したリールの回
転が得られるようになっていました。
これらのキャプスタン及びリール台の駆動系はモーター及び周辺のパーツとともに精密なアルミ合金ダイカストシャー
シにマウントされ,精度の向上,部品点数の減少,軽量化,振動の吸収などのメリットにより,長期にわたる性能の
安定性を高めていました。
リールの大きいオープンリールデッキではテープの巻き径がテープテンションを大きく変化させるため,テープテンシ
ョンを安定させるための「エレクトロニック・テープ・テンション・コントロール方式」を採用していました。これは,テープ
の巻き径とリール台の回転数に相互関係があることを利用し,リール台の回転数に反比例したトルクを発生させ,テ
ープに一定のテンションを与える制御を行うもので,これにより,リールサイズによるスイッチの切換えなしに,ほぼ一
定のテープテンションが得られるようになっていました。走行系のコントロールには,ICロジック方式を採用し,軽快で俊敏な操作性を可能としていました。ICロジックにより
制御されることで,ストローク0.8mm押圧100gの軽快なスイッチ操作と,テープを傷めることなくFFまたはREWか
らいきなりPLAYボタンを押してもわずか0.7秒での動作切換が実現されていました。ヘッドブロックは精密ダイカスト製で,2TR再生ヘッド,2TR録音ヘッドと4TR再生ヘッド,2TR消去ヘッドが左右に
振り分けて取り付けられていました。「アイソレートループ方式」の構造上ヘッドがギャップ面を横に向けて縦に並ぶ
ため,ヘッドを直視しやすく,クリーニングもしやすくなっていました。録音ヘッドと再生ヘッドは高硬度パーマロイヘッ
ド,消去ヘッドはダブルギャップフェライトヘッドを搭載していました。また,このヘッドブロックは3本のネジを外すだけ
で容易に取り外し交換ができるようになっていました。
当時は,オープンリールデッキで生録(これも死語?)をするマニアも多かったことから,マイクアンプにも配慮がなさ
れていました。ローノイズのパーツを使用した3段直結の回路構成を持った本格的なマイクアンプが搭載され,SN比
とリニアリティを高めた設計により,57dBのダイナミックマージン(−72dBの定格入力に対して)を実現し,さらに2段
切替(0dB/−20dB)のアッテネーターが設けられ,−20dBのポジションでは,77dBのマージンが得られるようにな
っていました。また,FETとトランジスタによるOPアンプ構成のミキシングアンプを搭載し,MIC,LINE間の相互干渉
を最低限に抑えていました。
録音アンプは出力段にSEPP回路を採用し,基準録音レベル(0VU)に対して28.5dBにも及ぶマージンを確保し,
歪率についても,当時のプロ用機を上回るほどの0.8%という特性を実現していました。また,録音特性向上のため
に,バイアス発振器に専用の定電圧回路を採用していました。
また,電子整流子方式のモーターによるDDを採用したことから消費電力が当時の通常のオープンリールデッキの約
1/2〜1/3の55Wに抑えられ,別売のバッテリーパックにより単1乾電池40本で2時間(!)の屋外での生録も
可能となっていました。機能的には,オープンリールデッキでは,直接テープを切ったりつないだりして編集することが可能で,また多かった
ことから,編集関連の機能が備えられていました。リバーシングローラーに編集用のポイントとエディッテトダイヤルを
備え,ポイント間の距離を再生ヘッドとテープマーカーの距離に一致させることで,音を出しながらのFF,REW,及び
リールの手回しが可能なキューレバーとの併用で目的に位置を正確にさがし,目的の位置に来たところでテープをマ
ーカーに押しつけるだけでテープの切断ポイントが正確に明示されるようになっていました。そのほかに,タイマーと接
続するだけでタイマー録音が容易にできるタイマー録音機構,±6%のピッチコントロール機能等が備えられていまし
た。テープカウンターは,メカニカル式の時間表示で,リバーシングローラーによりベルト駆動されるようになっており,
録音・再生時には±1%の誤差という正確さで分秒表示できるようになっていました。
以上のように優れた性能と機能性を誇ったRS-1500Uは,一躍テクニクスのオープンリールデッキの実力と名声を引
き上げた名機でした。この後,4TR38cmのRS-1506U,4TR38cmオートリバースのRS-1700U,2TR76cmの
RS-1800などのバリエーションを加えつつロングランモデルとなりました。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
目覚ましい
オーディオ機器の進歩のなかで
2トラック・38センチの名に
ふさわしい高性能を求めて・・・
いま,限りなく理想に近い
録再性能と操作性が誕生しました。
まったく新しい構想による
アイソレートループ方式
理想のテープ走行を求めて,
いまテープの流れは変わった。
新時代のトランスポート
「アイソレートループ」方式を採用。
◎理想のテープ走行を求めて生まれたエレクトロニクス技術の粋を
アイソレートループ方式
◎シングルキャプスタン,2ピンチローラーと
リバーシングローラーが構成する
クローズドループ方式
●ダブルキャプスタン方式のウィークポイントを除いた
シングルキャプスタン方式
◎34mmもの大直径キャプスタンが
超低速回転
◎安定したヘッドタッチを実現した
2ピンチローラー
◎走行性能の高さを物語るストロボ採用
テープ走行を安定させる
リバーシングローラー
●LED照明による正確なストロボ
●4秒間に1コマの移動は0.10%の速度変動を示します。
◎ワウ・フラッタ0.018%WRMS(38cm/sec)
速度偏差±0.10%
すばらしい走行性能を実現しています。
◎エアダンパを備えた
ショートストロークのテンションローラで
すばやい立ち上がり
◎キャプスタン,リール台に直結した走行性能の高さにあった,
一体形D.D駆動ブロックを3個使用
◎クォーツ・ロックコントロールによる
キャプスタンダイレクト駆動
●38cm/sec,19cm/sec,9.5cm/secの3通りに
スピード切換え可能です
◎適切な速度を保って早送り巻戻しが
できるリール台ダイレクト駆動
◎3つの一体形D.D駆動ブロックは
精密アルミ合金ダイカストシャーシに装備
◎テープテンションを一定に保つ
エレクトロニック・テンション・コントロール
◎ICロジックにより操作性を一新した
走行コントロールシステム
●FFから,いきなりSTOPボタンを押しても
OKのエレクトロブレーキ
●STOP→PLAY0.7秒のクイックプレイ
◎精密ダイカスト・ブロックにピッチコントロール・エディット機能
4個のヘッドをマウント・・・
プラグイン方式のヘッドブロック
●4ヘッド構成
●ヘッド・クリーニングやテープの装着も極めて容易
●プラグ・イン・タイプだから将来に楽しみを残します
◎77dBのダイナミックマージンを持つ
マイクアンプ
◎MIC,LINEの相互干渉のない
ミキシングアンプ
◎+28.5dBの余裕を備えた録音アンプ
◎幅広いテープの種類に対応できる
バイアス・イコライザ各3段切換え
◎リバーシングローラーを巧みに利用した
エディット機能
◎±6%のピッチコントロールが可能
◎アダプタ不要のタイマー録音機構
◎曲の頭出し,編集に便利な
キューレバー装備
◎ダブルスケール大型レベルメータ
◎屋外録音をDC電源で行えます
◎カウンタは指示誤差±1%以内の
時間表示
形式 | アイソレートループD.D方式ステレオテープデッキ |
トランスポート | アイソレートループ方式 |
トラック形式 | 2トラック2チャンネル(録音・再生)
4トラック2チャンネル(再生) |
ヘッド | 録音:高硬度パーマロイ
再生:高硬度パーマロイ×2 消去:ダブルギャップフェライト |
駆動部 | キャプスタン用:クォーツロック電子整流子方式・ダイレクトドライブ駆動方式
リール用:電子整流子方式・ダイレクトドライブ駆動方式×2 |
録音バイアス方式 | 交流バイアス方式 |
消去方式 | 交流消去方式 |
テープ速度 | 38cm/sec,19cm/sec,9.5cm/sec |
周波数特性 | 38cm/sec:30〜30,000Hz±3dB
19cm/sec:30〜25,000Hz±3dB |
総合S/N | 60dB(JIS) |
ワウ・フラッタ | 38cm/sec:0.018%WRMS
19cm/sec:0.04%WRMS |
歪率 | 0.8% |
チャンネルセパレーション | 50dB |
テープ速度偏差 | ±0.10%以下 |
テープ速度変動幅 | 0.05%以下 |
使用リール径 | 最大26形(10号) |
早巻き時間 | 26形(10号)100%テープにて約2分30秒 |
消費電力 | 55W |
タイムカウンタ精度 | ±1%以下(38cm/sec再生) |
入力 | MIC:最大入力感度 0.25mV(−72dB)
適合MICインピーダンス 400Ω〜20kΩ LINE IN:最大入力感度 60mV(−24dB) |
出力 | LINE OUT:基準出力レベル 420mV(−7.5dB)
負荷インピーダンス 22kΩ以上 HEAD PHONES:8Ω 60mV(基準出力レベル時) THROUGH OUT:LINE INと同じ |
電源 | AC100V 50/60Hz,DC24V |
使用半導体 | トランジスタ248石,FET6石,IC 10石,ダイオード75石,
発光ダイオード1石 |
重量 | 23kg |
外形寸法 | 456W×443H×257Dmm |
※本ページに掲載したRS-1500Uの写真,仕様表等は1976年8月のTechnics
のカタログより抜粋したもので,松下電器産業株式会社に著作権があります。した
がって,これらの写真等を無断で転載・引用等することは法律で禁じられています
のでご注意ください。※本ページを制作するにあたり,medic様より貴重な資料のご提供をいただきました。
ご協力ありがとうございました。
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