Technics RS-AZ7
STEREO CASSETTE DECK ¥59,800
1995年にテクニクスが発売したカセットデッキ。中級機ですが,他社には見られない非常に特徴的
なヘッド技術を導入して開発された独創的な1台でした。
RS-AZ7の最大の特徴は,再生ヘッドとして搭載された新開発のAmorphous-Z(アモルファス-Z)
ヘッドにありました。このヘッドは,従来のコイル方式とは全く異なるMR素子(磁気抵抗変換素子)を
用いた世界で初のアナログ用薄膜ヘッドで,DCC(デジタル・コンパクト・カセット)用に開発された技
術を生かしたものでした。ウェハー基板上に薄膜技術で,MR素子と1μm厚の高透磁率のアモルフ
ァス層を磁気ヨークとして構成し,ヘッドギャップ幅0.5μmとしていました。
MR素子は,磁気の大きさそのものを抵抗値に変換するため,原理的には直流領域からの再生も可能
となるほどで,全帯域にわたって感度も高く,インピーダンスも低いため,高S/Nが実現されていました。
また,通常のコイル方式のヘッドに比べて低域の出力も大きく,補正量も少なくてすむため,アンプ部に
おいても高S/N比を実現していました。
従来のヘッドで見られた低域干渉による周波数特性のうねり(コンター効果)も,MR素子を使用したアモ
ルファス-Zヘッドでは原理的にないため,低域におけるすぐれた特性を実現していました。ヘッドギャップ
0.5μmの狭ギャップにより高域特性も向上し,さらに,MR素子特有のバルクハウゼンノイズも大幅に
低減され,再生信号の一部をMR素子に電気・磁気フィードバックをかけることでさらなる低歪み化が図ら
れていました。
この薄膜ヘッドの検出部は厚さ数μm,奥行き50μmと極めて小さくチャンネル間クロストークは極小に
抑えられていました。また,録音同時モニター時に起きる録音ヘッドと再生ヘッド間の干渉も大幅に低減
されていました。さらに,薄膜再生ヘッドのトラック幅を従来のヘッドより小さくすることで,互換性による
レベル変動を抑え,アジマスずれによる高域特性の劣化も改善されていました。
また,Amorphous-Zヘッドの特性をしっかり生かすために,再生ヘッドからの出力を再生アンプに直結
するプレイ・ダイレクトポジションが装備されていました。このポジションはNR-off時のみ使用可能ですが
より低ノイズでクオリティの高い再生を可能としていました。
録音ヘッドはオーソドックスなパーマロイヘッドで,Amorphous-Z再生ヘッドとコンビネーションヘッドを
構成していました。消去ヘッドはダブルギャップフェライトヘッドが搭載されていました。
録音アンプには,「リニア・マグネフィールド・クラスAA回路」が搭載されていました。これは,同社のセパ
レートアンプ
SE-A100で開発されたクラスAA方式を録音アンプに応用したもので,電圧制御アンプと電
流供給アンプによって録音アンプが構成され,ヘッドで発生する信号磁界は,ゲイン,位相ともに電圧制
御アンプの出力信号によって制御されることで,磁界の波形応答が改善されていました。また,バイアス
周波数は210kHzとハイバイアスの設定になっていました。
センス電流電源,バイアス電源には,テクニクス自慢の「バーチャル・バッテリー・オペレーション回路」が
採用されていました。これは,FET素子を電源回路に組み込むことにより,基準電位発生回路をコンデン
サーチャージに使用し,音楽再生時には,回路を遮断して,信号への電源ノイズ混入を防ぐというもので
バッテリー駆動に匹敵する音質が得られるということで,大幅なノイズ低減を実現していました。
テープの特性差に応じるためにA.T.C.(オート・テープ・キャリブレーション)が搭載されていました。これは
使用するテープの特性を400Hz,3kHz,10kHz,15kHzの4ポイントで検出し,その結果に応じた バ
イアス,録音感度の64ステップの微調整によって,L/R独立で補正を行うようになっていました。
ノイズリダクションとして,ドルビーB,Cが搭載され,実効バイアスを適切にコントロールして,ドルビー使
用時の高域特性を改善するドルビーHX-PROも搭載されていました。
機能的にはオーソドックスで,C-60テープを約35秒で巻き取れる最高70倍速の超高速FF/REW,カセット
ドアのパワーローディング,ワイヤレスリモコンが装備されていました。
フロントパネルには,高比重のハイブリッド素材が採用され,振動を排除するT.H.C.B.(テクニクス・ハイブリ
ッドコンストラクション・ベース)が採用されていました。このT.H.C.B.は,硬質ラバーベースを鋼板で挟み込ん
だ3層構造のシャーシで,重量バランスの優れたセンターマウントメカニズムをしっかり支えて振動を吸収し
内部メカの安定走行を支えていました。
以上のように,RS-AZ7は,見た目はオーソドックスな中級機ですが,優れたヘッドにより,高域まですっき
りと伸びたレンジの広い音を実現し,知る人ぞ知る高性能デッキでした。