Technics RS-M255X
STEREO CASSETTE DECK ¥59,800
1981年に,テクニクス(現パナソニック)が発売したカセットデッキ。1980年代に入り,598といわれる
価格帯のカセットデッキのエントリークラスに投入された主力モデルでした。次第に各社が上級機に採
用されていた技術を投入して実力派のモデルを投入していったのがこのクラスで,そうした中,テクニク
スが発売した598クラスの主力モデルがRS-M255Xでした。
RS-M255Xの最大の特徴は,ノイズリダクションとしてdbxを搭載していたことでした。この当時,各社
が多くのカセットデッキに標準装備されていたドルビー(Bタイプ)以外のより効果の大きなノイズリダク
ションを開発あるいは導入し,新ノイズリダクションブームともいえる流れがありました。各ノイズリダクショ
ンの頭文字をとってABCDなどと呼ばれていたこともありました。ちなみにA(adres・東芝,ANRS・ビ
クター),B(ドルビーB),C(ドルビーC,コンパンダー・Lo-D,High-com・ナカミチ),(dbx・ティアック
テクニクス・ヤマハ,super-D・オットー)などがありました。そうした中,テクニクスは,dbxを積極的に導
入していました。
dbxは,アメリカ・dbx社が開発した圧縮伸張方式のノイズリダクションシステムで,もともと業務用に使わ
れていました。録音時に1/2に圧縮し,再生時に2倍に伸張して戻すという単純圧縮伸張であり,周波
数帯による動作の違いもなく,レベル調整も必要のない方式で,30dB以上のノイズ低減効果をもち,圧
縮して録音することから,カセットテープにおいても100dB以上のダイナミックレンジを可能としました。実
際,RS-M255Xにおいても,91dB以上のSN比と110dB以上というダイナミックレンジが実現されてい
ました。
RS-M255Xのdbxには,discポジションが設けられていました。当時,dbxでダイナミックレンジを1/2
に圧縮してカッティングされたdbxエンコーデッドディスクが発売されており,その再生に使うものでした。
dbxエンコーデッドディスクは,通常のレコードと比較して音溝の振幅も1/2で,カートリッジのトラッキン
グエラーも少なくなり,SN比にすぐれたダイナミックレンジも100dB以上が確保された再生が可能となっ
ていました。
テクニクスが,エントリークラスのカセットデッキにdbxを搭載したのは,前年発売のRS-M240Xが最初
でしたが,RS-M255Xは,同価格で大幅に内容を強化して登場し,よりコストパフォーマンスが高めら
れていました。
走行系は,ワンウェイ,シングルキャプスタンのオーソドックスなものながら,RS-M240Xが1モーターで
このモーターの回転力を使ってメカニズム駆動も行うソフトムメカニズムであったのに対し,2モーター構
成が採用されていました。キャプスタン駆動用に電子制御DCモーター,リール用にDCモーターが搭載さ
れ,ワウ・フラッター0.038%の高精度なテープ走行が実現されていました。
操作系は,マイクロプロセッサーによるコンピュータロジック方式が採用され,軽快なフェザータッチの操
作性が実現されていました。正確な動作だけでなく,FF,REWからダイレクトにPLAYに移れるなど,メ
カニズムに負担をかけずに,素早く正確な動作が可能となっていました。さらに,メモリーリピートボタンと
テープカウンタを組み合わせ,(1)テープ初端から終端まで,(2)初端から任意に設定した「000」ポジシ
ョンまで,(3)任意の「000」のポジションから終端までの3タイプのリピートプレイが可能となっていまし
た。また,デジタルカウンタとFF,REWボタンの組み合わせで,前後20曲もの頭出し選曲も可能となっ
ていました。
録再ヘッドは,周波数特性にすぐれた,硬質パーマロイ系のMXヘッドが搭載されていました。また,消
去ヘッドには,消去効率の高いダブルギャップフェライトヘッドが搭載されていました。
再生アンプには,高いリニアリティを誇るアンプが搭載され,また,ヘッドホン専用にもハイ・ゲイン・アン
プが搭載されるなど,アンプ系もしっかりと充実が図られていました。
表示系,機能面の充実も図られていました。レベルメーターは,RS-M240Xが針式のアナログメー
ターであったのに対し,多機能なFLディスプレイによるレベルメーターが搭載されていました。dbxの広
いダイナミックレンジに対応した−40dB〜+18dBというワイドな指示範囲と3色に分割された表示を
機能をもち,dbx INにすると,+8dB以上が赤色に点灯して対応するようになっていました。また,オー
トリセットピークホールド機能が標準で装備されていました。
テープカウンタも3桁メカニカル式であったものが4桁のデジタルカウンタにグレードアップされていました。
4ウェイデジタルカウンタとと称するコンピュータ制御のデジタルカウンタで,カウンタモードセレクタボタン
の操作で,残量リアルタイム,レックミュート経過タイム,3桁テープカウント,飛び越し指示曲の4種類の
表示ができる多機能なカウンタとなっていました。
テープセレクタは,Normal,CrO,Metalの3ポジションで,オートテープセレクタとなっていました。ノイ
ズリダクションは,dbxに加え,ドルビー(Bタイプ)も装備されていました。入力は,LINE端子に加え,MIC
端子も装備され,マイクプラグを入れると,自動的にマイク入力に切り換わる設計となっていました。
以上のように,RS-M255Xは,テクニクスのカセットデッキのエントリークラスの主力機として,力の入っ
た設計となっていました。前モデルRS-M240Xより,機能的にも性能的にも大きく強化され,コストパフォ
ーマンスにすぐれた1台となっていました。「IMPACT255X」の名の通り,同社の戦略的モデルであった
ともいえると思います。dbxの威力も絶大で,ノイズの少ないすっきりとした音質が特徴でした。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



メカニズムはエレクトロニクスと融合した。

                       インパクト
未来からの衝撃。メカトロニクスデッキ。
かつてない音質が,機能が,操作性が,
テープオーディオに新世紀をひらく。

1.実に110dBのダイナミックレンジを実現,
 dbx NRシステム。音楽の全貌を録りつくす。
2.コンピュータが20曲の中から指示曲を選び出し,
 演奏を始める20曲飛び越し選曲。
3.高い精度を誇る4ウェイデジタルカウンタ。
 あなたはいまや,数字でデッキと対話する。
4.dbxのすぐれた録音性能と呼応,
 −40dB〜+18dBピークホールド付き3色FLディスプレイ。
5.2モータ・コンピュータロジック。軽快なコントロールで
 メカニズムは確実に動作する。




●RS-M255Xの定格●

トラック方式 コンパクトカセットステレオ
ヘッド 消去(ダブルギャップフェライト)×1
録音/再生(MX)×1
モータ キャプスタンモータ(電子制御DCモータ)×1
リールモータ×1
ワウ・フラッタ 0.038%(WRMS) ±0.09%(W.Peak,EIAJ)
周波数特性 ノーマル(XD):20〜18,000Hz,35〜15,000Hz±3dB(EIAJ)
CrO(XAU):20〜19,000Hz,35〜16,000Hz±3dB(EIAJ)
メタル(MX) :20〜20,000Hz,35〜17,000Hz±3dB(EIAJ)
ダイナミックレンジ 110dB(dbx IN,1kHz,XAUテープ)
SN比 58dB(XAUテープ,WTD,1kHz,3%三次歪)
入力端子 マイク:0.25mV(適合インピーダンス400Ω〜10kΩ)
ライン:60mV(入力インピーダンス47kΩ)
出力端子 ライン:400mV(出力インピーダンス1.5kΩ)
ヘッドホン:2mW/8Ω(適合インピーダンス8Ω〜500Ω)
電源 100V AC50/60Hz
消費電力 AC18W
外形寸法 430W×109H×331Dmm(ツマミ,ゴム足を含む)
重量 約5.9kg
※本ページに掲載したRS-M255Xの写真,仕様表等は1981年
 11月のTechnicsのカタログより抜粋したもので,パナソニック株
 式会社に著作権があります。したがって,これらの写真等を無断
 で転載・引用等することは法律で禁じられていますのでご注意く
 ださい。

   
 
★メニューにもどる         
 
 

★テープデッキPART8にもどる
 

現在もご使用中の方,また,かつて使っていた方。あるいは,思い出や印象のある方
そのほか,ご意見ご感想などをお寄せください。


メールはこちらへk-nisi@niji.or.jp
inserted by FC2 system