Victor S-755
3WAY SPEAKER SYSTEM ¥65,000
1976年に,ビクターが発売したスピーカーシステム。コアキシャル(同軸型)ユニットを搭載したフロア型システム
S-777の弟機で,コストパフォーマンスが高められていました。当時,コアキシャルユニット搭載のシステム,バッ
クローディングホーン,球形の全指向性システムなど,様々なタイプのスピーカーシステムに挑戦していたビクター
の意欲が表れたスピーカーシステムの1つでした。
S-755の最大の特徴は,上述したようにコアキシャルユニットの採用でした。「フェイズ・リンク・コアキシャル・スピ
ーカー」と称するもので,位相をしっかりと考慮した設計が特徴でした。2つ以上のスピーカーユニットが同軸上に
配置されたコアキシャル・スピーカーは,音の放射位置が揃うため音像のまとまりが良く,しかもマルチウェイなら
ではのワイドレンジな特性を持たせることができるなど,多くのメリットがあり,実際,1950年代,1960年代には
数多くのコアキシャル・スピーカー・ユニットが作られていました。反面,ウーファーとトゥイーターなど同軸に配置さ
れたユニット間の干渉の問題がありました。特に,相互の干渉や混変調によってクロスオーバー周波数付近で,
音の乱れが生じやすいといわれています。当時,ビクターはコンピューターを駆使して,パルス・トレイン法,フェイ
ズ・モアレ伝送パターン測定法などの最新の測定法,解析法を用いて音の放射波形を映像化するなどして,コア
キシャル・スピーカーの解析を行い,ユニットの位置関係を精密に調整すれば,干渉のない波形合成ができること
を立証し,位相を合わせた「フェイズ・リンク・コアキシャル・スピーカー」の開発を行っていきました。
S-755では,コアキシャルの2ウェイシステムでフルレンジをカバーした上級機S-777と異なり,中域以上をコア
キシャル・スピーカーとして,指向性の低い250Hz以下の低域を大口径のウーファーでカバーするという3ウェイ
構成がとられ,フルレンジユニットにスーパートゥイーターとスーパーウーファーを上下に加えたシステムと見るこ
ともできました。
250Hz以上の中高域には,20cmスピーカーと4cmスーパートゥイーターを同軸配置したコアキシャル・スピー
カーが搭載されていました。2つのユニットの位置関係を精密に調整し,干渉のない波形合成と位相の合致を実
現した「フェイズ・リンク・コアキシャル・スピーカー」で,20cmフルレンジユニットは250Hz〜8kHzという帯域を
カバーし,音楽再生のファンダメンタルな帯域を切れ目なく再生できるようになっていました。コーン紙には,繊維
の長さが均一で強度が高く,軽量でヤング率の高い,新開発のSP-1コーンが採用されていました。
ウーファーは,38cmという大口径のコーン型で,コーン紙には,軽量でヤング率の高いSP-1コーンが採用され
ていました。このような大口径ウーファーは,周波数が高くなると分割振動を起こしやすくなるため,250Hz以下
という限られた帯域で使用することで,分割振動を起こさない正確なピストンモーションが可能となっていました。
さらに,250Hzという低いクロスオーバー周波数となると,通常のLCネットワークを用いると大きなインダクタン
スのコイルがウーファーと直列に入ることになり,そのDC抵抗が無視できないほどの大きさとなり,ダンピングを
損なうことになるため,ウーファーのハイカットは,コーン紙とボイスコイルとの結合部にコンプライアンスを設け,メ
カニカル・ハイ・フィルターとすることで行っていました。このメカニカル・フィルターの材質を慎重に選ぶことにより,
電気的なネットワークと変わらないシャープな遮断特性を実現していました。
エンクロージャーは,上級機のS-777とほぼ同じ大きさの大型のもので,バスレフ型のエンクロージャーは,フロ
ントバッフルが後方へ5度傾斜した形状となっていました。これは,通常の聴取位置に対してもっとも適当な角度
を人間工学的に割りだして設定されたもので,この形状により,エンクロージャー内部の平行面が減ることで,定
在波による周波数特性の乱れを防ぐ効果ももたらしていました。
以上のように,S-755は,中級機の価格帯ながら大型のフロア型のエンクロージャーに,大口径のウーファーや
コアキシャルユニットを搭載するなど,個性的かつコストパフォーマンスの高いスピーカーシステムでした。ビクター
が新しい方向性を求めた個性的なユニット構成だけに,音のまとめ方に難しい面もあったようで,評価が分かれる
こともあった(故長岡鉄男氏には発売当時酷評を受けたと記憶しています。)ようですが,大口径ウーファーならで
はの,スケールの大きな落ち着いた音は,音楽をゆったり聴けるビクタートーンを感じさせるものでした。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



音像実感リアル・フォーカス・サウンド。
フェイズ・リンク・コアキシャルと
38cmウーハーの3ウェイ・フロア・システム。

中音域を分割しない3ウェイ構成。

◎フェイズ・リンク・コアキシャル・スピーカー
◎メカニカル・ハイ・フィルター付き
 38cm大口径ウーハー。
◎テーパード・バッフル




●S-755型 規格●

型式 3ウェイ・バスレフ・フロア型
スピーカー・ユニット 38cmSP-1コーン
20cmフルレンジ・スピーカー+4cmフェイズ・リンク・コアキシャル
最大入力 80W(ミュージック・パワー)
再生周波数帯域 30〜20,000Hz
インピーダンス 8Ω
出力音圧レベル 93dB/W(1m)
クロスオーバー周波数 250Hz,8kHz
レベル・コントロール 定抵抗連続可変型(スーパー・ツィーター)
寸法 803H×480W×410Dmm
重量 31.5kg
※本ページに掲載したS-755の写真,仕様表等は1976年11月
 のVictorのカタログより抜粋したもので,日本ビクター株式会社に
 著作権があります。したがって,これらの写真等を無断で転載,引
 用等をすることは法律で禁じられていますのでご注意く ださい。

                        
 

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