Technics RS-646D
STEREO CASSETTE DECK ¥65,800
1976年に,テクニクス(現パナソニック)が発売した可搬型カセットデッキ。1960年代に
登場したコンパクトカセットは,本来会話記録用程度であったものが,日本のメーカーが中
心となって性能を高める努力がなされ,オーディオ用カセットデッキとしてオーディオシステ
ムの中に組み入れられていきました。その一方,カセットテープのコンパクトさや扱いやす
さを生かした可搬型カセットデッキが登場してきました。この分野ではソニーが「デンスケ」
の商標のもと圧倒的な強さを示していましたが,テクニクスも高い技術力を生かして実力
派のモデルを作り出していました。そうした中の1台がD-46(RS-646D)でした。



D-46は,コンポーネントデッキの本格的なメカニズムをDCドライブも可能として搭載した,
本格的オーディオカセットデッキのポータブル版として作られていました。通常はステレオシ
ステムの中のカセットデッキとして,そして,生録用のデッキとしての機動性を兼ね備えると
いうもので,上級機のD-86ほどの小型化・軽量はされていませんでしたが,専用メカニズ
ムではなく,通常のカセットデッキの延長線上の設計とすることで,コストパフォーマンスが
高められていました。


メカニズムは,テクニクスのコンポーネント用カセットデッキで開発してきたメカニズムを
ポータブルタイプ用に発展させたもので,しっかりした基本性能を確保していました。駆
動モーターには電子制御型のDCサーボモーターが搭載され,フライホイールには慣性
質量が大きく,ダイナミックバランス精度を従来の2倍以上にとった精密仕上げのものを
用い,精度の高い平ベルトで駆動するという走行系になっていました。ワウ・フラッター特
性も0.08%(WRMS)を実現していました。
REC・PLAY・FF・REWすべての動作で,テープが終端に達するとメカニズムが自動的
に解除されSTOP状態に復帰するフルオートストップ機構も装備されていました。このス
トップ動作を,リール台が停止すると,モータの回転力を操作ボタンの解除に振り向ける
巧妙な機構となっていました。
さらに,フルオートストップ機構に加え,メカニズムの解除音を発生させないようにするた
めの「サイレントストップ機構」を装備していました。サイレントストップの操作レバーをON
にしておくと,テープ終端に達するとモーターの回転は停止しても操作ボタンは解除され
ずインジケーターで知らせるというもので,マイクで録音する生録において,自分自身あ
るいは周りの録音者に,時には邪魔になる操作ボタンの解除音を避けようとする機構で
した。



ヘッドは2ヘッド構成で,録再ヘッドには,自社開発のLH(Long Life High Density)
ヘッドを採用していました。このLHヘッドは,硬質パーマロイを用いて,上級機の86Dの
HPF(ホットプレスフェライト)ヘッドに次ぐ高硬度・長寿命(従来のパーマロイヘッドの約
10倍)を誇るとともに,透磁率にすぐれ,高感度であるという特徴を持っていました。これ
により,当時,高域特性等,高性能ながらヘッド摩耗等の問題もあるテープとして登場し
ていたクロームテープにもしっかりと対応していました。消去ヘッドには,耐摩耗性にすぐ
れたフェライト構成で,消去効率の高いダブルギャップフェライト型を採用し,クローム
テープにも対応していました。

アンプ部は,生録音を考慮してマイクアンプの充実を図りつつ,雑音の追放とリニアリティ
の改善,バッテリー駆動の場合の録音時間の確保等を実現するために,ICを採用する
など様々な対策が講じられていました。

録音レベル調整ボリュームは,L・R独立型となっていましたが,L・Rのツマミの間にある
ロックボタンを押して右に回すと,どちらか一方のつまみを回すだけで連動させてレベル
調整ができるようになるレベルロック機虚空が搭載されていました。この機構は,フェー
ドイン・フェードアウトのときも片手での操作でL・R同時の調整を可能にしていました。



録音入力は,セレクタによってラインとマイク,20dBのアッテネーターが挿入されるマイ
クポジションに切り換えられるようになっていました。アッテネーターによりマイク入力時
にこのポジションでは72dBのダイナミックレンジが確保され,また,ラインポジションに
することで,増幅度の高いマイクアンプをバイパスさせることができ,ライン録音時のSN
比の向上とダイナミックレンジの改善が実現されていました。
さらに,入力信号のピーク成分をカットし,過大入力による歪の発生を防止するリミッタ
回路が搭載されていました。アタックタイム,リカバリータイムを慎重に検討することで,
リミッタスイッチをONにした状態でも,自然さを損なわないような特性となっていました。

テープセレクターは,バイアスとイコライザー独立型で,バイアスはHIGH/LOWの2段
イコライザーは120μs/70μsの2段で,これらを組み合わせることで,当時発売され
ていたほとんどのテープに対応可能となっていました。(まだメタルテープは登場してい
ませんでした。)
ノイズリダクションとして,中高域のヒスノイズを約1/3(5kHz以上で10dB改善)に低
減するドルビーNRが搭載されていました。ONにするとMPXフィルターが挿入されるよ
うになっており,FMステレオエアチェックにも対応していました。
さらに,モニター用として,ヘッドホン端子に加えて,出力0.8W,10cm口径のモニター
スピーカーも装備されていました。

可搬型カセットデッキとして,AC・DCいずれの電源でも使用できるようになっており,
カーバッテリーからの電源でも動作させることができる3電源方式となっていました。
乾電池使用時には,単1型8本使用で,連続20時間以上の録音が可能となっていま
した。
L・R独立の丸形の針式レベルメーターには,押しボタンにより,必要なときだけ点灯さ
せるためのメーターライト,電池の消耗状態を指示するバッテリーチェックの機能も備
えられ,乾電池による駆動を考慮した設計となっていました。

以上のように,46D(RS-646D)は,本格的オーディオカセットデッキをベースに可搬
型としても使えるように改良を施したカセットデッキとして,すぐれた完成度とコストパ
フォーマンスを実現していました。テクニクスの総合的な技術力が生かされた1台だっ
たと思います。また,テクニクスも総合メーカーとして,多くのオプション製品を発売し
使う楽しさを演出しており,この写真を見てわくわくしたことを思い出します。




以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



ライブレコーディングへの
熱い要望に応えた
テクニクスの解答。
コンポデッキをポータブル化した
キャリングデッキ。

どこへでも気軽に
連れていけるもう1台。
システムの一員にぜひ加えたい
キャリングデッキです。

ユニークなサイレントストップ
レベルロック機構をはじめ
豊富な操作機能を
徹底して前面集中。
高性能コンポデッキの
メカニズム・電気回路が
すばらしいライブ録音を
可能にします。

◎ワウ・フラッタ0.08%(W.R.M.S.)
 基本性能をしっかり押えています。
◎モータの回転を利用した便利な
 フルオートストップ機構を装備
◎録音時間を大切にする
 サイレントストップ機構を採用
◎フェードイン,フェードアウトに便利
 なレベルロック機構を採用
◎良質のプログラムソースを創れる
 ドルビーNR回路内蔵
◎リニアリティのすぐれたライブ録音
 を可能にするマイクアッテネータ
◎過大入力時に歪の少ない録音が
 可能なリミッタ回路内蔵
◎幅広いテープの種類に対応する
 BIAS,EQ独立2段のセレクタ
◎高硬度で録再特性のすぐれた
 LHヘッドを採用しています
◎生録音に強い高リニアリティ
 低雑音を追求したアンプ部
◎バッテリーチェックスイッチ装備
◎メータライトスイッチ採用
◎電灯線,電池,カーバッテリーで
 駆動できる3電源方式
◎口径10cmのモニタスピーカと
 出力0.8Wモニタアンプを内蔵




●RS-646D定格●

電源 AC100V,50/60Hz
またはDC12V(単1型乾電池8個)
カーバッテリ-12V
(アダプタRP-957使用)
消費電力 約9W
使用トランジスタ 39石 IC:2石
ダイオード 22石
録音バイアス方式 交流バイアス方式 85kHz
消去方式 交流消去
トラック方式 4トラック2チャンネルステレオ
テープ速度 4.8cm/秒
SN比 50dB
DOLBY IN 10dB改善(5kHz以上)
周波数特性 30~14,000Hz(Normal)
30~16,000Hz(CrO2
ワウ・フラッタ 0.08%W.R.M.S.
入力 MIC-72dB(0.25mV)
適合マイクインピーダンス(400Ω~10kΩ)
LINE IN-24dB(60mV)
出力 LINE OUT420mV
負荷インピーダンス50kΩ以上
HEADPHONES 8Ω
スピーカ0.8W 10cmPMダイナミック型
録再DINコネクタ REC/PB:EIAJ規格 
乾電池寿命 連続録音 約20時間(ネオハイトップ常温)
外形寸法 363W×106H×280Dmm
重量 5.7kg(乾電池含む)
付属品 ショルダーベルト×1
電源コード×1
乾電池(ナショナル ネオハイトップSUM-1(N)×8

※本ページに掲載したRS-646Dの写真,仕様表等は1976年
11月のTechnicsのカタログより抜粋したもので,パナソニック
株式会社に著作権があります。したがって,これらの写真等を無
断で転載・引用等することは法律で禁じられていますのでご注意
ください。

   
 
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