Technics RS-M273
STEREO CASSETTE DECK ¥79,800
1981年に,テクニクス(現パナソニック)が発売したカセットデッキ。この年,テクニクスは,メカ
ニズムの技術とエレクトロニクスの技術の両面からより高いバランスでまとめたことを特長とした
「IMPACT」の名称を冠したカセットデッキのシリーズを展開しました。598クラスながら2モーター
フルロジックメカニズムとdbxを搭載したRS-M255Xが発売されていましたが,その上級機とし
て発売されていたのがRS-M273でした。

ヘッドは,コンビネーション録再ヘッドによる3ヘッド構成で,録再ヘッドには,SXセンダストコン
ビネーションヘッドが採用されていました。テクニクスがいち早く開発したラミネートセンダストを
ヘッド素材に導入したもので,周波数特性,歪特性にすぐれた電流損失の少ないこの素材を
録音/再生それぞれ独立した最適のギャップに作り上げ,ワンケースに2つのヘッドを収納した
コンビネーション形式として,ヘッド相互間の上下のズレを抑え,アジマス特性においてもすぐ
れた特性を確保していました。
消去ヘッドには,飽和磁束密度が高く,高周波損失の少ないフェライト素材で作られたダブル
ギャップフェライトヘッドが搭載され,保磁力の高いメタルテープにも対応していました。また,
ダブルキャプスタンの走行系に対応して,ループ内配置を可能としたコンパクトな形状により
安定したヘッドタッチを実現していました。



走行系は,2モーター構成で,キャプスタン駆動用には電子回路で回転をコントロールする電子
制御DCモーター,リール駆動用にはDCモーターを搭載していました。そして,テープ送り出し側
巻き取り側にそれぞれキャプスタンを設けたダブルキャプスタン構成で,真円度0.1ミクロンとい
う精密仕上げのキャプスタンは,直径の微小差をもたせており,適度のバックテンションを巧妙
に確保して安定したヘッドタッチを実現していました。こうした高精度な走行系により,ワウ・フラッ
ター0.036%以下という安定したテープ走行を実現していました。

走行系のコントロール部は,マイクロプロセッサによるコンピュータロジック方式が採用され,操
作ボタンに軽く触れるだけで,2モーター・ダブルキャプスタンのメカニズムを正確にコントロール
できるようになっていました。正確な動作だけでなく,FF,REWからダイレクトにPLAYに移れる
など,メカニズムに負担をかけずに,素早く正確な動作が可能となっていました。
フェザータッチのロジックコントロールであることを活かし,操作ボタンは,横一列ではなく,上段
に録音系,中段に再生系,下段にストップボタンをレイアウトし,操作性を高めていました。ボタ
ンの大きさは使用頻度,操作状況を考慮して大きさ等も決定されていました。

テープカウンタは,コンピュータが制御するデジタル方式で,機械カウンタよりも高い精度と信頼
性を確保していました。回転数の検出はリール台下につけられたホール素子で信号をキャッチ
してコンピューターが演算しデジタル変換する高精度な方式となっていました。ディスプレイは
3桁の数字に4本のバーを加えた形で,バーが次々に点灯した後数字が変わる設計で,曲の
頭出し,録音中のエンド検出などが正確に行えるようになっていました。
さらに,このテープカウンタを利用して,2モード/6タイプのメモリープレイが可能となっていまし
た。メモリーボタンのrepeat位置では,(1)テープの最初から”000”までの自動繰り返し演奏
(2)”000”からエンドまでの自動繰り返し演奏(3)”000”をテープの始めにしてテープ全体の
繰り返し演奏。メモリーボタンのstop位置では,(4)最初から再生して”000”でストップ(5)最
初から早送りして”000”でストップ(6)エンドから巻き戻って”000”でストップというテーププレ
イが正確にできるようになっていました。

レベルメーターは,18セグメントの2色FLディスプレイで,ピーク値が見やすいピークホールド
表示で,-20dB~+9dBの表示が可能となっていました。
機能的には,テープセレクターは,ハーフの検出孔を検知して自動的にテープポジションをセッ
トするオートテープセレクターで,Normal,CrO2,Metalに対応し,さらにバイアスアジャスタも
装備されていました。ドルビーNRはBタイプのみで,3ヘッドデッキとして録音・再生系が独立
しているダブルドルビーとなっていました。その他,アウトプットボリューム,ヘッドホン端子も
装備されていました。また,入力はLINEに加えてフロントパネルにMIC入力が装備され,マイ
クプラグを入れると自動的にマイク入力に切り替わるようになっていました。

以上のように,RS-M273は,当時のテクニクスのカセットデッキの中級機の主力モデルとし
て,高いコストパフォーマンスを実現していました。操作性と音質のバランスがとれた設計は
テクニクスのテープデッキ技術が生かされていました。癖の少ないすっきりとした音は,テク
ニクスらしいものでした。



このころ,日本のカセットデッキの世界では,当時の標準となっていたノイズリダクションドルビー
(Bタイプ)に取って代わるノイズリダクションの主役の座を巡って多くのノイズリダクションが発売
され,競争がありました。当時各ノイズリダクションの頭文字等をとってABCD戦争と称されてい
ました。
:aders(アドレス:東芝オーレックス),ANRS(アンルス:ビクター)Super ANRS(スーパー・
 アンルス:ビクター)
:dolbyB(ドルビーB:ドルビー研究所)
:dolbyC(ドルビーC:ドルビー研究所),compander(コンパンダ:日立,NHK技研),
 HIGH-COM(ハイコム:テレフンケン),HIGH-COMⅡ(ハイコム2:ナカミチ)
:dbx(ディー・ビー・エックス:dbx社),SuperD(スーパーD:オットー)
こうした中で,ドルビーCが最もメジャーになり,dbxがそれに次いでいました。dbxは,カセット
デッキの分野では,ティアック,アカイ,ヤマハ,テクニクスなどのブランドで採用されていました。
RS-M273のカタログにも,dbxユニットRP-9024(¥59,000)を組み合わせた写真があり
当時のテクニクスの力の入れようがうかがえました。実際,このdbxユニットは,30dB以上のノ
イズ低減効果,録音飽和レベル+20dB,110dBのダイナミックレンジを可能としていました。
RP-9024は,3ヘッド録音・再生同時モニターにも対応した4プロセッサタイプで,dbxエンコー
ドされたアナログディスク再生に対応したdbxディスクポジションも内蔵されていました。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



2モーター・ロジックコントロール&3ヘッド。
メカニズムとエレクトロニクスの融合から
衝撃のハイ・フィデリティが生まれる。

IMPACT by 3HEAD
SXセンダストヘッドコンビネーションヘッド&
ダブルギャップフェライトヘッド。衝撃の
波は,まずこの3ヘッドシステムから広がる。


<コンビネーションタイプ3ヘッドシステム>
●SXセンダストコンビネーションヘッド(録/再)。
●ダブルギャップフェライトヘッド(消去)。


<3ヘッドシステムならではの録音同時モニター>
●ソース-テープモニタースイッチ。
●ハイ・リニアリティアンプ部。
●3ヘッドシステム インジケーター。


IMPACT by MECHANISM
コンピュータと直結した2モーター・ダブル
キャプスタンメカニズム。完成度の高さは
衝撃のハイ・フィデリティとなって結晶した。

<2モータ・ダブルキャプスタン ドライブ>
●2モータドライブ。
●ダブルキャプスタン。

<コンピュータロジックによるメカニズム制御>
●コンピュータロジックコントロール。
●カラーグラデーション付オペレーションボタン。
●ワイド&フラットな周波数特性。


IMPACT by FUTURE
デジタルカウンタの動きに,FLディスプ
レイの輝きに,デッキの新しいフィーチャー
を知った。衝撃は未来からやってくる。

<デジタルカウンタ連動のコンピュータプレイ>
●デジタルテープカウンタ。
●2モード/6タイプのコンピュータプレイ。

<シンプルオペレーション&充実のフィーチャー>
●オートテープセレクタ。
●18セグメント2色ピークホールドFLディスプレイ。
●ダブルドルビーNR回路。
●オートインプットセレクタ。
●アウトプットボリウム。
●タイマー録音/再生。
●リモートコントロール可能。




●RS-M273の定格●

トラック方式 コンパクトカセットステレオ
ヘッド 消去(ダブルギャップフェライト)×1
録音(SXセンダスト)・再生(SXセンダスト)/コンビネーション×1
モータ キャプスタンモータ(電子制御DCモータ)×1
リールモータ×1
ワウ・フラッタ 0.036%(WRMS) ±0.08%(W.Peak,EIAJ)
周波数特性 ノーマル(XD):20~19,000Hz,30~17,000Hz±3dB(EIAJ)
CrO(XAⅡ):20~20,000Hz,30~18,000Hz±3dB(EIAJ)
メタル(MX) :20~21,000Hz,30~19,000Hz±3dB(EIAJ)
SN比 58dB(XAⅡテープ,WTD,1kHz,3%THD)
入力端子 マイク:0.25mV(適合インピーダンス400Ω~10kΩ)
ライン:60mV(入力インピーダンス40kΩ)
出力端子 ライン:400mV(出力インピーダンス2.4kΩ)
ヘッドホン:2mW/8Ω(適合インピーダンス8Ω~600Ω)
電源 100V AC50/60Hz
消費電力 AC18W
外形寸法 430W×109H×340Dmm(ツマミ,ゴム足を含む)
重量 約6.3kg

※本ページに掲載したRS-M273の写真,仕様表等は1981年
 10月のTechnicsのカタログより抜粋したもので,パナソニック株
 式会社に著作権があります。したがって,これらの写真等を無断
 で転載・引用等することは法律で禁じられていますのでご注意く
 ださい。

   
 
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